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絶望から希望へ
しおりを挟む夢なんかなかった。希望も現実を前に儚く散ってしまった。もう望みもへったくれもありゃしない。私はクリスマスの夜、所持金六百円を握りしめてアーケードをうろついていた。
たった今詐欺師に振られたのだ。母親が入院して手術するだの、お金を遣わない仮想通貨で良い投資話があるだの、君は見込みがあるから一流の料理教室へ通うといい、そのための紹介料だのと、眉唾な理由を捏ねて私からお金を巻き上げていった男。
最後にクリスマスプレゼントのやっすいコートを受け取ると、ずっと前から思ってたんだけど俺たち相性がよくないみたいだね、とぬかしおった。
私は好きだったのだ、こんな糞みたいな男でも。だから眉唾な話も信じた振りで金を貢いだ。
なのに縁は金の切れ目と共にぶっちんだ。そんなのってない。死にたい。
そうやってフラッと立ち寄ったのは怪しげなバーだった。六百円で何が飲める? ああそっか。クレカが使えるっけ。
でも預金残高はゼロ円だった。来月どうしよう。まあいい。このうさをここで晴らしていかなきゃ私ほんと死んでしまう。
あとは記憶がない。どう飲んでどう帰ったのか。気づけば自宅の玄関で寝ていた。
目が覚めた。シャワーでも浴びるか。そう思って服を脱ぐ。
「???!!!」
おへそに木が生えていた。何か妙なものを食べたのか、それか種を飲んじゃったのか。緑でマリモみたいなこんもりした木がおへそからにょきっとこんにちは。
「わー、なんだこれ」
二日酔いでぐらんぐらんする頭を抱えた私はこの状況を面白がるしかなかったのだ。
だがこの木によって私の生活は一変した。調べてみると木の種類はやどりぎだという。あー、クリスマスに飾るやつね。そうである。だがこいつはとんでもない特性を秘めていた。宿主の養分をすいとるのである。え、え、ちょっと待って。すいとるの? 飯代は? 私はとても焦っていた。なんせ腹が尋常なくすくのである。
昨日のアーケードにまたいった。腹は極限まで減っていた。
「あ、そうだ。食べ放題」
焼肉のチェーン店へと入店する。女一人で悪いかゴルァ。
「ご注文をお伺いします」
良さげな店員さんが来てくれた、と、メニューいっぱいにある写真に目がとまる。
「韓国風冷麺チャレンジ盛、二十分で食べ切れたら賞金二千円」
「あ、あの、すみません、チャレンジ盛ってできますか?」
「はい、かしこまりました」
なんかいける。今日の私なら食べられる。だって栄養泥棒がおヘソにいるんだもの。
そうして運ばれてきたのはどでかい銀色の器にもりもりの冷麺。肉厚なチャーシューに錦糸卵。
「ようい、スタート」
つるつると喉越しが爽やかだった。うまい。韓国風だからキムチも薬味もなんかうまい。
そして私は見事十五分で食べきり二千円を手にしたのだった。へそのやどりぎをちらりとみてみた。幾ばくか成長しているように見えた。そこで剪定しておいた。
ここからの私は水を得た魚。大食いチャレンジメニューをやっている店を片っぱしから回っていった。結果は連勝、気持ち良いくらいだった。
私はこの波に乗っかって今流行の動画投稿サイトで大食いを披露することにした。店の宣伝にもなるからと、広告料までいただいた。PVは思いの外伸びて毎月の小遣いが稼げるようになったのだ。やどりぎ様々である。
こうして店を回っているうちに、いつしか私の評判も回るようになっていった。
「鈴木さんはすごく綺麗に食べるよね」
「この業界じゃ多い過食症でもないみたいだし」
「撮影後すぐにトイレで吐く人もいるけど鈴木さんは違うよね。一体どうやって太らないでいるの?」
「秘密を教えて」
教えなーい!絶対に言いたく無かった。おへそにやどりぎを飼っていることは。やどりぎは私が食べたぶんだけ成長して葉を繁らせていた。
剪定しても剪定しても丸いマリモのような塊はおへそから外れない。
だが、うまいこと行く人生は続かない。動画をみる人々からの欲求はだんだんエスカレートしていった。
六キロだったカレーが二十キロのカツカレーになった。コメント欄では心配の声がちらほらあがりはじめた。
おへそのやどりぎは成長する速度を早めた。まるまると肥えた緑の葉っぱについには枝が伸びてきた。
隠し通せない。私は焦り始めていた。しかしまた今夜も食べたい。初めて行った今では常連の焼肉屋ののれんをくぐり食べ放題メニューを注文した。
今夜はそういえばクリスマス。やどりぎの一歳の誕生日ではないか。
満腹になるまで食べた。きわきわ、ぎりぎりまで食べた。おへそがなにやら蠢いている。どうしたんだろう、やどりぎ、元気かい?
そう思っておへそに手を触れた瞬間、ポンッと弾ける音がして、丸っこいやどりぎが取れてしまった。
やどりぎはコロコロ転がると、例の感じのいい店員さんの足元へ。
「すみません」
店員さんは妙ちくりんな顔をしていた。やどりぎをひろうとしばらくじっと眺めたが
「すみませんお姉さん、なんだかとても変なことを言いますが、あなたととてもキスしたい気分です」
僕はおかしいな、どうしてだと悩む店員さん。私は心底驚いた。こんなことってある?ザ・クリスマスマジック!
「焼肉味でよければどうぞ」
店員さんはとても嬉しげだった。
「では失礼して。ムチュー」
魔法のやどりぎはクリスマスの日に恋人がその下でキスをするという伝説のパワーを発揮したのだ。
私は少し太ってしまった。
次の年のクリスマス、私のお腹の中には新たな栄養泥棒が宿りましたとさ。めでたしめでたし。
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