2 / 5
第2話 魔力強化ときょうだい全力の遊び
しおりを挟む
私が努力だけに集中できるのはあと5年。
どうしてそんなことに気づけたのかと言えば、答えは単純明快。
ゲームの進行度と関連している月の変色が見られたからだ。
そもそも、この村の存在がゲーム開始時ではすでに滅んでいる。
村の形状や規模感からして、ゲームの主人公が旅立つ前には魔王軍の侵略を受けて蹂躙されていた跡が残っているだけだった場所だと思う。
今までで把握できた情報と私のゲーム知識を照らし合わせると、タイムリミットは主人公の旅立つ約11年後ではなく、おそらく5年と試算できた。
それにしても、転生先が知っているゲームの世界でよかった。それも、「メグルアドベンチャー」の世界で。
このゲームはまだ多少余裕がある頃にギリギリやり込めたゲームだ。何かを成すにしてもやりやすさが段違いだと思う。
「さて、と。この本かな」
そんな危機的状況で妹を守る力をつけるにあたっては私の家が口伝の家系というのも大きい。
普通の家には本なんて一冊もないことが多いはずなのに、うちには本棚に本が並べられるほど情報源が豊かだ。
要は、伝承を守る役割だからこそ、たとえ辺境の村でも読み書き重視しているってことだ。そんな棚ぼただけど、独学するなら本ほど頼もしい味方もいない。
まずは基礎の基礎。体内の魔力自由に操れるようになること、だ。
利き手の指先に意識を集中させて、全魔力を球形に取り出せるようになることが第一ステップって書いてある。
こんな本の内容はゲームだと読んだという体で習得していたから知らなかったけど、案外地道で時間がかかりそうだ。
というのもこの世界ではステータスを見られない。
今、本とにらめっこしながら魔力の扱いを学んでいるように、パラパラめくってスキルを獲得したら自動的に使えるようになる、ということはないらしい。
「今の私にとってこの世界が現実ってことなんだよね」
現実じゃ、いくらスキルを身につけてもゲームほどわかりやすくステータス表示してくれない。それと同じだ。
まあでも、今の時点で全魔力なんて球形に取り出せるものでもないんだけどね。
感覚がゲームのレベリングとは全く違う中で、5年で魔王軍の侵攻を抑えられるかってところか。
いや、覚悟したじゃないか。妹は守ると。
なら、間に合わせるんだ。
「でも、気がかりなのは私自身の能力なんだよね。物語に出てこないような子だから、チートなんてあるはずもないし」
今の自分がどのくらいのレベルなのかも客観的にわかりやすく見られない。
そもそも、ゲームの主人公は才能があるうえで努力してるからね。
「お姉ちゃん。ちいと? ってなに?」
いつの間にか私の背後に立っていたかわいいかわいい妹のリンネルちゃんことリンちゃんが私の背後から抱きつきながら聞いてきた。
完全に1人だと思っていただけにビクッと心臓が跳ねた。
ニコニコしながら本と私を見比べて聞いてくるリンちゃん。
サラサラとした茶髪がほほに当たってくすぐったい。
好奇心旺盛な幼い顔に愛おしさを感じながら、ほっと胸を撫で下ろす。
「なんだリンちゃんか」
「何? 隠し事? ちいとってなあに!」
「うーん、ずるみたいに強いことかな。いや、リンちゃんには関係のない話。それより、お兄ちゃんたちと遊びに行こ」
「うん!」
リンちゃんの頭を撫でてあげてから私は立ち上がった。
小さな手を引いて歩き出す。
今の私に遊んでいる時間なんてないと思われるかもしれないけれど、本で独学するくらいしかできない今の環境では特別な修行はできない。
だからこそ、純粋な魔力量の強化ができることの1つになる。
わかりやすく言えば体力作り。どんな競技でも走り込みが基本なのと同じこと。
魔力の場合は人が少なくって魔力の多い場所で動き回ることだ。
その際に、体内の魔力を意識して使い果たすようにすることで体のキャパシティを広げて、総量を増やすことが最善。
本を読みながら細々と体を流れる魔力に意識を向けるのは全身があったかくなるような感覚で徐々に太くなっていくような感じ
だけど、使い果たして伸ばす方は全身の力が一気に抜けた後にバケツいっぱいの水を受け止めるような全身が一気に大きくなったような感覚があるのだ。
とにかく、自転車の両輪みたいに重要ってこと。
「ん?」
そんなことを思いながら歩いていると遠くから犬の遠吠えのような声が聞こえた気がした。
「どうしたの? また遅いって怒られちゃうよ?」
気のせいかな?
