姉バカ転生者〜ゲーム世界で魔物を蹴散らしながら妹をバズらせるまで〜

マグローK

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第12話 魔王軍幹部デミル

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 身の丈5メートルという巨体。
 亜人と言うよりも、その風体はもはや巨人と言ってもいいと思う。
 イスに座っているだけなのに放つ存在感、威圧感に歩くことすらままならなくなりそうなほど。
 ただ、その強大な魔力だけを頼りに私はここまでやってきた。

「魔王軍幹部、デミル……」

 幹部の七番手、先遣隊長。

 引き締まった肉体に、顔まで割れるほどの過剰な筋肉。
 他のオークやゴブリンといった者たちの特徴は受け継いでいるものの、体の作りがまるで違うように見える異様さ。

 存在としてのパワーが違う。

「他に仲間はなし。ほう? 1人で来るとは感心な心がけだ。もっとも、お前以外でこの場にたどり着ける者はいなかっただろうがな」

「そんな言葉はどうでもいい。リンちゃんを返せ」

 自分でも驚くほど冷静で低い声が口から出た。

 デミルのことを視界に入れながらも、私が見ているのはただ一点。
 縛られ、無造作に放られている妹の姿。

 こいつが、こいつらが私の妹を乱雑に扱ったんだ。

「そう焦るな。これがあるから、一対一の決闘ができるというもの。違うか? 戦争はよくない。物量がものをいうからな」

「これ、だって?」

 私の言葉に、何を言っているのかわからない、そんな顔でデミルは眉をひそめた。

「人間などどれも同じだろう」

「違う。その子は私の妹のリンちゃんだ」

「いい、いい。わかった。特別な人間であるお前が言うんだ。何か違うのだと認識しておこう。ただ、警戒するのはお前だけ。このような窮地であっても隙を見せない。人にしては強い力にも納得だ」

 いけない。
 感情的になっている。

 ただでさえ怒りのままにここまで来たのに。

「私を誘い出して、何がしたいの? 寝返れとか?」

「クック……、面白いことを言うな、人間。そんなことを魔王様はお望みではない」

「じゃあ、何を」

「長自ら貴様ら人間を殺し回ることなどしない。たとえ、部下の失態が重なっていてもな。これでも、崇高な戦いが好みでね」

「何の話」

「理解されようなどとは微塵も思っていない。ただ、優秀なる部下がエサまで用意して、わざわざ血湧き肉躍る舞台を用意してくれたのだ。無謀がすぎる敵の首を取り、魔王様へ献上するのも悪くなかろう」

「つまり、正々堂々と戦うと?」

「ああそういうことだ。理解が早くて助かる。ちょうど待ち飽きたところだったのでな」

「そんな矜持に付き合っている暇はない!」

「貴様、立場がわかっていないようだな」

 デミルは悠々と拳を振り上げた。その下には当然リンちゃんの姿。

「……っ」

 目的のためなら手段を選ばず直進する。
 人質を取ることもいとわない。

 ここまで全て、ブリュナの思った通りってことか。

「この勝負、乗った」

「理解してくれてありがとう」

 野原に一つのイスから立ち上がると、デミルの肉体はまるで巨大化したように感じられた。

 画面越しに見ていたモデルとは明らかに違うサイズ感。
 建物を見上げるような感覚。

 ここまで怒りに身を任せて飛び出してきたけれど、いざ本物を目の前にすると体の震えが止まらない。

「ふっ。もしや、今さら自分の愚かさに気づき、恐怖しているのか?」

「……違うね。武者震いだよ」

 震える拳を握り締め、今から戦う敵の顔をにらみつけた時、デミルはすでに椅子を持ち上げていた。

 30メートルは離れていたと思う。
 それなのに、とてもじゃないがその場に立っていられなくて、私は本能的に右へ跳んでいた。

 直後、私のいた場所がクレーターとなり衝撃で体が2メートルほど舞い上がった。

「……ブリュナより反応できない」

 いや、頭ではわかっているんだ。
 デミルのステータスは、素早さ、攻撃、物理防御の数値が魔王軍トップだった。

 とはいえ、やっていたのはゲームだ。
 戦闘ルールに制限されてお互い戦闘を進めていた。

 ただ、今は現実。これがRPGスペックでなく、リアルスペックのステータス表現なんだ。

「見込んだとおりの逸材。やはり今のはかわしてくれるか」

 意識を切り替えようとした時には、すでに動き出し、巨体の鈍さを感じさせないほど、視界に入ってくるデミルの姿。

 その顔は戦いを心から楽しんでいる者の笑顔。
 勝ちを確信しているハンターの顔。

「くっ……」

 突き出された拳をしゃがみ込みでなんとか回避。
 ただ、攻撃をかわすことこそできたけど、風圧だけで10メートルは後に吹っ飛ばされていた。

「こんなの。純粋に力比べで戦っていても勝てないって」

 でも、私が何か手を打つよりも先に相手の手が出ている。

 霧で予備動作が事前にわかるとか、そんなんじゃ足りないんだ。
 ブリュナだってゲーム中じゃそこそこなのに、ここまで実力に差があるのか。

「逃げているだけでは体力が底をつくぞ。さあ、もっと楽しませてくれ」

 楽しませるつもりはないけど、それはそう……。

「だったら、基礎力を下げる戦えるところに落としてやろうじゃない」

 次の攻撃が繰り出される一瞬の間。私は体に移植した映像配信のスキルを起動。
 連続で無意味な画像変化をデミルの視界へ押し付ける。

「はっ! これは知っている。縛り上げた娘っ子を映していたものだろう!」

 視界を奪ったはずなのに、呼吸の一つでデミルは私の方を見た。

「……視界を奪っただけでは足りないっての?」

 生物として腕から芯へと寒気が走る。

 ただ、私は思わず笑っていた。

 命の危険は否定しない。
 それでも、さらに一瞬の隙を得られた。

 2つの感覚をハックするにはこれで十分。いや、十分以上だ。

 私は失敗作、護身用に腰へつけてる水晶に手を重ねた。

 起動方法は魔力を全力で流すだけ。

 放たれるのは超指向性の音割れ。
 それは、いわば音の爆弾。

「不利な状況? ぬるいわ!」

 デミルが踏み込んだのが見えた時には、水晶に私の全魔力が込められた。

 それは一直線にデミルの体へと届く。

 音速は一瞬にして、デミルの体を大きく震わせた。
 そして、さすがの幹部も顔を歪めたかと思うと、その目は明後日の方向で白目を剥き、耳から魔物特有の青い血を吹き出した。

 そこからは次の足が出ず、5メートルあった巨体は地面へ受け身も取らずに激突した。

 地面が大きく揺れ、大量の砂埃に視界が包まれる。遠くでは鳥たちが逃げるように飛び立っていった。

 そして、デミルは動かなくなった。

「げ、下衆が。力で、決着を……」

 足元にある頭が最後の言葉で呪ってくる。

「下衆の策? 言ってろ。首を取られるのはお前らの方だ」

 私はデミルの魔力が消失するのを観測してから、すぐにリンちゃんの方へと走った。
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