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第3話 妹を守るのが姉の役目でしょ?
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衛兵へのスカウトを断り続けているうちに5年の月日が過ぎた。
「……お姉ちゃ」
「……ここにいるよ」
最近はリンちゃんの寝顔を見ることにハマっている。
いや、それだけでなく、しっかりと目的を意識していた5年でもあったよ?
私はこの5年で成長した兄3人より成長しているもの。
まあ、その比較対象の兄3人がどんなことをしているかと言えば、お父さんとともに、立派に衛兵として村を守るようになった。
「お、追いつけねぇ」
「なんですか、その動き」
「おかしいとは思ったけど、ここまでとは」
なんて、私に追いつけなかった姿が目に浮かぶ。
……かけっこの話だけど……。
まあでも、そんなお兄ちゃんたちだけど、今では、3人がかりで万全な状態の古狼を倒すことも難しくないと思う。
「……いやぁ、この5年、色々やってきたもんなぁ」
基本的には遊び形式の特訓を変わらずやってきた。
魔力量と魔力の扱いが上手だった私が一番動き回る役をやらされて、その度に全力疾走してたっけ。
「懐かしいものよ」
そんな武闘派な兄たちとは打って変わって、リンちゃんはそれはそれは美人さんになって、一緒の空気を吸うことが罪なんじゃないかとさえ思うほどキレイになっていた。
ただ、大人になってしまったようで、前ほどベタベタしてくれなくなってしまった。
悲しい。
今もチラチラと私の手や何やらを見てくるだけで、あの頃みたく後ろからハグとかしてくれなくなってしまった。
嫌いって感じじゃないんだけど、なーんか距離があるんだよね。
「リーンちゃん」
「な、何。お姉ちゃん」
話しかけるため近づいてもスッと離れてしまう。
表情も硬い気がするし。
「リンちゃん、なんか最近距離ない?」
「別にー」
「そう?」
「そうそう。……だって、お姉ちゃん。わたしだけ過保護なんだもん。わたしだってもう大人なのに」
「んぅ?」
「なんでもなーい」
とは言うけど、何か裏がありそうな気はしてる。
本当は嫌われてたりして……、悲しい。陰口とか言われてたら本当に泣いちゃうよ?
……いや、そんなこと、ない、よね……? 大丈夫、だよね……?
という人間関係の変化がありながらも、村の状況はまだ悪化していない。
緑の肌をした人を見たとか、豚ヅラの大男が木をなぎ倒していたとか、魔王軍らしいうわさは立っているけれど、まだ実害は出ていない。
家族の話、村の話ときて、じゃあ私はどうなんだ? と聞かれそうだけど、私は、と言えば……、
「なあフェネル。お前も衛兵にならないか?」
「ならない」
10歳という子どもの立場を利用して相変わらず自由を謳歌していた。
子どもサイコー。
そんな私に、ひと足さきに衛兵として働き出したキウス兄が呆れたように苦言を呈してきた。
「本当に村の衛兵にはならないのか? 衛兵になれば役割だけじゃなくってできることも増えるぞ? 今まで行けなかった場所まで行く許可も得られるし」
「何度も言ってるけど、ならないものはならない」
「ですがフェネル。フェネルの力は村でも飛び抜けています。この間の剣術大会も父に勝って優勝していたではないですか。口伝の中に出てくる勇者の仲間にもなれるほどの力でしょう?」
いつもながら冷静なササス兄は根拠を持ち出して言ってくる。
口伝の勇者は本来の主人公のこと。
ゲーム開始前に滅びているこの村へ来る頃には私なんて足元にも及ばない戦士が育っているだろうさ。
たとえ村を守れてもね。
「なれないなれない。それは兄バカだよ。そもそも、勇者なんて来ないでしょ?」
「つっても、あの日から魔力とやらも学ぶようになっておんなじようにやってきたのに、少しは長く生きてる俺たちより強いってのはどういうことかね? 何か隠してるんじゃないのか?」
相変わらず鋭いところをついてくるタリス兄。
だけどそんな指摘もいつものことなので私は平然と手を横に振った。
「ないない。違うとすれば、お母さんから口伝の話を聞いてることくらいでしょ」
私は兄3人をしっしと手で払いながら、そのまま控えめな様子で離れて見ていたリンちゃんにギューっと抱きついた。
そのままほおずりへ移行。
油断していたらしいリンちゃんの体がびくんと跳ねた。
かわいらしい反応ににやけてしまう。
そのまま弱々しく押し返すように腕を伸ばしてくるのを感じながら、柔らかいほっぺとあったかい体に身を寄せ合う。
「私はリンちゃんの騎士だから。村の衛兵にはならないんだー」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!? いつものことだけど、わたしももう子どもじゃないから、恥ずかしい」
「いいじゃん、ちょっとくらい。昔はリンちゃんの方からしてくれたのに」
「そ、それは、昔のことだし……、とにかく、わたしはもう大人なの!」
「あうぅ」
「……あっ」
振り払われた。悲しい。
一応おとなしく離れておいたけど、少し悲しそうに私に手を伸ばしてるのはそんなに私が嫌かね?
