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第5話 妹目覚ましボイス「私の声を独り占めして!」
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『お姉ちゃん、朝だよ! お姉ちゃん、朝だよ! お姉ちゃん』
「はーい!」
私は目覚まし水晶を止めて起き上がった。
リンちゃんの声で目覚める素晴らしい朝。朝はリンちゃんの声で起きると決めてますからね、私。
小鳥のさえずりも聞こえてきて朝の陽光が体をぽかぽかと温めてくれる。
なんて素晴らしい1日の始まりなんだ。こんな生まれたての感情なんて、前世も含めてこれまで感じたことがない。
最高。
まあ、毎日感じてますけど。
だって、本物には敵わないんだもん。今日はほぼ一位タイって感じ。
「おはよ、リンちゃん」
私はいつも先に起きているリンちゃんに先回りして挨拶をした。
すると、水晶から自分の声がしたからだろう、あっけに取られたような顔をして固まっているリンちゃんの姿が見て取れた。
録音の依頼はしたけど、何をするか話していなかっただけに、大層驚いているのがわかる。
「お、おはよう。お姉ちゃん……」
挨拶の流れで私が水晶をこれ見よがしに突き出すとリンちゃんは水晶と私を高速で見比べ出した。
その口はぽかんと開いたままだ。
かわいい。
「お姉ちゃん、それ、どういう仕組み? 昨日わたしがしゃべったものとおんなじ声がその水晶から聞こえたけど、どういうこと?」
「ふっふっふ。聡明なる我が妹は気づいてしまうか。ああ、やはりリンちゃんは神が私へ与えた唯一の贈り物」
「そーいうのいーから」
じっとりとした目で見つめられ、私の胸は高鳴った。
やっぱり、リンちゃんはどんな顔をしていてもかわいらしい。
リンちゃんにはキュンキュンさせられっぱなしだよ。
とはいえ、にらまれっぱなしというのもかっこがつかないので、私はこほんと咳払いをした。
「すごいでしょ? 名付けてリンちゃん目覚まし水晶」
「リンちゃん目覚まし? って、わたしのこと? 全然説明になってないんだけど」
「えーっとね、音を録音する水晶を解析して、水晶内に保存されている魔力路を複製、同時に時を刻む魔力路をかけ合わせて、手頃な水晶へと刻んだ上、待機中の魔力を吸収して自家発電を行うことで、特定の時間になったら自動的に魔力が水晶内を流れ、リンちゃんの声で起こしてくれる魔導具なんだよ。どう? 優れものでしょ?」
私は自信満々に早口でまくし立てた。
一連の内容を聞いて、リンちゃんはキョトンと目をしばたかせた。
「……つ、つまりどういうこと?」
「つまり! 毎日、今の時間になったらリンちゃんの声がこの水晶から流れるの。最高でしょ? 私って天才さん? 完璧じゃんね!」
「…………」
あ、あれ?
あまり凄さが伝わらなかったのかな?
残念ながらリンちゃんからは返事が返ってこない。
「……………………いや、まあ? お姉ちゃんがいつでもわたしの声を聞けるようになるって言うから協力したけど……、お姉ちゃんを起こすのって、その水晶じゃなくてわたしの役割だし。それに、水晶じゃわたし成分が減ってるっていうか、そもそも仕事が奪われてるっていうか……」
「ん? ごめん、リンちゃん聞こえなかった」
珍しく、リンちゃんがモゴモゴ話してて聞き取れない。
いつもは耳いっぱいに話してくれるのに、今日はなんだか歯切れが悪いぞ。
顔も真っ赤で……、もしかして、怒ってる!?
「り、リンちゃん。あのね? 違うの。これは別に、嫌がらせをしようとかそういうことじゃなくってね? リンちゃんに毎朝起こしてもらってるから、少しでもリンちゃんを楽させてあげたいっていうこと。でも、リンちゃんを感じながら起きたいって私のわがままを叶えるためのものなの。ね?」
「い、嫌とかじゃないもん。でも、それなら別に? いつもみたいにわたしが起こせばいいじゃん。そんな透明な石ころを使わなくてもいいのに。絶対絶対、水晶なんかに朝のわたしの楽しみを奪わせたりなんかしないから!」
ぷくーっとほほをふくらませ、私のことをじっとにらんできている。
だが、すぐにリンちゃんはビクッと背中を震わせると顔を真っ赤にして目線を泳がせ始めた。
「リンちゃん、今のって……?」
「し、知らない! お姉ちゃんなんか知らない! べ、別に、お姉ちゃんの寝顔を見たいとかそういうんじゃないから!」
「寝顔……?」
「……う、ううう、うるさい! みんなお姉ちゃんを頼るから、朝しか2人になれないんだもん。ああもう、知らない。ばーかばーか!」
ベーっと舌を出すと、リンちゃんは慌てたように寝室を出て行ってしまった。
どうしよう。すっごい剣幕で言ってたな。
「……これ、さすがに怒らせたってことだよね?」
ど、どどど、どうしよう。どうしたらいいの? 神様、仏様、雷様!
