1 / 60
第1話 今日からダンジョン探索者!
しおりを挟む
「みんな! 今日もお疲れ様。いやー疲れたねー」
俺はそんな風に話しているクラスで人気な女子、伊井野絵梨花《いいのえりか》さんを少し羨ましく思いながら見ているぼっちもどき。
決してクラスメイトたちに笑顔をふりまくようなキャラではない。
ダンジョンに憧れてるだけの、どこにでもいるただのダンジョンオタクだ。
「いやーほんと疲れた。授業長すぎなんだよ」
「本当に、伊井野さんはすごいよね。勉強も運動もできて」
「そんなことないよー。でも、ちょっと頑張ってるかなー?」
「そのちょっとがすごいんだって」
疲れたと言いながら、みな和気あいあいとした雰囲気で話している。
実に楽しそうだ。
「それじゃあ高梨《たかなし》くん。また明日」
「ああ。桃山《ももやま》くん、また明日」
だが、陽キャたちを遠くから眺めているからといって、俺はぼっちではない。こうして学校では話す程度のクラスメイトはいる。それくらいはいる。
手を振って見送りもする。断じてぼっちではない。あくまでぼっちもどきだ。
ただ顔も見た目も普通なだけの男だ。
けれど、俺はまた桃山くんの友人と話す姿を見ながら少し羨ましく思う。
彼は俺と違い、ぼっちもどきではなく、完全にぼっちではない。
もしかしたら俺も、友だちと放課後に他愛もないことでも話しながら過ごす時間があったのかもしれない。そんな風に思う。
まあ、だからどうするということもないのだが。
ふっとまた意識は伊井野さんたちの方へ移る。
「伊井野さんはこれからどうするの?」
「昨日も配信してたのに今日も行くんだろ?」
「まあねー」
「そんなに連日大変じゃない?」
「大変かどうかより、わたしがやりたいことだから」
「すごいわ。憧れちゃう」
「そうかなー? えへへ。照れるなー」
表情をコロコロ変え、ずっと話題の中心にいる伊井野さん。
俺が彼女を羨んでいるのは、何もただクラスで注目を浴びているからではない。
彼女は中学生の頃からダンジョン探索者をしている天才だ。人気は何も魅力的な性格や見た目だけじゃない。
そう、この世界にはダンジョンがある。
ある日突然現れた、異世界とも思えるような地下への入り口。そこは、人にさまざまな力を与える場所であり、モンスターという危険な存在がはびこる世界でもあった。
俺は、そんな不思議な世界に憧れている。
ゲームが好きだったことがあるなら、きっと誰だって同じ気持ちなはずだ。
「伊井野さんは中学からダンジョン探索者だもんねー」
「まあね。でも、これからは、このクラスからもダンジョン探索者が出るかもしれないでしょ?」
「いやー。どうだろう。俺ダメだった」
「あたしもー」
「大丈夫だって。一回や二回で受かる人の方が少ないんだから」
ダンジョンへ入るのも、今となっては認可制。特別な免許が必要になる。
それも本来なら高校生から受験資格を得られるが、伊井野さんは特別だ。中学生の時点でダンジョン探索者の資格を持っていた。
しかし、彼女の実力を見た人間の中にその才能を疑う人はいない。
ゲームで憧れたような主人公は、きっと伊井野さんのような人なのだろう。
俺も他のクラスメイトたちの例に漏れず、今年ダンジョン探索者試験を受験した。
桃山くんたちのように、友だちを作るようなこともせず、他のことも特にやらずにただダンジョン探索者になるために過ごしてきた。
だが、未だ何の音沙汰もない。
別にそんな現状に嫌気がさしているわけじゃない。ただ、やってきたことが報われないと、少し胸が空っぽになった気分になってしまうだけだ。
「帰ろう」
俺はそっと席を立って教室の扉まで横切った。
「あ、高梨くん。帰るの? また明日ね!」
「うん。また、伊井野さん」
伊井野さんは誰にでも優しい。