なんて。
「まったく、お前らは」
カンカンカンカン、と緊急を知らせる鐘の音が村の入り口方向から響いてきた。
何か言いかけていたキウス兄も黙って私たちに目配せしてくる。
その顔はすでに真剣そのものに変わっていた。
こんなこと、今までなかったのだ。当然だろう。
「行くぞ」
「はい。キウス兄さん」
「何もなきゃいいんだが」
私はリンちゃんの頭をくしゃくしゃっと撫でて両手をその肩に置いた。
「いい? リンちゃん。お母さんのそばにいるように」
「でも、お姉ちゃんは?」
「大丈夫。私がお兄ちゃんたちより強いことはリンちゃんも知ってるでしょ?」
「……ならわたしも」
「それはダメ」
困ったように私から視線をそらし、口をとがらすリンちゃん。
色々思うところはあるけれど、やっぱりうちの家族にはいい子が多い。
リンちゃんだって、最近はツンが多いけど、やっぱり私が嫌いな訳じゃないって伝わってくる。
とか思っていると、リンちゃんの方から久しぶりにギュッとハグしてきてくれた。
「絶対、帰ってきてね」
その体は震えていて、声も震えを隠そうとしているのが伝わってくる。
私を抱く腕にも力みが感じられて、恐怖で体が強張っているのがわかる。
本当、かわいいんだから。世界一の妹だよ。
「わかった」
「絶対だよ」
リンちゃんが離れて走り出したのを見てから、私も音の方へと走り出した。
「……バカ、本当に過保護。お姉ちゃんだって女の子なのに。わたしだって役に立ちたいのに……無事でいてよ」
「女子供を先に逃がせ!」
「どうしてこの村が襲われなきゃいけないんだ」
「クソッ。まだ死にたくないってんだよ」
村の入り口へとやってくるとすでに半ば地獄のような混乱状態だ。
すでに、村を取り囲んでいる柵はあちこちすでに壊されて、オークやゴブリンという魔王軍の侵入を許していた。
それでも、お父さん含めた衛兵の皆さんが即座に対応したようで逃げ遅れや死者は出ていないように見える。
とはいえ、少しの油断も許されない状況。敵の数はざっと50から100。
今はまだ地の利を活かせていても、次第に苦しくなっていくはずだ。
「……うわさの通り、亜人種が多い」
オークやゴブリンという構成員を見ると、私たちの地域を担当しているのは亜人種。
統括している幹部の名は、デミル。
肉弾戦が得意で短絡的だが、魔王に心酔しているヤツだ。
性格とその価値観だけあって手を抜くという発想がない。
ゲームでは幹部の中では最序盤の敵ながら、レベルの上げやすさから初見では苦戦しやすい敵の筆頭でもあった。
私が知る村の惨状も思えば納得の相手だ。
「父さん!」
「お前ら。援護を頼む」
「はい」
「あいよ」
颯爽と駆け出していく兄たちを眺めながら私は息を吐き出した。
この状況を前に私も心を決めた。
「……私がやるんだ」
今日がその日だ。
5年前、村が滅びる時を推し測った私は正しかった。
私は今日のために鍛えてきた。
ここで動かずいつ動く。
リンちゃん。あなたは私が守るよ。
「さて、本番だ」
制御していた魔力を使うため、私は一斉に体内の魔力を解放した。
瞬間、その場にいた全員が私の方へと視線を向けた。
魔力すら持たない村の人たちも、その瞬間は何事かと私のことを見ていた。
5年間、鍛えに鍛えた魔力だ。
「なんだ。あれ」
「今まで見たことない魔力量です。これは一体……」
「どういうことだよ。隠してないって言ってたのに」
「フェネル……? あれは本当に私の娘なのか?」
兄たちすら誰もがあっけに取られている間に、私は指の先へと魔力を集中。
小指の爪程度の大きさで魔力を取り出して、アホヅラさらしているオークへと射出した。
魔力の球は一瞬にして敵の脳天を貫くと、オークの体は後方へ大きく吹っ飛んでいった。
まずは一体。
そのまま、横へ続け様に、二体、三体と撃っていく。
十体ほど倒したところで、止まっていたかのような時が動き始めた。
魔王に従う亜人たちも何が起こっているのか理解したらしい。
