姉バカ転生者〜ゲーム世界で魔物を蹴散らしながら妹をバズらせるまで〜

マグローK

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第6話 リンちゃん世界のヒロイン化計画始動

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 リンちゃんとは仲直りできた。
 そして、妹目覚ましは結局、妹目覚ましボイスとして私の趣味用に運用することになった。

 気分がいいらしいので、今はリンちゃんとかくれんぼ中だ。

 そして、今ある水晶。これが永久保存版だ。遺すというのとは何か違う気もするけれど、形は少しずつ掘り下げていこう。
 全力でお姉ちゃんを遂行するのだ。

 と、そんなふうに気持ちを切り替えられたのも、リンちゃんのおかげだ。

 あの後、「その水晶は目覚ましとして使わないで」とはっきり言われたからだ。

「どうして?」と聞いても、「とにかく!」と言って、理由は詳しく教えてくれなかった。
 だけれども、なんとか引き出したところによると、「お姉ちゃんを起こすのは大変だって思ってないから」らしい。

 私としてはすごい嬉しいんだけど、寝起きの悪い私を起こすのは大変だろうに。
 新しい目覚ましだからスッキリ素早く起きたものを……。

「ま、本人が言うのなら、何か考えがあるのでしょう」

 リンちゃんは賢い子だからね。私と違って裏はないはず。

 とはいえ、リンちゃん本人が起こしてくれることを喜んだら「初めからそれでいいのに」とか言われたのはなんだったんだろう。

 と、いうことで、リンちゃんを遺す計画の方を詰めていきたいと思う。
 この世界での私の使命。安全以上を届けるための行動を始めたいところ。

「せっかく、こんないいものを自由に使えるんだからね」

 私は水晶をバスケットボールのように指で回転させながら、ちょっと外の空気を吸っていた。

 ふっと歩いてきたのは村の強気なお姉さん。

「お、フェネル。うわさの水晶譲ってくれよ」

「嫌です」

 私は断り歩き出した。
 そりゃせっかくの成功品だ。狭い村で話題になったくらいじゃあ渡せない。

 そもそも、私がこの世界で自我を持つようになってからというもの、村の人たちは基本的に私のことを奇妙なものでも見るような目を向けてきていた。
 魔力関連で知恵袋的に使われることはあっても、衛兵より力があっても衛兵じゃない、ということで、基本駆り出されるのは雑用だった。

 ところが、最近はその視線の様子が変わってきているように感じるのだ。
 私を探して接してくる人も日に日に増してきている気がするし。

 そのせいで、リンちゃんと遊ぶ時間が減ってしまって困る。

「さっきのヤツはリンちゃんのこと狙ってるもんなぁ。でも、大丈夫。アタシはリンちゃんの声を聞くだけだから」

「何がですか。嫌です。私のです」

 いつも親しげに話してくるコミュ力お化けなお姉さんにも話しかけられた。

 私はすぐに走り出した。

 遊びの最中だというのに、うわさというのは恐ろしいもので、私の発明が求められるようになってきた。
 便利屋から、ジョブチェンジし始めているのを感じる。

 ただ。遺すとは決めても、他人に渡せるような代物じゃない。
 仮に、仮に渡すのならもっといいものにしないと。

「あれ? 妹ちゃんの水晶で声が聞こえるようになるって話本当?」

「ええ、本当ですよ? どうしてみんな知ってるんですか?」

「そりゃ、嬉しそうにリンちゃん鼻歌歌ってたもの。あの様子なら、独り占めはよくないんじゃない?」

「うっ……」

 本物を独占している私だけれど、だからこそ、多くの人の記憶に遺ることもまた、リンちゃんを遺すことにはなるだろう。
 言ってしまえば教祖みたいなものだ。
 誰かの心の中にしかないものは遺せていると言えるだろうか?

