姉バカ転生者〜ゲーム世界で魔物を蹴散らしながら妹をバズらせるまで〜

マグローK

文字の大きさ
4 / 5

第4話 音を継ぐ水晶

しおりを挟む
 もっと強くなりたい。まだまだ力がほしい。

 昨日の魔王軍との戦いで私は自分の無力さを思い知った。
 今のままでは魔王軍の侵攻を止められない。
 それでは、この村を守れない。

「……リンちゃんを守れない」

 そこで技術を高めたいんだけれど、正直私の村にいいものがない。
 魔王軍に対して使った魔力弾も前世の記憶を生かして編み出した非スキル系の技だ。

 昨日の私を見て、ひいおばあちゃんが何か言いたそうにしていたけど、ひいおばあちゃんだしなぁ……。

「魔王が復活するまでの約半世紀、平和な時代が続いていただけに、辺村にまで魔力の扱いが伝わっていないのかな?」

 ゲームでは当たり前のように魔法も扱えたものだけど、才能の観点からして、その存在すら把握していないようだった。
 基礎体力とか生活の質向上みたいな生活の知恵という印象だ。

「……敵の数が増えても被害は増えるし、それこそ、師匠とかほしいところなんだけど……」

「精が出るねぇ。我が孫娘」

「おわぁあっ! ひ、ひいおばあちゃん。どしたの急に」

「どうしたの、はこちらのセリフじゃ。なんだい。人を化け物みたいに扱って。せっかくプレゼントと思ったのにな」

「いやぁ、あはは……、化け物だなんて、そんな……」

 思っていても口にはだせまい。

 なんてったって、実のひいおばあちゃんなんだから。

 現代ほど医療の発達していないこのメグルアドベンチャーの世界だと、ひいおばあちゃんは化け物と言っても過言じゃない。
 他にいないくらいの長寿。
 ただものではないに決まっている。

 現に、見た目が、まあ、うん。人とは思えないほどの容姿だ。
 シワにシワを重ねて、さらにシワを増やした上でシワを足した見た目をしている。
 正直、どうして村で受け入れられるのやら、という描写し難い美しさだ。

「全く、なんじゃその目は。いつからかワシのことを死人のように見おって」

「な、なんでもないって。それでひいおばあちゃん。今日は何の用?」

「話を急くでない。そもそも、普段からそう長くはないじゃろう」

「いや、それは、ねぇ?」

「歯切れが悪い。今日は特に短いのじゃから付き合え」

「……」

 と、本人は言っているけれど、ひいおばあちゃん、孫と話したすぎなのか、普段の話が長いのなんの。
 今回も、本当に短いのかどうかも信用できないところだ。

「だからそんな目を向けるな。短いじゃろうて。もう本題へ入るぞ。ほれ、これじゃ。今の歳なら渡してもいいじゃろうと思ってな」

「ボール……?」

「水晶じゃ」

 と言って手渡されたのは、片手で持てるほどの水晶。
 それはそれは透明度が高く、現代で見ても逸品に思えるほど向こう側が輝いて透き通るように見通せる。

 それに、ただの水晶という訳ではない様子。

 普段日常で接する他の物とは比べようもないほどの強い魔力を感じる。
 きっと、ひいおばあちゃんが渡してくる謎のお土産とは訳が違う。
 今回ばかりは、ただの雑貨ではないのだろう。

「ひいおばあちゃん、これは……?」

「うちでは魔導具と言われておる。若いもんの言葉で言えばマジックアイテムとかなんとかいうらしいな」

「魔導具。マジックアイテム……! ……ちょっと待って、どうしてこんな辺村に!?」

 マジックアイテムといえば、ゲームでだって「大事なもの」みたいな感じでそもそも入手方法が限られていたものだ。
 そのほとんどは売れないし、特別な用途でゲームの進行に強く影響を及ぼしていた。

 魔力が込められて少し質がいいものにもそんな言い回しを使っていたけれど、昨日の魔物を超える魔力からすると比喩じゃなく本物の可能性が高いと思う。

 くちびるの端を噛んで、バラしてみたい衝動を必死に抑えながら私は水晶を握りしめた。

「これ、どんな風に使うの?」

「魔力を流すことで音を中に閉じ込め、また、閉じ込めた音を再び出すことができる代物じゃ」

「なる、ほど……?」

 音を閉じ込めて、音を出す。
 音爆弾? クラッカーってこと?

「よくわかっていないな? ほれ、魔力の扱いには長けているじゃろ? 流してみんさい」

「ま、まあ……」

 言われるがまま、私は水晶に魔力を流してみた。

 返ってきたのは微振動。

「え、ちっさ」

「慎重すぎじゃ。もっと流して大丈夫じゃ」

「な、流すよ?」

『悪しき力を持つ者の復活、それは月に示される。その時、陽のアザを宿した子が』

「……っ!」

 聞き覚えのある内容が水晶から響いてきて、足から全身へゾワっと一気に鳥肌が広がった。

 スマホのないこの世界で体感したことのなかった音の届く感覚に記憶がよみがえってきた気がする。
 録音された人の声だ。

 一瞬にして私は顔を上げ、ひいおばあちゃんの顔を見た。
 シワだらけの老人が放つドヤ顔。それは、記憶に強く残る顔だった。
 それでも、納得できる。

 魔法が発達しているせいで科学的が発展していないこの世界において魔導具はやはり特別だ。

「ひいおばあちゃん、これって……」

「そう。口伝の内容じゃ。たとえ記憶が残らずとも、記録が残る。例えば、こんな風に」

『お姉ちゃん。お姉ちゃん!』

「え、リンちゃん!?」

 今度は身近な人間の声が聞こえてきて、私は慌てて水晶に耳を近づけた。

『今日は2人で遊びたい!』
『なんでー! お兄ちゃんたち置いてくからお姉ちゃんとがいいの』
『うぅ、わかった。明日は約束だよ?』

 どう聞いてもリンちゃんの声。
 まだ幼い印象から、これは4年前のもの。

「どうして……?」

「最近のものが再生されたのは驚きじゃが、当然のことじゃよ。その水晶には複数の音が閉じ込められるのじゃからな。口伝だけでなく、我ら一族の思い出も当然残されておる」

「そんな大事なもの、もらっちゃっていいの?」

「お主にやろう。より学びになろう」

「ありがとう、ひいおばあちゃん! でも、すごいことはわかったけど、どこで手に入れたの?」

「家柄じゃな。代々受け継がれておるのよ。ワシに渡されるより以前からな。外から入ったというもっぱらの伝承じゃ」

 録音可能な水晶なんて、ゲームにも出てこなかった代物だ。
 ゲームの画面は、ゲーム機の機能でキャプチャしてただけで作品世界内では写真はおろか、音声を残すような技術すら出てこなかった。

 ってことはこれ、もしかして、もっといい使い方があるんじゃない?
 この世界における、革新的な何か。
 だって、上書きせずとも録音もできるんでしょ?

「じゃあね、ひいおばあちゃん」

「おい。話はまだ終わってないぞ」

 ここで立ち止まっていられない。

 早速水晶が放つ魔力の質を解析しよう。
 リンちゃんの声を聞けるんだ。なら、リンちゃんの声を使って、まずやってみたいことがある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...