手を止めていた亜人の集団は他のものには目もくれず、私へ向けて襲いかかってきた。
「アイズダアイズダ」
「ヤレヤレヤレ」
だみ声で叫びながら武器を掲げて向かってくる一団。
次々と撃っても勢いがおさまるところを知らない。
「これも想定内」
遠距離での攻撃は数減らしまでで十分。
その先、襲いかかって集団での戦闘にこのまま戦うのは不向きと分かっていた。
だからこそ。
古狼と戦った時と違い、私は魔力を全身にくまなく行き渡らせた。
そのまま地面を蹴っての右ストレート。
一列に並んでいた亜人たちを一気になぎ倒し、私はそのままサイドステップ。
「ヨケ」
「遅い」
構え直して左ストレートで残りの集団を根こそぎ吹き飛ばした。
「ふぅ……」
村の被害は私の記憶とは全く違う柵の破壊程度。
とはいえ、初戦は雑魚敵だろうと思っていただけに緊張はなかったけれど、正直自分にガッカリした。
体感時間は3分。
宇宙のヒーローなら帰っている。
相手は雑魚なのに。これから来るのはより強力な相手だというのに。
「おいおい。1人で片しといてなんて顔してんだ?」
「そうですよ。フェネル1人で相手できるなんて」
「やっぱり何か隠してんだろ? な?」
私は兄3人の言葉に首を左右に振った。
「お姉ちゃん!」
「……リンちゃ」
顔を上げ呼びかけるより先に、リンちゃんは私に抱きついてきていた。
「心配したんだよ。置いてくから」
「お母さんのところにいてって言ったのに」
「お姉ちゃんならすぐ終わらせると思って」
照れたようにすぐに離れてしまったけど、赤くなっているリンちゃんの姿はかわいい。
困ったことに、妹も私に影響されて行動的な方だ。
今日はよかった。覚悟した通り、妹を守れたから。
これからだ。
今回は私がいなくても守れたのかもしれない。
私は村と妹を守り続けられるようにしなくちゃいけないんだ。
「……もっと速く勝てるようにしなくちゃ、すぐ次が来る」
遠くから、破壊を喜ぶ喝采が聞こえたような気がした。
「……お姉ちゃ」
「……ここにいるよ」
最近はリンちゃんの寝顔を見ることにハマっている。
いや、それだけでなく、しっかりと目的を意識していた5年でもあったよ?
私はこの5年で成長した兄3人より成長しているもの。
まあ、その比較対象の兄3人がどんなことをしているかと言えば、お父さんとともに、立派に衛兵として村を守るようになった。
「お、追いつけねぇ」
「なんですか、その動き」
「おかしいとは思ったけど、ここまでとは」
なんて、私に追いつけなかった姿が目に浮かぶ。
……かけっこの話だけど……。
まあでも、そんなお兄ちゃんたちだけど、今では、3人がかりで万全な状態の古狼を倒すことも難しくないと思う。
「……いやぁ、この5年、色々やってきたもんなぁ」
基本的には遊び形式の特訓を変わらずやってきた。
魔力量と魔力の扱いが上手だった私が一番動き回る役をやらされて、その度に全力疾走してたっけ。
「懐かしいものよ」
そんな武闘派な兄たちとは打って変わって、リンちゃんはそれはそれは美人さんになって、一緒の空気を吸うことが罪なんじゃないかとさえ思うほどキレイになっていた。
ただ、大人になってしまったようで、前ほどベタベタしてくれなくなってしまった。
悲しい。
今もチラチラと私の手や何やらを見てくるだけで、あの頃みたく後ろからハグとかしてくれなくなってしまった。
嫌いって感じじゃないんだけど、なーんか距離があるんだよね。
「リーンちゃん」
「な、何。お姉ちゃん」
話しかけるため近づいてもスッと離れてしまう。
表情も硬い気がするし。
「リンちゃん、なんか最近距離ない?」
「別にー」
「そう?」
「そうそう。……だって、お姉ちゃん。わたしだけ過保護なんだもん。わたしだってもう大人なのに」
「んぅ?」
「なんでもなーい」
とは言うけど、何か裏がありそうな気はしてる。
本当は嫌われてたりして……、悲しい。陰口とか言われてたら本当に泣いちゃうよ?