どこにどう怒っているのか、まだちょっと整理ができていないけど、このままの関係値はまずい。修正しなくては。
お姉ちゃんとして、照れてるとか思い上がった推測はできません。
「そ、そうだ。ひとまず朝ご飯の時にさりげなく雑務を代わってあげよう」
うん。そうしよう。
炊事洗濯皿洗い。お姉ちゃんとして、スマートにね。
それでさりげなく謝れば……。
「う、うん。いけるはず」
シミュレーションは完璧。あとは実践するだけだ。
…………。
き、嫌われたくないよぉ。
パンッ! と勢いよくほほを叩いた。
ジンジンと顔が痛む。
「けど、これで悩むの終わり」
私は切り替えて息を吐く。
いつまでも引きずっているとフォローに失敗するからね。
「でも、ふ、ふふっ」
とはいえ、この一日二日で私は完全に理解してしまった。
今の私のやることを。
今世で私がやるべきことを。
「ふ、ふふふ。ふふふふふ」
思わず笑いが止まらない。
胸のワクワクが収まらない。
多分、天啓を得た時ってこんな感じなんじゃないかな?
「私は気づいてしまった。リンちゃんを守るとは、未来永劫、リンちゃんがいたことを後世にも遺し続けることだって」
力で暴力を押し返すだけじゃあ足りなかったんだ。
本来はより調和的に、より博く、リンちゃんの魅力を行き渡らせる必要があるってことだ。
だって私は前世で何も遺せなかったんだから。何を遺すか? そう、リンちゃんだよね?
もっとリンちゃんがいたことを明確にこの世に刻み込まなくては。
「ああ! こうしちゃいられない。リンちゃんに謝ったら、こっそりでもすぐにリンちゃんの記録を遺すようにしないと。一日が、魔力が限られてるのが惜しい!」
「はーい!」
私は目覚まし水晶を止めて起き上がった。
リンちゃんの声で目覚める素晴らしい朝。朝はリンちゃんの声で起きると決めてますからね、私。
小鳥のさえずりも聞こえてきて朝の陽光が体をぽかぽかと温めてくれる。
なんて素晴らしい1日の始まりなんだ。こんな生まれたての感情なんて、前世も含めてこれまで感じたことがない。
最高。
まあ、毎日感じてますけど。
だって、本物には敵わないんだもん。今日はほぼ一位タイって感じ。
「おはよ、リンちゃん」
私はいつも先に起きているリンちゃんに先回りして挨拶をした。
すると、水晶から自分の声がしたからだろう、あっけに取られたような顔をして固まっているリンちゃんの姿が見て取れた。
録音の依頼はしたけど、何をするか話していなかっただけに、大層驚いているのがわかる。
「お、おはよう。お姉ちゃん……」
挨拶の流れで私が水晶をこれ見よがしに突き出すとリンちゃんは水晶と私を高速で見比べ出した。
その口はぽかんと開いたままだ。
かわいい。
「お姉ちゃん、それ、どういう仕組み? 昨日わたしがしゃべったものとおんなじ声がその水晶から聞こえたけど、どういうこと?」
「ふっふっふ。聡明なる我が妹は気づいてしまうか。ああ、やはりリンちゃんは神が私へ与えた唯一の贈り物」
「そーいうのいーから」
じっとりとした目で見つめられ、私の胸は高鳴った。
やっぱり、リンちゃんはどんな顔をしていてもかわいらしい。
リンちゃんにはキュンキュンさせられっぱなしだよ。
とはいえ、にらまれっぱなしというのもかっこがつかないので、私はこほんと咳払いをした。
「すごいでしょ? 名付けてリンちゃん目覚まし水晶」
「リンちゃん目覚まし? って、わたしのこと? 全然説明になってないんだけど」
「えーっとね、音を録音する水晶を解析して、水晶内に保存されている魔力路を複製、同時に時を刻む魔力路をかけ合わせて、手頃な水晶へと刻んだ上、待機中の魔力を吸収して自家発電を行うことで、特定の時間になったら自動的に魔力が水晶内を流れ、リンちゃんの声で起こしてくれる魔導具なんだよ。どう? 優れものでしょ?」
私は自信満々に早口でまくし立てた。
一連の内容を聞いて、リンちゃんはキョトンと目をしばたかせた。
「……つ、つまりどういうこと?」
「つまり! 毎日、今の時間になったらリンちゃんの声がこの水晶から流れるの。最高でしょ? 私って天才さん? 完璧じゃんね!」
「…………」
あ、あれ?
