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ツーメン

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 次の日から。女子バスケの雰囲気はすこーし変わった。ちょっと元気を無くした凛と反対に目に輝きが戻った奏歩。雄一はおどけっぷりに遠慮が無くなり信子は喋るようになった。麻帆はと言えば髪の毛を気にするなら切りなさいと村上先生からのコメントに書かれていたようでお団子頭のヘアスタイルになってやってきた。三年はもう引退。最後の試合があと二週間後だったがそこまで勝ちにこだわっていないようで相変わらず練習もサボり固まっておしゃべりを楽しんでいる。村上先生はそんな三年には何も言わなかった。贔屓癖があるんじゃないかと凛は思った。
「今日はツーメン。パス練習をやります」
 1キロを走り終えた後先生はいった。
「センターラインとサイドラインギリギリを走るのよ。パスは3回。最後にはレイアップシュート。リバウンドを拾ったら逆方向で同じことの繰り返し。なんせ5人しかいないから休む間は無いのよ。でもシャトルランよりは楽しいでしょう」
 いざ、練習を始めてみるとなかなかうまくパスが回らない。走りながらだから難しいのだ。パスミスが目立ち、レイアップも入らない。練習はガタガタだった。
「駄目ね。男子のやり方をみてみなさい。勉強になるはずよ」
 言われて男子を見学する。どうやら、パスしたいと思った瞬間に相手が走っている位置の一歩先へボールを投げると時間差でちょうどよくパスが渡るらしいと凛は気づいた。その事を雄一に伝える。雄一はなるほど顔になり言われた通りやってみたところ、凛と雄一ペアはツーメンがうまくいった。
 レイアップシュートはボールを投げるのではなく置いてくる感じ。それも凛が雄一にだけ伝えて、結果二人はシュートの成功率が格段に上がった。
「コラコラ二人。コツをつかんだならそれを全員で共有しなさい」
 村上先生が二人だけの異変に感づきたしなめた。雄一は凛が発見したコツを上手に脚色して皆に披露した。一歩先へ影分身があると考えてパスを送る。レイアップは手首を柔らかくして阿波おどりの手みたいに置いてくる。どうやらうまく伝わったようでそれまでハチャメチャだったツーメンが一応それっぽい形になり始めた。男子バスケの顧問伊東先生が声をかけてきた。
「なかなか上達が早いなあ」
 それはお世辞ではなく確かに実感を伴っていた。村上先生は伊東先生と話し込んで男子のほうへ行ってしまったが凛たちはシュートが面白いように入るのでサボったりはしなかった。
 ペアを1人ずつ変えツーメンを続ける。雄一と凛ペアが一番しっくりきていた。その次は麻帆と信子ペア。その次が雄一と奏歩ペアだ。相性の良し悪しが出始めた。走るペースやボールの滞空時間、レイアップのうまさでタイミングがほんの少しずつずれるからだ。
 奏歩のパスは鋭く滞空時間が短い。信子のパスは弧を描きゆっくりと届く。それに走る側が合わせてしまうとステップが乱れる。だからちょうどいい塩梅にペースが合う者同士でなければうまくいかない。村上先生が戻ってきた。男子バスケ部員は人数が多い。実力によってグループ分けされていて、そのCグループと女子とで合同練習をやろうという決定だった。麻帆の表情が変わった。全力で女の子モードになったのだ。
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