……いや、そんなこと、ない、よね……? 大丈夫、だよね……?
という人間関係の変化がありながらも、村の状況はまだ悪化していない。
緑の肌をした人を見たとか、豚ヅラの大男が木をなぎ倒していたとか、魔王軍らしいうわさは立っているけれど、まだ実害は出ていない。
家族の話、村の話ときて、じゃあ私はどうなんだ? と聞かれそうだけど、私は、と言えば……、
「なあフェネル。お前も衛兵にならないか?」
「ならない」
10歳という子どもの立場を利用して相変わらず自由を謳歌していた。
子どもサイコー。
そんな私に、ひと足さきに衛兵として働き出したキウス兄が呆れたように苦言を呈してきた。
「本当に村の衛兵にはならないのか? 衛兵になれば役割だけじゃなくってできることも増えるぞ? 今まで行けなかった場所まで行く許可も得られるし」
「何度も言ってるけど、ならないものはならない」
「ですがフェネル。フェネルの力は村でも飛び抜けています。この間の剣術大会も父に勝って優勝していたではないですか。口伝の中に出てくる勇者の仲間にもなれるほどの力でしょう?」
いつもながら冷静なササス兄は根拠を持ち出して言ってくる。
口伝の勇者は本来の主人公のこと。
ゲーム開始前に滅びているこの村へ来る頃には私なんて足元にも及ばない戦士が育っているだろうさ。
たとえ村を守れてもね。
「なれないなれない。それは兄バカだよ。そもそも、勇者なんて来ないでしょ?」
「つっても、あの日から魔力とやらも学ぶようになっておんなじようにやってきたのに、少しは長く生きてる俺たちより強いってのはどういうことかね? 何か隠してるんじゃないのか?」
相変わらず鋭いところをついてくるタリス兄。
だけどそんな指摘もいつものことなので私は平然と手を横に振った。
「ないない。違うとすれば、お母さんから口伝の話を聞いてることくらいでしょ」
私は兄3人をしっしと手で払いながら、そのまま控えめな様子で離れて見ていたリンちゃんにギューっと抱きついた。
そのままほおずりへ移行。
油断していたらしいリンちゃんの体がびくんと跳ねた。
かわいらしい反応ににやけてしまう。
そのまま弱々しく押し返すように腕を伸ばしてくるのを感じながら、柔らかいほっぺとあったかい体に身を寄せ合う。
「私はリンちゃんの騎士だから。村の衛兵にはならないんだー」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!? いつものことだけど、わたしももう子どもじゃないから、恥ずかしい」
「いいじゃん、ちょっとくらい。昔はリンちゃんの方からしてくれたのに」
「そ、それは、昔のことだし……、とにかく、わたしはもう大人なの!」
「あうぅ」
「……あっ」
振り払われた。悲しい。
一応おとなしく離れておいたけど、少し悲しそうに私に手を伸ばしてるのはそんなに私が嫌かね?
なんて。
「まったく、お前らは」
カンカンカンカン、と緊急を知らせる鐘の音が村の入り口方向から響いてきた。
何か言いかけていたキウス兄も黙って私たちに目配せしてくる。
その顔はすでに真剣そのものに変わっていた。
こんなこと、今までなかったのだ。当然だろう。
「行くぞ」
「はい。キウス兄さん」
「何もなきゃいいんだが」
私はリンちゃんの頭をくしゃくしゃっと撫でて両手をその肩に置いた。
「いい? リンちゃん。お母さんのそばにいるように」
「でも、お姉ちゃんは?」
「大丈夫。私がお兄ちゃんたちより強いことはリンちゃんも知ってるでしょ?」
「……ならわたしも」
「それはダメ」
困ったように私から視線をそらし、口をとがらすリンちゃん。
色々思うところはあるけれど、やっぱりうちの家族にはいい子が多い。
リンちゃんだって、最近はツンが多いけど、やっぱり私が嫌いな訳じゃないって伝わってくる。
とか思っていると、リンちゃんの方から久しぶりにギュッとハグしてきてくれた。
「絶対、帰ってきてね」
その体は震えていて、声も震えを隠そうとしているのが伝わってくる。
私を抱く腕にも力みが感じられて、恐怖で体が強張っているのがわかる。
本当、かわいいんだから。世界一の妹だよ。
「わかった」
「絶対だよ」
リンちゃんが離れて走り出したのを見てから、私も音の方へと走り出した。
「……バカ、本当に過保護。お姉ちゃんだって女の子なのに。わたしだって役に立ちたいのに……無事でいてよ」