 私はリンちゃんを見つけた。

「あぁ。見つかっちゃったかぁ」

 悔しそうにするリンちゃんを前に、私はすっと水晶を取り出した。

「ねえ。これさ。村の人に聞いてもらってもいいかな?」

「わたしがお姉ちゃんを起こせるならいいよ」

「だよね。リンちゃんにも選択の自由はあるし……、今なんて?」

「わたしがお姉ちゃんを起こせるならいいよ、って。何? 何か変?」

「う、ううん。ありがとう」

「その代わり。またお姉ちゃんが鬼ね」

 笑顔で走り出すリンちゃんを見送りながら、私は水晶に目を落とした。

「え? なんか許可が得られたんだけど?」

 これはダメだと思っていたので、言い訳の言葉ばかり考えていたけれど、なぜ……?

 とはいえ、許可が得られたので、私は水晶の配布を始めた。

 そりゃ、全てを素直に話してないけど……、リンちゃんの許可を得てるし……、大丈夫だよね? ノリノリでテンション高めだったけど……。

 不安な気持ちの中で、私は魔力の限り、欲しいという人へ片っ端から配り始めた。

 配るという予告もなしだったものの、妹目覚ましボイスは口コミだけで爆発的に拡散した。

 最初は試作品だということもあって広めるつもりはなかったのだけど、エンタメのないこの世界、マジックアイテムというだけで、村中がアホほど揺れるほど水晶を求める列が長く続いていた。

「ありがとう」
「これだ。これがあれば」
「おお。ありがとう。フェネルちゃん」

「いえいえ」

 感謝の気持ちが深すぎる。
 なんか、村中がリンちゃんの信者みたいだ。

 私は歓迎だよ? むしろ、いい調子すぎて怖いくらい。

 配り終えれば悔しそうな人が多数出て、石を投げれば水晶を持っている人に当たりそうなほど。
 たとえ失敗作の音割れ水晶でも狂喜乱舞するんじゃなかろうか。

 実際にあちらこちらから、
『お姉ちゃん』
『おはよ』
『大丈夫? 辛くない?』
 なんて、純朴なリンちゃんの声が聞こえている。

「みなさん。何かと間違えてませんよね?」

「ああ。間違いない。リーズナー家の次女ちゃんの声で怪我が治ったよ」
「当然。リンネルさんでしょ? あの声で私は1人じゃないと思えていますね」
「なに? 水晶のことだろ? ありゃ、村で一家に一つ必要だろう。あるとないとじゃ大違いさ」

 なんていう感想が集まっている。

 もう宗教かな?

 でも、遺すとなると目指しているところだ。

 さて、と? 何か忘れているような……。

 私が考えるように腕を組むと、人の足音が近づいてくるのを感じた。

「あ、あの! フェネル様、今お時間よろしいですか?」

「ごめんね。まだ新しい水晶は……、あ、ミアちゃん」

 少し息を切らしてやってきたのはミアちゃん。魔王軍の侵攻で集団避難してきた女の子だ。
 見た目は紫色っぽい髪色の天然ウェービーな村娘。柄が素敵な衣服を着ていて、それは出身村の自慢らしい。

「どうもフェネル様。すいません。話題の水晶とは別件なのです」

「そうなの? いや、それよりやめてよ、ミアちゃん。私にはもっと気軽に接して」

「で、できません! フェネル様はあたしの命の恩人ですから」

「ずっと言われるほどのことはしてないって」

「ですが、フェネル様がいなければ、あたしは今頃生きていません」

「うーん……そうかもだけど……」

 若干、尊敬の眼差しを向けてきているミアちゃん。

 仲良くしたいんだけど、出会った瞬間救世主、みたいになっちゃっていたから、打ち解けるのがなかなか難しい。

「それでミアちゃ、おっと」

「お姉ちゃん。ちょっといいかなー?」

「リンちゃん。今、ミアちゃんと話してて」

「わたしも用なの! ……なんか、天使とか女神とか言われてて、お姉ちゃんに相談したくて。そもそもお姉ちゃんとかくれんぼ中だったでしょ?」

「あっ!」

 水晶のことに集中していて、リンちゃんのことを真剣に探せていなかった。

「ご、ごめん。リンちゃん」

「もう。お姉ちゃんったら!」

 いつもならもっと言われそうだけど、今日のリンちゃんは頬をぷくっとするだけだ。
 ほっとしながらミアちゃんに向き直る。

「その、ミアちゃんは急用?」

「いえ、その……、あ、あの! 急用です! 同じ村の方が今日にもみんなの様子を見に来るんです。けど、まだその人たちが来てなくって。その、何にもないといいのですが……」

