ピンチの美少女に憑依して勝手にバズらせていたら、助けた美少女に住所特定されたんだが

マグローK

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第1話 推しが伸びない件

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「また俺一人か」

 いや、こんなこと、あまり口に出して言うことではない。だがそれでも、つい思ってしまう。

 いつも見ている配信者のことを、自分しか知らないというのは、悲しい、と。

:こんにちは、リカさん

『こんにちは! あ、ヒキさん! いつもありがとうございます!』

:こちらこそ。いつも配信してくださりありがとうございます

 そんな俺しか知らない配信者である、リカさんを見ている俺は誰かと言えば、比企木守《ひきこもり》。職業不定ニートだ。
 名は体を表す。まさしく俺のためにある言葉だろう。定職を持たず、こうして配信を見て暮らしている。

 いや、俺のことはどうでもいいんだ。今大事なのはリカさんだろう。

:いつもリカさんが配信してくれるおかげで頑張れます。ありがとうございます

『いやぁ。お礼を言われるようなことはしていませんよ。私が好きでやってることですから。でも、人、増えないですねぇ』

:ですねぇ

 リカさんと俺は赤の他人だ。ただのファンと配信者。

 しかし、あまりにも視聴者が増えないまま日々が過ぎたせいで、こんなやり取りが常態化してしまっている。

 実に一年。登録者俺一人である。

:なんだか申し訳ないです

『いやいや! ヒキさんに責任はないですよ。全部私の責任です。こんなこと話すのも、ほんとはどうなのかなって内容ですし!』

 そんな責任感強めのリカさんは、ダンジョン配信をしている学生さんらしい。高校生と言っているが、俺からすればそうは見えない。もう少し幼い印象を受ける女の子だ。
 明るい茶色い毛を短めのボブカットにした元気溌剌な女の子。

 それこそ、栄養ドリンクのCMが似合いそうな女の子なのだが、暇を持て余したヒキニートの俺しか見ていないというのは、唯一のファンとしてやはり悲しい。
 俺に話し相手はいないが、誰もがリカさんのことを共通言語として話せるような世の中になってほしいと思う。
 それは言い過ぎか?

『言ってても仕方ありませんね。探索を始めます!』

:頑張ってください!

『はい! 私の勇姿、見ててくださいね!』

:見届けます!

 という感じで、いつものように、リカさんはダンジョン探索を開始した。

 ダンジョンというのは、いつからかこの世に現れた不思議な洞窟のようなものだ。スキルと呼ばれる能力を人に与え、モンスターと呼ばれる凶暴な存在がはびこる場所だ。

 リカさんは、そんな危険な場所でも配信ができてしまうほどの実力者である。
 初心者の壁と言われる、ソロでのダンジョン上層五時間耐久も、余裕をもって切り抜けられるほどだ。

 探索者としての腕も体力もあって、そのうえ(あくまで入れ込んでいる俺の私見ではあるが)見た目もいい。

 しかもリカさんはそれだけじゃない。

『わああああ! トラップでした! なんで!? 注意してたのに! 今日はヒキさんにいいところ見せようと思ってたのに!』

:あいかわらず引きが強いですねぇ

『いや、違いますよ! 絶対違います! 逆です逆!』

:え? わざとじゃないんですか?

『わざとじゃないですよ! ヒキさんじゃなかったら、それ言われたら泣いてますからね!』

:ですよねー

 そう。リカさんは毎回と言っていいほどダンジョンに仕かけられたトラップを引き当てるのだ。

 今回はモンスターの大量発生。

 わざとではない。ドジでもない。注意を払っていながら、確率だけの問題で発生するトラップを引いていくのだ。

 これはもう、運がいいとしか言いようがない。

 もし俺が配信者だったなら、心から羨ましいと思う才能だろう。なんならリカさんは配信者だ。これはもう、誰だって素晴らしい才能だと思うはず、なのだが、リカさんはあまり活かせていなかった。

 結構な盛り上がりポイントだと思うのだが、リカさんが戦闘に集中してしまうせいか、配信はなかなか伸びない。

『はあ、はあ。なんとか切り抜けました』

:お疲れ様です!