俺みたい、他に桃山くんくらいしか覚えていない名前を、しっかりと覚えていてくれる。
なんだか少し救われた気持ちで俺は教室を出た。
「嘘だろ? 嘘だろ?」
一人暮らしの俺の家。一軒家じゃなく集合住宅だが、郵便受けには何やら見慣れない封筒が入っていた。
嬉しさ半分、どうせという気持ち半分。
どちらにせよ、俺は早足で家に飛び込んでいた。
まだ中を確かめていないのに、ニヤニヤが止まらない。
伊井野さんは特別と言ったが、高校生で探索者の資格を持っているだけでも世界で指折りだ。
ダンジョン探索者は、国内だけでなく海外の大学に進学する場合でも優遇されるほどの資格。
しかし、そのほとんどが個人でダンジョン探索をすることもあって、ダンジョン探索以外の用途で使用されることが滅多にないため、あってないようなものだが、そんなことは関係ない。
それだけ認められているってことだ。
「いや、落ち着け。残念ですが、って可能性もまだあるんだ」
指でビリビリと封筒を切り開き、中にある紙の束を机に広げる。
出てきたのは難しそうな字が詰まった書類と……合格の二文字。
「ごうかく、合格だよな。合格……」
ゆっくりと噛み締めるようにその言葉を繰り返す。
現実感のなかった文字列が次第に何が書かれているかはっきりとわかり、胸の内側が一気に熱くなってくるのを感じる。
「っしゃー! 嘘、マジ? マジだよな! マジだよ!」
思わず何度も見返すが、俺、高梨正一郎《たかなししょういちろう》のダンジョン探索者合格証だ。
これもまたダンジョン探索者の力により作られている合格証。
売るだけで人生を何度も働かずに生きていけるらしいが、そんなことはもうどうでもいい。
「うおー! 合格。合格だ!」
周りの迷惑など考えられず、ただただ何度も叫んでしまう。
そして、こんな日のために準備してきた道具たちをひったくるように持ち上げると、俺の体は勝手に家を飛び出していた。
俺はそんな風に話しているクラスで人気な女子、伊井野絵梨花《いいのえりか》さんを少し羨ましく思いながら見ているぼっちもどき。
決してクラスメイトたちに笑顔をふりまくようなキャラではない。
ダンジョンに憧れてるだけの、どこにでもいるただのダンジョンオタクだ。
「いやーほんと疲れた。授業長すぎなんだよ」
「本当に、伊井野さんはすごいよね。勉強も運動もできて」
「そんなことないよー。でも、ちょっと頑張ってるかなー?」
「そのちょっとがすごいんだって」
疲れたと言いながら、みな和気あいあいとした雰囲気で話している。
実に楽しそうだ。
「それじゃあ高梨《たかなし》くん。また明日」
「ああ。桃山《ももやま》くん、また明日」
だが、陽キャたちを遠くから眺めているからといって、俺はぼっちではない。こうして学校では話す程度のクラスメイトはいる。それくらいはいる。
手を振って見送りもする。断じてぼっちではない。あくまでぼっちもどきだ。
ただ顔も見た目も普通なだけの男だ。
けれど、俺はまた桃山くんの友人と話す姿を見ながら少し羨ましく思う。
彼は俺と違い、ぼっちもどきではなく、完全にぼっちではない。
もしかしたら俺も、友だちと放課後に他愛もないことでも話しながら過ごす時間があったのかもしれない。そんな風に思う。
まあ、だからどうするということもないのだが。
ふっとまた意識は伊井野さんたちの方へ移る。
「伊井野さんはこれからどうするの?」
「昨日も配信してたのに今日も行くんだろ?」
「まあねー」
「そんなに連日大変じゃない?」
「大変かどうかより、わたしがやりたいことだから」
「すごいわ。憧れちゃう」
「そうかなー? えへへ。照れるなー」
表情をコロコロ変え、ずっと話題の中心にいる伊井野さん。
俺が彼女を羨んでいるのは、何もただクラスで注目を浴びているからではない。