 私はその場で踏ん張って急ブレーキをかけた。
 リンちゃんはそんな私を前に、つまらなそうに口をとがらせている。

「ごめんねリンちゃん。でも、これは行かないと」

「……ん。そんな気がした」

 力なく脇によけてくれるリンちゃんを抱きしめてから、私は慌てて村の入り口まで駆け出した。
 それからすぐ、左手方面。ミアちゃんのいたソルノマ村へ向けて急カーブを決めた。





 走り出してから数分で複数のゴブリン、オークの混成部隊へ取り囲まれている人たちの姿が見てとれた。

 数はざっと20。

 私はすぐに手の平から霧状に魔力を噴出し、あたり一面へ撒き散らした。
 視界は魔力によるノイズで一面が真っ白に染まる。
 逆に私は自分の魔力だからこそ、相手がどんなふうに動いているのか手に取るようにわかる。

「ナンダ」
「ミエナイ」
「テキカ」

 困惑の声を聞きながら、私はサクサクと亜人を切り伏せた。

「オイ。ドウナッテイル」
「……」

 当然、倒れた仲間からの声は聞こえない。

「ヤラレテイルゾ!」
「ヤリテガイタカ」
「イイヤ。コノ魔力。別ノ個体」

 困惑の中でも気づかれたらしい。

 どうやら単なる雑魚じゃないようだ。

 とはいえ、混乱しているのは人も同じ。
 騒がれる前に片づけたいし……。

 私は水晶を足元に転がした。

『こっちだよ!』

「ナッ!」

 転がした水晶を遠隔起動。

 リンちゃんの声につられたように亜人たちがキョロキョロと見回しているのがわかる。

「オマエカ」
「ナニッ、ヤリヤガッテ!」
「ウラギリモノォ!」
「オイナニシテルオチツケ!」

 声につられ、武器を振り下ろし、次々と同士討ちが発生している。

 これまたつたない連携。
 つけ入るスキがあっていい。

「さあて」

「ハイゴ……、ココカ!」

「これで最後」

「グハッ、イッタイ、ドコカラ……?」

「視界が奪われたからって、声で判断しちゃいけないでしょうよ」

 私はすぐに魔力を回収、一面の霧を晴らした。

 前回よりも早くなっているし、こりゃいいね。素晴らしい。
 リンちゃんの加護が私に味方しているよ。

 さて、と。村と村の間にいるこの人たちが例のミアちゃんが言う村の人たちだよね?
 柄のキレイな服の特徴からしても似ているし。

 私は一番偉そうな男性の前に立ち、それから咳払いをした。

「あの、あなたたちは、ミアちゃ……、えーっと、ソルノマ村からの人たちでお間違いないですか?」

「そ、そうです! ミアの名を出されるあなたは……?」

 ビンゴらしい。

 とはいえ、私の戦い方といい、ミアちゃんの名前といい、男性は警戒したように私のことを見てきている気がする。

 ま、当然だろう。助かっても、また別の敵かもしれないのだから。
 今の時代はそういう時代だ。
 私は警戒できる人間が好きだ。

「私はフェネル・リーズナー。コブト村の口伝家長女です。ミアちゃんたちは私たちの村で保護しています」

「口伝の家の者……。どおりでしっかりとしておられる訳だ。なんとお強い女人でおられることか。それに、我らの庇護をどう感謝をもうしたらいいのやら」

「感謝はいいですよ。せめて、この声を好きになっていただければ、それ以上のことはありません」

『ありがとう』

「この声っ。我々を助ける呼び声となったもの。おお。ならば女神の救いの声だ。崇拝させていただきます。今後肌身話すことありません」

「ですよね!」

 やたら熱っぽい視線を向けられ、私も興奮気味にうなずいた。
 世界がわたしの妹を理解しようとしてくれている。
 こんなのもう興奮しない訳がないじゃない。

 やっぱり方向性は間違っていなかったんだ。
 それに力も得られたし、間違いな訳ないんだ。

 よし。この調子でリンちゃんのことをこの世界に刻んでいくぞ。
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