リンちゃんは聞こえてないみたいだし。
「ううん。なんでもない」
リンちゃんに手を引かれて走ると、3人のお兄ちゃんたちの姿が見えてきた。
その中の1人が案の定、真ん中で腕を組み私たちをにらみつけてきている。
「遅いぞ2人とも」
「ごめんなさい。キウス兄」
「ごめんなさい」
激しやすい長男キウス兄は私たちを待ちくたびれてしまったらしい。
普段ならお父さん同様、温和なのだけど、いかんせんお父さんより怒りっぽい。
まあ、子どもなら仕方ないんだけどね。
「兄さん。あまり叱らないであげてください」
いつも冷静な次男のササス兄が私たちの間に入ってくれた。
ササス兄は私たちの頭脳役みたいな役割をしてくれている。
キウス兄の暴走を真っ先に止められるのも次男のササス兄だ。
「そうそう。俺ら3人が妹たちの面倒を見てないって叱られるんだから」
気楽そうながら、ササス兄の味方に入るのは三男のタリス兄。
頭の後ろで腕を組みながら気楽そうに薄く笑っている。
それでも、いつも芯を食ったようなことを言う鋭いお兄ちゃんだ。
「ぐぅ」
キウス兄は2人の弟に反発されて不服そうにうなった。
だけど、4対1じゃさすがの長男でも反論できないらしい。
「でも遅れたことは事実だから。ごめんなさい」
「ま、次から気をつければいいし。あんまり遅れるようなら先に行ったりしないから、遅れるって言えよ」
「ありがとう」
「ん」
キウス兄も根はいい子なので、決して怒りっぱなしでもない。
妹想いで姿が見えないことを心配しがちなだけなのだ。
転生先の家族はいたって平和。
なんて思いながら、いつもみたいに遅れてきた私が鬼ごっこのようなゲームの鬼にされるのかと思ったけれど、キウス兄は黙ったまま私のことを見続けていた。
おやおや。キウス兄ったら、シスコンの気があるんじゃない?
「なあ、フェネル」
「なあに? キウス兄」
「お前、体からなんか出てないか?」
「へ?」
キウス兄の口から出た意味のわからない言葉に私は思考が追いつかず目を泳がせた。
ついかわいい妹の顔をじっと見てしまったことを誤魔化している様子ではない。
調子に乗った私の思考の恥ずかしさにちょっと顔が熱くなる。
よく見たら、私を見ているというよりも体の輪郭、それも少し外側を見ていた。
「い、いや。体からは何も出てないって。気のせい気のせい」
「そんなことない。出てるだろ。みんなも見えるよな」
「はい。うっすらと透明な何かがフェネルの体から出ています」
「なんだそれ。すげぇ。けど、大丈夫なのか?」
「お姉ちゃん。どうやってるの?」
「えぇっとぉ……」
気づいていたけどバレちまったか。
ゲームでの描写と私の予想からすれば漏れ出ているのは私の魔力。
基本的な操作よりも遊びを優先した結果、まだまだコントロールできない分が体から自由に出ちゃっているんだと思う。
できるだけバレないようにしていたつもりだけど、一般人よりも魔力量の多い家系だから他の人より早く気づいたんだろう。
だって、村じゃ何も言われてないし……。
「な、なにさ。私は全力で遊んでるだけだよ。なんともないし、大丈夫大丈夫」
どこか怪しむような疑うようなみんなの視線に、私はどきりと心臓が冷えるような感じがして早口で言い訳していた。
「本当か? オレたちだって全力だけどな」
「はい。フェネルよりも動いていると思います」
「あれじゃないか? 最近なんか家で色々やってるだろ」
「お姉ちゃん、御本読んでる」
やはり鋭い。
私のやっていることはリンちゃんから筒抜けだ。
「どうなんだ?」
「あれは……、ちょっとは関係あるかも……かなぁ?」
「後で詳しく教えろ」
「僕も気になります」
「ま、今はないんだし、帰ってからでいいじゃん?」
「……」
「……リンネルもなんか言ってやったらどうだ?」
「待って、あれ……」
リンちゃんの怯えた声に全員が指差す方へと顔を向けた。
その先にいたのは陽の光を受けて銀色に輝く体毛を生やした一匹の狼
「こ、古狼、じゃないか……?」
