バスケットボール

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基本のきを学ぶ

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「雄ちゃんちょっと話があるの」
 更衣室で凛は切り出した。
「奏歩のボールに落書きしたこと?奏歩すっごく怒ってたわよ。まずかったんじゃない?あれ凛の仕業でしょ。誰でも見破るわよ。先生に何か言われた?」
「言われたけど。そうじゃなくってさ」
「今でも奏歩、あのボール使ってるわよ。なんかちょっと気の毒よね。皆にハブられてさ」
「雄ちゃん違うってば。別の話」
「何?」
 凛は雄一が綾瀬くんを好きなんじゃないかと確認した。雄一は顔を真っ赤にして否定したから事実は火を見るより明らかだった。
「綾瀬くんはゲイじゃないんだよ」
「わかってる。でも私が誰を好きでも自由よね」
「そうだけど」
 雄一は言葉を濁してむにゃむにゃ言った。ちょうど三年の有佐が更衣室に入ってきたから話はそこで中断した。
「一年、村上先生から伝言よ。今日から日記をつけて毎週先生に見せることだってさ。全く熱血で困るわよね。昭和のスポコンじゃあるまいし」
 有佐から手渡されたのは分厚い大学ノートだった。中を見るとすでに村上先生からのメッセージが赤ぺンで書いてある。信子も入ってきた。一年生たちはそれぞれノートのみせあいっこをした。凛へのコメントは反省しなさい、だった。雄一へは遠慮しないこと、信子へはセンターとしてチームの中心になりなさい、とあった。
「交換日記?そんなの意味ないし。先生が見るなら変なこと書くわけないじゃん」
 凛が嫌そうに言ったが信子は
「私は結構嬉しいかもしれない」とまんざらでもなかった。
 雄一はプレーについて詳しく知りたいから好都合だと言っていた。凛は二人の真面目さに驚き、しぶしぶ良いかもねと同意した。空気は読むにかぎるのだ。

 次の日の練習は前と同じ1キロランをこなした後、県一位のチームのバスケプレーをビデオで見る、というメニューだった。上手い人たちがどう動くのかを研究するのが村上先生の意図でビデオを何度も何度もとめては村上先生が解説をいれた。
「あなたたちはとりあえずボールに寄っていこうとするけどそれは間違い。小学校の体育じゃないの。大事なのはいかにパスを回してゴール下に近づくかよ。ディフェンスをふりきるにはやみくもに走り回ってはだめ。頭を使わないとね」
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