スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜冒険者としてもスキルを使います〜

マグローK

文字の大きさ
24 / 32

第24話 アリサ救出

しおりを挟む
 ドラゴンを倒した俺は、アリサ目指して走り出した。

 重い体に鞭打って、とにかく前に進んだ。

 遠い。

 普段ならすぐに辿り着くような距離なのに、今はいつまでもたどり着かないオアシスのように遠い。

「アリサ、アリサ」

 氷に触り、中の様子を確認する。

 眠ったように目をつぶり、アリサは身動きひとつ取らない。

 幸い、怪我をした様子もなく、ただ氷漬けにされているだけのようだ。

 しかし、ドラゴンを倒したのに、氷が溶ける気配が全くない。

「なんでだよ。こういうのは元凶を倒せば解除されるんじゃないのかよ」

 倒しても消えないモンスターといい、俺の幻想はいつも打ち砕かられる。

 何度拳で殴りつけても、手が痛くなるだけでヒビすら入らない。

 どうして、アリサが何をしたと言うのだ。

「どう?」

 倒れていたマイルもゆっくりとだが追いついてきた。

 けれど、俺ができるのは首を横に振ることだけだ。

「全然ダメだ。もしかしたら、ドラゴンが準備していたのは、攻撃じゃなく脱出だったのかもしれない」

「どうして?」

「だってそうだろ? 跡形もないなんておかしいって、リルも言ってたんだ。経験値だけ入るなんてことはないって。それだけじゃない、氷だって溶けないし」

「そうじゃなくて、どうしてワタシたち相手に、ドラゴンが逃げなきゃいけなかったのかってことよ」

「それは……」

 確かに理由が思い当たらない。

 俺の実力を知っていたなら、不意打ちを確実に当てるか、最初から逃げていてもおかしくなさそうだ。

 そもそも、あれほどまでに大きなドラゴンが、何も残さずに消えられるなら、攻撃として使い、俺たちを逃げられない場所に移動することもできそうだ。

「でしょ?」

 黙っていると、マイルがうかがうように俺の顔を見てきた。

「うん」

 マイルに指摘され、俺は少し冷静になった気がする。

 けれど、状況は変わらない。

 アリサを助けに来たのに、助けることはできなかった。

「間に合わなかった……」

「でも、ドーラなら、まだできることがあるでしょ?」

「俺にできることはもうやったんじゃ?」

 何故かマイルの方が楽しそうに、声を漏らして笑っている。

「ドーラのブレスはまだ直接使ってないでしょ?」

「あっ」

 どうして俺は忘れていたんだ。

 真っ先にぶつけてみるべきだったのに。

 それもそうか。元はサーカスで使っていたんだ。何も攻撃のための手段じゃなかった。

「その通りだな。ありがとうマイル」

「いいってことよ。さあ、まだワタシの力も残ってるはずだからパーっとかましてやりなさいな」

「おう!」

 俺はマイルに頷きかけると、思いっきり息を吸い込んだ。

「『ファイアブレス』!」

 息を吹きかけ思ったのは、いつもよりも手応えがない気がするということ。

 いや、そもそも手応えなんてなかった。

 何かに俺の息がぶつかっている感覚はなかった。

 しかし。

「溶けてきてるよ」

 マイルの言葉に、俺はそのまま息を吐き続けた。

 たとえドラゴンの氷だろうが恐るるに足らない。

 この場にいないドラゴンなど俺の敵じゃない。

 少しして、俺はなんとなく息を吹くのをやめた。

 そこにはもう氷はなく、目をつぶったままのアリサが、ちょうど倒れそうになった瞬間だった。

「アリサ!」

 すぐに駆け寄り抱きしめる。

 ひどく冷えている。こんな冷えた場所で氷づけにされていれば、それもそうだろう。

 たとえ氷系魔法を使えても、人間であることに変わりはないのだ。

「アリサ……」

 すぐに返事はなかった。

「ふふ。苦しいよ」

「アリサ!」

 声が聞こえ、俺は顔を上げた。

 青ざめた顔をしているが、かすかに笑い目を開けているアリサの顔がそこにはあった。

「そっか、やっぱりドーラが助けてくれたんだね」

「俺は、俺だけじゃなくて」

「そう? でも、ドーラが助けてくれたんでしょ?」

 俺が助けた側のはずなのに、アリサの方がずっと冷静に俺に言葉をかけてくれる。

 もしかしたら会えないかもしれないと思っただけに、急に安心してしまい頭が回らない。

 やはり、俺の方が先を見ていなかったということか。

「どうしたの? その格好は」

「これは、俺、新しいサーカスに入ったんだ。そこで、新しい服をもらったんだ。それで、それで」

 言葉に詰まり、なんて言っていいのかわからない。

 もっと色々と話したかったはずなのに。

「ドーラは、ワタシたちのサーカスで活躍してるんですよ」

 俺の代わりにマイルが言ってくれた。

「そうなの?」

 俺は頷き、必死に肯定する。

「そっか、新しい場所が見つかったんだ。よかったね。これであたしも安心だよ。前と違ってドーラのことを評価してくれてるみたいだし」

「そこで提案なんですが、アリサさんも入りませんか? 活躍は聞いてます」

「でも、あたし」

「知ってますよ。ドーラさんと同じことでしょ?」

 みなまで言わせずにマイルは笑いながら言った。

 俺がクビにされたように、アリサはサーカスを追われ、ここに来たのだ。

「俺からも頼む」

 やっとはっきりした声が出せた。

 俺の言葉を聞いたアリサはと言うと、少し驚いたような顔をしてから、頷いた。

「じゃあ、お世話になります」

 アリサの言葉を聞き、俺は思わずマイルと顔を見合わせた。

 どんな顔になっていただろう。

 きっと普段の俺がしないような笑顔になっていただろう。

 これで、マイルとの約束も果たせる。

「……また会いましょう」

「え?」

 突然、アリサがよくわからないことを口にし俺は思わず聞き返した。

「あれ、あたし何言ってるんだろう」

「疲れてるんじゃないか? 氷漬けになってたんだし体力も落ちてるんだろうさ。きっと」

「それじゃ、やることもやったし、早く帰ろう」

「おう!」

 俺はアリサを背負って、洞窟の出口へと歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...