「どうしてこんなところにいるんでしょう」
「この周辺じゃ見ないはず」
兄3人は震える体をなんとか動かして、私たちの前に出ようとしてくれていた。
位置的に、私、リンちゃん、続けてお兄ちゃんたちという立ち位置。
ただ、3人の体は本能的な恐怖からか前に進んでいない。
後のリンちゃんはと言えばその場にしゃがみ込んで呆然としていた。
子どもだし、古狼相手じゃ仕方ない。手だれの大人が揃っていても死傷者が出るような魔獣だ。
ササス兄とタリス兄の分析通り、本来ならここには来ない。
体のあちこちを赤く染めているが乾いているところを見るとおそらくしばらく前の傷。
多分、魔王復活の影響ですみかを追われてここまでやってきたのだろう。
「私に任せて」
「ふぇ、フェネル? お、お前、何言ってんだ?」
こんな時のために力をつけてきたんだ。私がなんとかしなくっちゃ。
覚悟はしても、心臓がうるさく手汗が止まらない。
だって鍛えているとは言っても初めての実戦だ。前世では一度も経験のないこと。怖くない訳がない。
「おい。フェネル!」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん」
私は振り返りながら、多分ぎこちない笑顔で3人のお兄ちゃんとリンちゃんの顔を順に見た。
「私は1人じゃないから」
「無茶です」
「や、やめとけって。な」
「お姉、ぢゃん……ダメ。行がないで」
すでに涙交じりになっているみんなに背を向けて、私は古狼に向けて一歩踏み出した。
今日はまだ動いていない。体から溢れるほどの魔力がある。
そして、相手もそれを認識していて、私から目を離さない。
お互いきっとギリギリの戦いなのだろう。
だからって逃げないのであれば立ち向かう。
限られた魔力だからこそ、最適に配分するんだ。
「……第一にリンちゃんを守るためだけど、他の家族にも犠牲を出させない」
私は全身の魔力をまずは足に集中させた。
ロケットスタートのように地面を蹴り出す。
続け様に空中を飛んでいる最中に魔力を拳へと集中させる。
私の速度に面食らったように、古狼は目を丸くして構えようとしたが、私が接近する方が早かった。
普段なら攻撃の衝撃を殺す体毛だが、毛では私の勢いを殺しきれなかったらしい。
古狼は勢いよく私の激突で吹っ飛び、森の大木へ激突した。
さすがに弱っている様子だったとはいえ、一撃では倒せなかったようでよろよろしながら起き上がった。
すぐに私を敵と判断したのか私に向けて駆け出してきた。
今回は迷いのない飛びつき攻撃。
だが、それを目と足に魔力を集中させて、すんでのところで体をひねって回避。
私は目に込めていた魔力を足へ移動させ、古狼のお腹目がけて蹴り上げた。
古狼の体が大きく空へと跳ね上がると、ドサリと音を立てて地面に受け身も取らずに激突した。
それから古狼は動かなくなった。
「嘘だろ……」
「村の衛兵さんでも勝てるかどうか怪しいのに」
「あのオーラのせいってか?」
「……お姉ちゃんかっこいい」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
周りを見る余裕もなく私はただ動かなくなった古狼の姿を見つめていた。
体から力が抜けて倒れ込むようにその場にしゃがんでも、まだ手が震えていた。
肉に食い込む素手の感触がまだ残っている。
そこまで激しく動いた訳でもないのに、息はなかなか整わない。
それでも一件落着した現実にほっと息を吐き出せた。
今の年でこれなら及第点ってところかな。
おそらく群れの古狼が倒せるほどの部下集団が近くまで迫っているはずだ。
まだまだ5年後とか言ってないで雑魚を余裕で倒せるようにならないと。
どうしてそんなことに気づけたのかと言えば、答えは単純明快。
ゲームの進行度と関連している月の変色が見られたからだ。
そもそも、この村の存在がゲーム開始時ではすでに滅んでいる。
村の形状や規模感からして、ゲームの主人公が旅立つ前には魔王軍の侵略を受けて蹂躙されていた跡が残っているだけだった場所だと思う。
