やどりぎ

つむぎ

文字の大きさ
1 / 1

絶望から希望へ

しおりを挟む

 夢なんかなかった。希望も現実を前に儚く散ってしまった。もう望みもへったくれもありゃしない。私はクリスマスの夜、所持金六百円を握りしめてアーケードをうろついていた。

 たった今詐欺師に振られたのだ。母親が入院して手術するだの、お金を遣わない仮想通貨で良い投資話があるだの、君は見込みがあるから一流の料理教室へ通うといい、そのための紹介料だのと、眉唾な理由を捏ねて私からお金を巻き上げていった男。
 
 最後にクリスマスプレゼントのやっすいコートを受け取ると、ずっと前から思ってたんだけど俺たち相性がよくないみたいだね、とぬかしおった。

 私は好きだったのだ、こんな糞みたいな男でも。だから眉唾な話も信じた振りで金を貢いだ。

 なのに縁は金の切れ目と共にぶっちんだ。そんなのってない。死にたい。

 そうやってフラッと立ち寄ったのは怪しげなバーだった。六百円で何が飲める? ああそっか。クレカが使えるっけ。

 でも預金残高はゼロ円だった。来月どうしよう。まあいい。このうさをここで晴らしていかなきゃ私ほんと死んでしまう。



 あとは記憶がない。どう飲んでどう帰ったのか。気づけば自宅の玄関で寝ていた。

 目が覚めた。シャワーでも浴びるか。そう思って服を脱ぐ。

「???!!!」

 おへそに木が生えていた。何か妙なものを食べたのか、それか種を飲んじゃったのか。緑でマリモみたいなこんもりした木がおへそからにょきっとこんにちは。

「わー、なんだこれ」

 二日酔いでぐらんぐらんする頭を抱えた私はこの状況を面白がるしかなかったのだ。



 だがこの木によって私の生活は一変した。調べてみると木の種類はやどりぎだという。あー、クリスマスに飾るやつね。そうである。だがこいつはとんでもない特性を秘めていた。宿主の養分をすいとるのである。え、え、ちょっと待って。すいとるの? 飯代は? 私はとても焦っていた。なんせ腹が尋常なくすくのである。

 昨日のアーケードにまたいった。腹は極限まで減っていた。

「あ、そうだ。食べ放題」

 焼肉のチェーン店へと入店する。女一人で悪いかゴルァ。

「ご注文をお伺いします」

 良さげな店員さんが来てくれた、と、メニューいっぱいにある写真に目がとまる。

「韓国風冷麺チャレンジ盛、二十分で食べ切れたら賞金二千円」

「あ、あの、すみません、チャレンジ盛ってできますか?」

「はい、かしこまりました」

 なんかいける。今日の私なら食べられる。だって栄養泥棒がおヘソにいるんだもの。

 そうして運ばれてきたのはどでかい銀色の器にもりもりの冷麺。肉厚なチャーシューに錦糸卵。

「ようい、スタート」

 つるつると喉越しが爽やかだった。うまい。韓国風だからキムチも薬味もなんかうまい。

 そして私は見事十五分で食べきり二千円を手にしたのだった。へそのやどりぎをちらりとみてみた。幾ばくか成長しているように見えた。そこで剪定しておいた。

 ここからの私は水を得た魚。大食いチャレンジメニューをやっている店を片っぱしから回っていった。結果は連勝、気持ち良いくらいだった。

 私はこの波に乗っかって今流行の動画投稿サイトで大食いを披露することにした。店の宣伝にもなるからと、広告料までいただいた。PVは思いの外伸びて毎月の小遣いが稼げるようになったのだ。やどりぎ様々である。

 こうして店を回っているうちに、いつしか私の評判も回るようになっていった。

「鈴木さんはすごく綺麗に食べるよね」

「この業界じゃ多い過食症でもないみたいだし」

「撮影後すぐにトイレで吐く人もいるけど鈴木さんは違うよね。一体どうやって太らないでいるの?」

「秘密を教えて」

 教えなーい!絶対に言いたく無かった。おへそにやどりぎを飼っていることは。やどりぎは私が食べたぶんだけ成長して葉を繁らせていた。

 剪定しても剪定しても丸いマリモのような塊はおへそから外れない。

 だが、うまいこと行く人生は続かない。動画をみる人々からの欲求はだんだんエスカレートしていった。

 六キロだったカレーが二十キロのカツカレーになった。コメント欄では心配の声がちらほらあがりはじめた。

 おへそのやどりぎは成長する速度を早めた。まるまると肥えた緑の葉っぱについには枝が伸びてきた。

 隠し通せない。私は焦り始めていた。しかしまた今夜も食べたい。初めて行った今では常連の焼肉屋ののれんをくぐり食べ放題メニューを注文した。

 今夜はそういえばクリスマス。やどりぎの一歳の誕生日ではないか。

 満腹になるまで食べた。きわきわ、ぎりぎりまで食べた。おへそがなにやら蠢いている。どうしたんだろう、やどりぎ、元気かい?

 そう思っておへそに手を触れた瞬間、ポンッと弾ける音がして、丸っこいやどりぎが取れてしまった。

 やどりぎはコロコロ転がると、例の感じのいい店員さんの足元へ。

「すみません」

 店員さんは妙ちくりんな顔をしていた。やどりぎをひろうとしばらくじっと眺めたが

「すみませんお姉さん、なんだかとても変なことを言いますが、あなたととてもキスしたい気分です」

 僕はおかしいな、どうしてだと悩む店員さん。私は心底驚いた。こんなことってある?ザ・クリスマスマジック!

「焼肉味でよければどうぞ」

 店員さんはとても嬉しげだった。

「では失礼して。ムチュー」

 魔法のやどりぎはクリスマスの日に恋人がその下でキスをするという伝説のパワーを発揮したのだ。



 私は少し太ってしまった。

 次の年のクリスマス、私のお腹の中には新たな栄養泥棒が宿りましたとさ。めでたしめでたし。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...