『ほんと、死ぬかと思いましたよ』

:いやいや、余裕そうじゃないですか

『余裕なんてありませんよ! もうトラップはこりごりです』

 息こそ上がったように見えるが、疲れた様子はない。
 たとえ視聴者が俺一人だとしても、視聴者を置いてけぼりにしないようにしてくれているのだろう。

 本当に、どうしてこの子が伸びないのか、不思議で不思議で仕方がない。

 何かきっかけさえあれば、きっと伸びると思うのだが、そのきっかけというのがわからない。少なくとも、頻発するトラップではないらしい。

 何はともあれ、危なげなくトラップを脱出し、動いたことで上気したほほも、いつもの赤みに戻ってきた時。

『足音ですね。モンスターみたいです』

:そうみたいですね。気をつけてください

『はい』

 トラップとは別のところから現れたモンスターが、リカさんに気づいて近づいてきていた。
 姿を見せたモンスターは巨体だ。成人男性二人分はありそうな体長を一気に持ち上げ、威嚇するように両腕を上げた。

 それはキンググリズリー。

『へ……?』

 縦だけでなく横にも大きなクマの出現に、リカさんは、事態が飲み込めない、そんな様子で、小さく声を漏らして、ぼーっと立ちつくしている。

:大丈夫ですか? あれ、キンググリズリーですよ!

『……』

 返事はない。返事がない。

 トラップにかかっている時でさえ、戦闘に集中しても、俺のコメントを見逃さないリカさんだが、今はどうやらそんな余裕はないらしい。

 キンググリズリーは、まだ攻撃してきていない。
 リカさんも、まだ相手の間合いに入っていない。
 よそ見はできないまでも、いつもの彼女なら、俺のコメントに返事をくれそうだが、今はどうやら、それをする余裕すらないらしい。

「くっ……」

 配信を見ている俺も、こうなってしまってはうなるしかない。
 拳を握り、祈りが届くことを願うだけだ。

 あれは、レベルが違う。

 層で分けられたダンジョンは、下へ潜れば潜るほど、生息するモンスターの脅威は増す。
 リカさんの実力は中層レベル。正直、背格好や年齢から考えれば、ものすごい実力なのだが、この世界には異次元が存在する。

「あれは、今のリカさんには無理だ……」

 キンググリズリーは下層でこそ並のモンスターだが、それは同時に中層の探索者にとって死を意味する。

 すぐに逃げてくれることを願うが、リカさんに動きはない。

『グアアアア!』

 先に動いたのは、キンググリズリーだった。

 先ほどの姿勢を崩さずに、キンググリズリーは大きく吠えた。リカさんへ向けて荒々しく吠えた。
 画面越しに響いてくる振動が、それだけで、鍛えていない人間の意識を吹き飛ばしそうな迫力があった。

 目の前で受けたリカさんはどうだろう。

 ガタガタと震え、目に涙を浮かべながら、まともに動けそうもない。

『いや、いやあああ! 終わりたくない。こんなの、いや、いや!』

 叫び声を上げながら、うわごとのようにぶつぶつとなにかを小さく繰り返し、しきりに首を振っている。
 近くに人がいる様子はなく、助けが来ないことを理解したのだろう。
 明らかにリカさんは取り乱している。

 このままだとリカさんは死ぬ。緊急通報をしても、今から間に合う探索者なんてまあいないだろう。そんな善人、存在しない。
 正確にはゼロではない。趣味で探索者をしているやつの中になら、ヒーローみたいな偽善者に心当たりはある。だが、そんなやつ、連絡先は知られていない方が当たり前だ。
 リカさんにそんなツテはありそうもない。あればすぐに連絡していることだろう。
 俺から連絡しても、取り合ってもらえるはずもない。

『きゃああああ!』

 リカさんの悲鳴が引き金となったように、キンググリズリーは動いた。

 クマは、リカさんへ向けて、全速力で動いた。

 仕方ない。これがダンジョン。命のやり取りをするのなら、いつ死んでもいい覚悟が必要だ。モンスターだって生き物なのだ。ただで死んでくれるはずがない。いつ、立場が逆転するかなんて誰にもわからない。

 これで終わり。

 本来ならそうだろう。

 だが、俺は残酷な現実が見たくて、配信を見ているわけじゃない。

「『憑依』!」

 リカさんは、一年間、ヒキニートな俺の会話相手になってくれたんだ。

 なら、そう易々と、リカさんを殺させはしないさ。
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