今までで把握できた情報と私のゲーム知識を照らし合わせると、タイムリミットは主人公の旅立つ約11年後ではなく、おそらく5年と試算できた。
それにしても、転生先が知っているゲームの世界でよかった。それも、「メグルアドベンチャー」の世界で。
このゲームはまだ多少余裕がある頃にギリギリやり込めたゲームだ。何かを成すにしてもやりやすさが段違いだと思う。
「さて、と。この本かな」
そんな危機的状況で妹を守る力をつけるにあたっては私の家が口伝の家系というのも大きい。
普通の家には本なんて一冊もないことが多いはずなのに、うちには本棚に本が並べられるほど情報源が豊かだ。
要は、伝承を守る役割だからこそ、たとえ辺境の村でも読み書き重視しているってことだ。そんな棚ぼただけど、独学するなら本ほど頼もしい味方もいない。
まずは基礎の基礎。体内の魔力自由に操れるようになること、だ。
利き手の指先に意識を集中させて、全魔力を球形に取り出せるようになることが第一ステップって書いてある。
こんな本の内容はゲームだと読んだという体で習得していたから知らなかったけど、案外地道で時間がかかりそうだ。
というのもこの世界ではステータスを見られない。
今、本とにらめっこしながら魔力の扱いを学んでいるように、パラパラめくってスキルを獲得したら自動的に使えるようになる、ということはないらしい。
「今の私にとってこの世界が現実ってことなんだよね」
現実じゃ、いくらスキルを身につけてもゲームほどわかりやすくステータス表示してくれない。それと同じだ。
まあでも、今の時点で全魔力なんて球形に取り出せるものでもないんだけどね。
感覚がゲームのレベリングとは全く違う中で、5年で魔王軍の侵攻を抑えられるかってところか。
いや、覚悟したじゃないか。妹は守ると。
なら、間に合わせるんだ。
「でも、気がかりなのは私自身の能力なんだよね。物語に出てこないような子だから、チートなんてあるはずもないし」
今の自分がどのくらいのレベルなのかも客観的にわかりやすく見られない。
そもそも、ゲームの主人公は才能があるうえで努力してるからね。
「お姉ちゃん。ちいと? ってなに?」
いつの間にか私の背後に立っていたかわいいかわいい妹のリンネルちゃんことリンちゃんが私の背後から抱きつきながら聞いてきた。
完全に1人だと思っていただけにビクッと心臓が跳ねた。
ニコニコしながら本と私を見比べて聞いてくるリンちゃん。
サラサラとした茶髪がほほに当たってくすぐったい。
好奇心旺盛な幼い顔に愛おしさを感じながら、ほっと胸を撫で下ろす。
「なんだリンちゃんか」
「何? 隠し事? ちいとってなあに!」
「うーん、ずるみたいに強いことかな。いや、リンちゃんには関係のない話。それより、お兄ちゃんたちと遊びに行こ」
「うん!」
リンちゃんの頭を撫でてあげてから私は立ち上がった。
小さな手を引いて歩き出す。
今の私に遊んでいる時間なんてないと思われるかもしれないけれど、本で独学するくらいしかできない今の環境では特別な修行はできない。
だからこそ、純粋な魔力量の強化ができることの1つになる。
わかりやすく言えば体力作り。どんな競技でも走り込みが基本なのと同じこと。
魔力の場合は人が少なくって魔力の多い場所で動き回ることだ。
その際に、体内の魔力を意識して使い果たすようにすることで体のキャパシティを広げて、総量を増やすことが最善。
本を読みながら細々と体を流れる魔力に意識を向けるのは全身があったかくなるような感覚で徐々に太くなっていくような感じ
だけど、使い果たして伸ばす方は全身の力が一気に抜けた後にバケツいっぱいの水を受け止めるような全身が一気に大きくなったような感覚があるのだ。
とにかく、自転車の両輪みたいに重要ってこと。
「ん?」
そんなことを思いながら歩いていると遠くから犬の遠吠えのような声が聞こえた気がした。
「どうしたの? また遅いって怒られちゃうよ?」
気のせいかな?