彼女は中学生の頃からダンジョン探索者をしている天才だ。人気は何も魅力的な性格や見た目だけじゃない。
そう、この世界にはダンジョンがある。
ある日突然現れた、異世界とも思えるような地下への入り口。そこは、人にさまざまな力を与える場所であり、モンスターという危険な存在がはびこる世界でもあった。
俺は、そんな不思議な世界に憧れている。
ゲームが好きだったことがあるなら、きっと誰だって同じ気持ちなはずだ。
「伊井野さんは中学からダンジョン探索者だもんねー」
「まあね。でも、これからは、このクラスからもダンジョン探索者が出るかもしれないでしょ?」
「いやー。どうだろう。俺ダメだった」
「あたしもー」
「大丈夫だって。一回や二回で受かる人の方が少ないんだから」
ダンジョンへ入るのも、今となっては認可制。特別な免許が必要になる。
それも本来なら高校生から受験資格を得られるが、伊井野さんは特別だ。中学生の時点でダンジョン探索者の資格を持っていた。
しかし、彼女の実力を見た人間の中にその才能を疑う人はいない。
ゲームで憧れたような主人公は、きっと伊井野さんのような人なのだろう。
俺も他のクラスメイトたちの例に漏れず、今年ダンジョン探索者試験を受験した。
桃山くんたちのように、友だちを作るようなこともせず、他のことも特にやらずにただダンジョン探索者になるために過ごしてきた。
だが、未だ何の音沙汰もない。
別にそんな現状に嫌気がさしているわけじゃない。ただ、やってきたことが報われないと、少し胸が空っぽになった気分になってしまうだけだ。
「帰ろう」
俺はそっと席を立って教室の扉まで横切った。
「あ、高梨くん。帰るの? また明日ね!」
「うん。また、伊井野さん」
伊井野さんは誰にでも優しい。
俺みたい、他に桃山くんくらいしか覚えていない名前を、しっかりと覚えていてくれる。
なんだか少し救われた気持ちで俺は教室を出た。
「嘘だろ? 嘘だろ?」
一人暮らしの俺の家。一軒家じゃなく集合住宅だが、郵便受けには何やら見慣れない封筒が入っていた。
嬉しさ半分、どうせという気持ち半分。
どちらにせよ、俺は早足で家に飛び込んでいた。
まだ中を確かめていないのに、ニヤニヤが止まらない。
伊井野さんは特別と言ったが、高校生で探索者の資格を持っているだけでも世界で指折りだ。
ダンジョン探索者は、国内だけでなく海外の大学に進学する場合でも優遇されるほどの資格。
しかし、そのほとんどが個人でダンジョン探索をすることもあって、ダンジョン探索以外の用途で使用されることが滅多にないため、あってないようなものだが、そんなことは関係ない。
それだけ認められているってことだ。
「いや、落ち着け。残念ですが、って可能性もまだあるんだ」
指でビリビリと封筒を切り開き、中にある紙の束を机に広げる。
出てきたのは難しそうな字が詰まった書類と……合格の二文字。
「ごうかく、合格だよな。合格……」
ゆっくりと噛み締めるようにその言葉を繰り返す。
現実感のなかった文字列が次第に何が書かれているかはっきりとわかり、胸の内側が一気に熱くなってくるのを感じる。
「っしゃー! 嘘、マジ? マジだよな! マジだよ!」
思わず何度も見返すが、俺、高梨正一郎《たかなししょういちろう》のダンジョン探索者合格証だ。
これもまたダンジョン探索者の力により作られている合格証。
売るだけで人生を何度も働かずに生きていけるらしいが、そんなことはもうどうでもいい。
「うおー! 合格。合格だ!」
周りの迷惑など考えられず、ただただ何度も叫んでしまう。
そして、こんな日のために準備してきた道具たちをひったくるように持ち上げると、俺の体は勝手に家を飛び出していた。
21
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる