キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK

文字の大きさ
44 / 51

第44話 次会う時はお互いの姿で

しおりを挟む
「本当に行くのか?」

「任せて、これでも私、演技は得意なのよ」

 どんと胸を叩くタレカに僕はじっとりとした視線を向ける。

 あまりに予想外の反応だったのか、タレカは動じたように目を丸くした。

「何? 不安なの?」

「不安だよ」

 師匠の言い分としては、要するに、僕がタレカの妹になれなかった分、タレカが僕の家で僕の家族と擬似家族になろうという話だった。

 そのために、タレカが僕の家に行き、遠谷メイトとして生活をする。そういうことだ。

 もちろん、動画に出ているという情報だけしか知らなかったら、僕だって迷わず師匠の策に乗っただろう。

 だが、今は違う。今はそうじゃない。僕は知ってしまったのだ。あの嘘が下手なタレカを。

「僕も行こうか? 家の勝手は僕の方がわかってると思うし、何かあっても、近くにいればすぐにサポートもできる」

 我ながら演技が下手とは言葉にしない最高の申し出だと思ったが、タレカは首を縦には振らなかった。

「どうして」

「だって、変でしょ?」

 タレカに同調するように師匠までうなずいていた。

「そうとも。メイト、キミは女の子を家に連れてくるようなタイプじゃないだろ?」

「……」

 ぐうの音も出ないほどの正論だった。

 ここに関しては師匠とタレカの言い分通り、僕はぼっちの遠谷メイト。その期待に応えるぼっち加減だ。当然、僕の知り合いとして、女の子が家に来たことなどない。

「わかったわかった。任せよう」

 僕は大きく息を吐き出しながらタレカの方に手を乗せた。

「それじゃあ、また」

「ええ。きっと自分の家で目を覚ますことになると思うわ。期待してて」

 僕がタレカを家のそばまで送ることもためらわれたので、僕らは師匠の店、アリス・イン・ワンダーランドで別れた。

 家の場所はわからなくなったらマップアプリで確かめてもらうことにして、僕は僕で家に帰る。

 実家ではなく、タレカの家だ。

「はあ……」

 この一週間ほどでタレカの家に侵入することに慣れてしまったな。

 僕は、改めてがらんどうな室内を見回してみた。

「夢の一人暮らし、のはずなんだけどな」

 思いがけない棚からぼたもち。心のどこかでずっとしてみたかった、一人暮らしというシチュエーションに一番近い状況なのに、胸は全く高鳴らない。

 むしろ静かで、なんだかさびしい。

 ただ、これはタレカが少なくとも一年以上過ごしてきた環境と同じだった。

 帰ってきても誰の返事も返ってこない。誰もいない家の中。静かで、物だけが置かれた家。寝起きするだけの施設。

 少しだけ、タレカ、もとい女体化した僕の匂いが残っている気もするが、それも微かなものだ。多分、思い込みか気のせいだろう。

「はあーあ。何を考えてるんだろうな」

 僕はいい加減クツを脱ぎ、ズカズカと家の中に入り、カバンを放ってソファにどかっと座った。

 何気なくスマホを出して、動画アプリを起動する。

 別に、今さらになってタレカの言葉を疑い出したわけじゃない。今日まで体感してきたことは本物だ。僕が誰かのキセキで見せられている夢の中じゃない限り、僕はタレカの生活を、今のタレカの現状を擬似体験させてもらった。

 だからこそわかる。彼女は、成山タレカは本物だった。

 僕みたいな紛い物ではなく、彼女は強くある真実だった。

「え、これ私に? 嬉しい! やったー! パパ、ママ、大好き!」

 たまたま再生していた動画に目が止まる。誕生日の時のものだろうか、プレゼントをもらって今では考えられないほど、無邪気に笑っているタレカの姿が映っていた。師匠ほどじゃないにしても、幼い感じの見た目で、元々はこんな素直な性格だったのだろうな、とうかがわせるような反応。

 弟くんとも仲良さそうにしていて、もらったプレゼントを自慢していた。

 ただ、そんな無邪気さも、ところどころに違和感がある。画面の端の方に移動した時、ふっと見せるタレカの顔は、虚無を思わせる表情を浮かべているのだ。まるで、エネルギーを消費しすぎないように、セーブしているような。

「すべてが動画のため、か……」

 僕にはわからない感覚だ。きっと僕じゃわからない。この動画の中のタレカも僕では理解できないだろう。

 常にカメラに追われて、特別な日すら話のネタ。そんな生活を一切してこなかった僕には、彼女の気持ちは察することさえはばかられる。

 ただ、でも、だからこそ。つい最近のタレカの方が、子どもっぽく見えた気がした。僕に対して、得意だという演技をずっとしていたのか、もしくは今は力を抜いてくれていたのか。

 ちらちらと思考の裏でタレカの顔がチラつき、頭を振って振り払う。スマホの画面をひっくり返して机に置き、僕は立ち上がった。

「料理しないと」

 今日は僕しかいないのだ。

 冷蔵庫に入ってるから、サラダとサラダチキンでいいや、というわけにはいかない。そんなふうに考えているのは、きっとタレカが色々と教えてくれたからだ。

「本当、お姉ちゃんしてたんだな。……ああっ!」

 すっと通った時に、どこから落ちたのか、紙束がバサバサと床に広がった。

「やっちまった」

 トントンと整えつつ、紙がずれている元あったっぽいところへと戻していく。

 今度謝らないと、そう思いつつ紙束を戻していると、その中にある一冊のノートが目に入った。

「またやりたいことリスト……?」

 勝手に見てはいけない、そう思ったが、今は僕がタレカなのだ。

 向こうだって、どうせ何か僕の秘密を握っている。そう言い訳をしてノートを開いた。

 そこには、今日までしてきたことがいくつも書かれていた。

「料理、買い物、カフェ、遊園地」

 しかし全てが含まれているわけではない。

「図書館ってのはまだやってないよな」

 いずれにしろ、どこで誰とやりたかったのか、ノートの内容からではそこまではわからない。でも、やりたいことがリスト形式でまとめられていた。

 ずっと一緒にいたはずなのに、こんなものがあることには気づきもしなかった。

「やっぱり、家族なのかねぇ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...