リンちゃんは聞こえてないみたいだし。
「ううん。なんでもない」
リンちゃんに手を引かれて走ると、3人のお兄ちゃんたちの姿が見えてきた。
その中の1人が案の定、真ん中で腕を組み私たちをにらみつけてきている。
「遅いぞ2人とも」
「ごめんなさい。キウス兄」
「ごめんなさい」
激しやすい長男キウス兄は私たちを待ちくたびれてしまったらしい。
普段ならお父さん同様、温和なのだけど、いかんせんお父さんより怒りっぽい。
まあ、子どもなら仕方ないんだけどね。
「兄さん。あまり叱らないであげてください」
いつも冷静な次男のササス兄が私たちの間に入ってくれた。
ササス兄は私たちの頭脳役みたいな役割をしてくれている。
キウス兄の暴走を真っ先に止められるのも次男のササス兄だ。
「そうそう。俺ら3人が妹たちの面倒を見てないって叱られるんだから」
気楽そうながら、ササス兄の味方に入るのは三男のタリス兄。
頭の後ろで腕を組みながら気楽そうに薄く笑っている。
それでも、いつも芯を食ったようなことを言う鋭いお兄ちゃんだ。
「ぐぅ」
キウス兄は2人の弟に反発されて不服そうにうなった。
だけど、4対1じゃさすがの長男でも反論できないらしい。
「でも遅れたことは事実だから。ごめんなさい」
「ま、次から気をつければいいし。あんまり遅れるようなら先に行ったりしないから、遅れるって言えよ」
「ありがとう」
「ん」
キウス兄も根はいい子なので、決して怒りっぱなしでもない。
妹想いで姿が見えないことを心配しがちなだけなのだ。
転生先の家族はいたって平和。
なんて思いながら、いつもみたいに遅れてきた私が鬼ごっこのようなゲームの鬼にされるのかと思ったけれど、キウス兄は黙ったまま私のことを見続けていた。
おやおや。キウス兄ったら、シスコンの気があるんじゃない?
「なあ、フェネル」
「なあに? キウス兄」
「お前、体からなんか出てないか?」
「へ?」
キウス兄の口から出た意味のわからない言葉に私は思考が追いつかず目を泳がせた。
ついかわいい妹の顔をじっと見てしまったことを誤魔化している様子ではない。
調子に乗った私の思考の恥ずかしさにちょっと顔が熱くなる。
よく見たら、私を見ているというよりも体の輪郭、それも少し外側を見ていた。
「い、いや。体からは何も出てないって。気のせい気のせい」
「そんなことない。出てるだろ。みんなも見えるよな」
「はい。うっすらと透明な何かがフェネルの体から出ています」
「なんだそれ。すげぇ。けど、大丈夫なのか?」
「お姉ちゃん。どうやってるの?」
「えぇっとぉ……」
気づいていたけどバレちまったか。
ゲームでの描写と私の予想からすれば漏れ出ているのは私の魔力。
基本的な操作よりも遊びを優先した結果、まだまだコントロールできない分が体から自由に出ちゃっているんだと思う。
できるだけバレないようにしていたつもりだけど、一般人よりも魔力量の多い家系だから他の人より早く気づいたんだろう。
だって、村じゃ何も言われてないし……。
「な、なにさ。私は全力で遊んでるだけだよ。なんともないし、大丈夫大丈夫」
どこか怪しむような疑うようなみんなの視線に、私はどきりと心臓が冷えるような感じがして早口で言い訳していた。
「本当か? オレたちだって全力だけどな」
「はい。フェネルよりも動いていると思います」
「あれじゃないか? 最近なんか家で色々やってるだろ」
「お姉ちゃん、御本読んでる」
やはり鋭い。
私のやっていることはリンちゃんから筒抜けだ。
「どうなんだ?」
「あれは……、ちょっとは関係あるかも……かなぁ?」
「後で詳しく教えろ」
「僕も気になります」
「ま、今はないんだし、帰ってからでいいじゃん?」
「……」
「……リンネルもなんか言ってやったらどうだ?」
「待って、あれ……」
リンちゃんの怯えた声に全員が指差す方へと顔を向けた。