「女子供を先に逃がせ!」
「どうしてこの村が襲われなきゃいけないんだ」
「クソッ。まだ死にたくないってんだよ」
村の入り口へとやってくるとすでに半ば地獄のような混乱状態だ。
すでに、村を取り囲んでいる柵はあちこちすでに壊されて、オークやゴブリンという魔王軍の侵入を許していた。
それでも、お父さん含めた衛兵の皆さんが即座に対応したようで逃げ遅れや死者は出ていないように見える。
とはいえ、少しの油断も許されない状況。敵の数はざっと50から100。
今はまだ地の利を活かせていても、次第に苦しくなっていくはずだ。
「……うわさの通り、亜人種が多い」
オークやゴブリンという構成員を見ると、私たちの地域を担当しているのは亜人種。
統括している幹部の名は、デミル。
肉弾戦が得意で短絡的だが、魔王に心酔しているヤツだ。
性格とその価値観だけあって手を抜くという発想がない。
ゲームでは幹部の中では最序盤の敵ながら、レベルの上げやすさから初見では苦戦しやすい敵の筆頭でもあった。
私が知る村の惨状も思えば納得の相手だ。
「父さん!」
「お前ら。援護を頼む」
「はい」
「あいよ」
颯爽と駆け出していく兄たちを眺めながら私は息を吐き出した。
この状況を前に私も心を決めた。
「……私がやるんだ」
今日がその日だ。
5年前、村が滅びる時を推し測った私は正しかった。
私は今日のために鍛えてきた。
ここで動かずいつ動く。
リンちゃん。あなたは私が守るよ。
「さて、本番だ」
制御していた魔力を使うため、私は一斉に体内の魔力を解放した。
瞬間、その場にいた全員が私の方へと視線を向けた。
魔力すら持たない村の人たちも、その瞬間は何事かと私のことを見ていた。
5年間、鍛えに鍛えた魔力だ。
「なんだ。あれ」
「今まで見たことない魔力量です。これは一体……」
「どういうことだよ。隠してないって言ってたのに」
「フェネル……? あれは本当に私の娘なのか?」
兄たちすら誰もがあっけに取られている間に、私は指の先へと魔力を集中。
小指の爪程度の大きさで魔力を取り出して、アホヅラさらしているオークへと射出した。
魔力の球は一瞬にして敵の脳天を貫くと、オークの体は後方へ大きく吹っ飛んでいった。
まずは一体。
そのまま、横へ続け様に、二体、三体と撃っていく。
十体ほど倒したところで、止まっていたかのような時が動き始めた。
魔王に従う亜人たちも何が起こっているのか理解したらしい。
手を止めていた亜人の集団は他のものには目もくれず、私へ向けて襲いかかってきた。
「アイズダアイズダ」
「ヤレヤレヤレ」
だみ声で叫びながら武器を掲げて向かってくる一団。
次々と撃っても勢いがおさまるところを知らない。
「これも想定内」
遠距離での攻撃は数減らしまでで十分。
その先、襲いかかって集団での戦闘にこのまま戦うのは不向きと分かっていた。
だからこそ。
古狼と戦った時と違い、私は魔力を全身にくまなく行き渡らせた。
そのまま地面を蹴っての右ストレート。
一列に並んでいた亜人たちを一気になぎ倒し、私はそのままサイドステップ。
「ヨケ」
「遅い」
構え直して左ストレートで残りの集団を根こそぎ吹き飛ばした。
「ふぅ……」
村の被害は私の記憶とは全く違う柵の破壊程度。
とはいえ、初戦は雑魚敵だろうと思っていただけに緊張はなかったけれど、正直自分にガッカリした。
体感時間は3分。
宇宙のヒーローなら帰っている。
相手は雑魚なのに。これから来るのはより強力な相手だというのに。
「おいおい。1人で片しといてなんて顔してんだ?」
「そうですよ。フェネル1人で相手できるなんて」
「やっぱり何か隠してんだろ? な?」
私は兄3人の言葉に首を左右に振った。
「お姉ちゃん!」
「……リンちゃ」
顔を上げ呼びかけるより先に、リンちゃんは私に抱きついてきていた。
「心配したんだよ。置いてくから」
「お母さんのところにいてって言ったのに」
「お姉ちゃんならすぐ終わらせると思って」
照れたようにすぐに離れてしまったけど、赤くなっているリンちゃんの姿はかわいい。
困ったことに、妹も私に影響されて行動的な方だ。
今日はよかった。覚悟した通り、妹を守れたから。
これからだ。
今回は私がいなくても守れたのかもしれない。
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