あまり凄さが伝わらなかったのかな?
残念ながらリンちゃんからは返事が返ってこない。
「……………………いや、まあ? お姉ちゃんがいつでもわたしの声を聞けるようになるって言うから協力したけど……、お姉ちゃんを起こすのって、その水晶じゃなくてわたしの役割だし。それに、水晶じゃわたし成分が減ってるっていうか、そもそも仕事が奪われてるっていうか……」
「ん? ごめん、リンちゃん聞こえなかった」
珍しく、リンちゃんがモゴモゴ話してて聞き取れない。
いつもは耳いっぱいに話してくれるのに、今日はなんだか歯切れが悪いぞ。
顔も真っ赤で……、もしかして、怒ってる!?
「り、リンちゃん。あのね? 違うの。これは別に、嫌がらせをしようとかそういうことじゃなくってね? リンちゃんに毎朝起こしてもらってるから、少しでもリンちゃんを楽させてあげたいっていうこと。でも、リンちゃんを感じながら起きたいって私のわがままを叶えるためのものなの。ね?」
「い、嫌とかじゃないもん。でも、それなら別に? いつもみたいにわたしが起こせばいいじゃん。そんな透明な石ころを使わなくてもいいのに。絶対絶対、水晶なんかに朝のわたしの楽しみを奪わせたりなんかしないから!」
ぷくーっとほほをふくらませ、私のことをじっとにらんできている。
だが、すぐにリンちゃんはビクッと背中を震わせると顔を真っ赤にして目線を泳がせ始めた。
「リンちゃん、今のって……?」
「し、知らない! お姉ちゃんなんか知らない! べ、別に、お姉ちゃんの寝顔を見たいとかそういうんじゃないから!」
「寝顔……?」
「……う、ううう、うるさい! みんなお姉ちゃんを頼るから、朝しか2人になれないんだもん。ああもう、知らない。ばーかばーか!」
ベーっと舌を出すと、リンちゃんは慌てたように寝室を出て行ってしまった。
どうしよう。すっごい剣幕で言ってたな。
「……これ、さすがに怒らせたってことだよね?」
ど、どどど、どうしよう。どうしたらいいの? 神様、仏様、雷様!
どこにどう怒っているのか、まだちょっと整理ができていないけど、このままの関係値はまずい。修正しなくては。
お姉ちゃんとして、照れてるとか思い上がった推測はできません。
「そ、そうだ。ひとまず朝ご飯の時にさりげなく雑務を代わってあげよう」
うん。そうしよう。
炊事洗濯皿洗い。お姉ちゃんとして、スマートにね。
それでさりげなく謝れば……。
「う、うん。いけるはず」
シミュレーションは完璧。あとは実践するだけだ。
…………。
き、嫌われたくないよぉ。
パンッ! と勢いよくほほを叩いた。
ジンジンと顔が痛む。
「けど、これで悩むの終わり」
私は切り替えて息を吐く。
いつまでも引きずっているとフォローに失敗するからね。
「でも、ふ、ふふっ」
とはいえ、この一日二日で私は完全に理解してしまった。
今の私のやることを。
今世で私がやるべきことを。
「ふ、ふふふ。ふふふふふ」
思わず笑いが止まらない。
胸のワクワクが収まらない。
多分、天啓を得た時ってこんな感じなんじゃないかな?
「私は気づいてしまった。リンちゃんを守るとは、未来永劫、リンちゃんがいたことを後世にも遺し続けることだって」
力で暴力を押し返すだけじゃあ足りなかったんだ。
本来はより調和的に、より博く、リンちゃんの魅力を行き渡らせる必要があるってことだ。
だって私は前世で何も遺せなかったんだから。何を遺すか? そう、リンちゃんだよね?
もっとリンちゃんがいたことを明確にこの世に刻み込まなくては。
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