その先にいたのは陽の光を受けて銀色に輝く体毛を生やした一匹の狼
「こ、古狼、じゃないか……?」
「どうしてこんなところにいるんでしょう」
「この周辺じゃ見ないはず」
兄3人は震える体をなんとか動かして、私たちの前に出ようとしてくれていた。
位置的に、私、リンちゃん、続けてお兄ちゃんたちという立ち位置。
ただ、3人の体は本能的な恐怖からか前に進んでいない。
後のリンちゃんはと言えばその場にしゃがみ込んで呆然としていた。
子どもだし、古狼相手じゃ仕方ない。手だれの大人が揃っていても死傷者が出るような魔獣だ。
ササス兄とタリス兄の分析通り、本来ならここには来ない。
体のあちこちを赤く染めているが乾いているところを見るとおそらくしばらく前の傷。
多分、魔王復活の影響ですみかを追われてここまでやってきたのだろう。
「私に任せて」
「ふぇ、フェネル? お、お前、何言ってんだ?」
こんな時のために力をつけてきたんだ。私がなんとかしなくっちゃ。
覚悟はしても、心臓がうるさく手汗が止まらない。
だって鍛えているとは言っても初めての実戦だ。前世では一度も経験のないこと。怖くない訳がない。
「おい。フェネル!」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん」
私は振り返りながら、多分ぎこちない笑顔で3人のお兄ちゃんとリンちゃんの顔を順に見た。
「私は1人じゃないから」
「無茶です」
「や、やめとけって。な」
「お姉、ぢゃん……ダメ。行がないで」
すでに涙交じりになっているみんなに背を向けて、私は古狼に向けて一歩踏み出した。
今日はまだ動いていない。体から溢れるほどの魔力がある。
そして、相手もそれを認識していて、私から目を離さない。
お互いきっとギリギリの戦いなのだろう。
だからって逃げないのであれば立ち向かう。
限られた魔力だからこそ、最適に配分するんだ。
「……第一にリンちゃんを守るためだけど、他の家族にも犠牲を出させない」
私は全身の魔力をまずは足に集中させた。
ロケットスタートのように地面を蹴り出す。
続け様に空中を飛んでいる最中に魔力を拳へと集中させる。
私の速度に面食らったように、古狼は目を丸くして構えようとしたが、私が接近する方が早かった。
普段なら攻撃の衝撃を殺す体毛だが、毛では私の勢いを殺しきれなかったらしい。
古狼は勢いよく私の激突で吹っ飛び、森の大木へ激突した。
さすがに弱っている様子だったとはいえ、一撃では倒せなかったようでよろよろしながら起き上がった。
すぐに私を敵と判断したのか私に向けて駆け出してきた。
今回は迷いのない飛びつき攻撃。
だが、それを目と足に魔力を集中させて、すんでのところで体をひねって回避。
私は目に込めていた魔力を足へ移動させ、古狼のお腹目がけて蹴り上げた。
古狼の体が大きく空へと跳ね上がると、ドサリと音を立てて地面に受け身も取らずに激突した。
それから古狼は動かなくなった。
「嘘だろ……」
「村の衛兵さんでも勝てるかどうか怪しいのに」
「あのオーラのせいってか?」
「……お姉ちゃんかっこいい」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
周りを見る余裕もなく私はただ動かなくなった古狼の姿を見つめていた。
体から力が抜けて倒れ込むようにその場にしゃがんでも、まだ手が震えていた。
肉に食い込む素手の感触がまだ残っている。
そこまで激しく動いた訳でもないのに、息はなかなか整わない。
それでも一件落着した現実にほっと息を吐き出せた。
今の年でこれなら及第点ってところかな。
おそらく群れの古狼が倒せるほどの部下集団が近くまで迫っているはずだ。
まだまだ5年後とか言ってないで雑魚を余裕で倒せるようにならないと。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる