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扉を開けようとしない私にあきれてしまったのでしょう。
遠のく足音に耳を傾けながら、行儀悪く壁に体重を預けて月のない空を見上げます。
先程、私に声をかけてきたときに聞こえてきた旦那様の声は、ゾーイ様と話していた時のように心躍った声ではなく、相変わらず冷たいものでした。
「本当に、なぜこんなことになってしまったのかしら……」
カチャ
扉の外に静かに置かれた食器の物音と共に旦那様の声がします。
「もし君がよければ食べてくれ。」
廊下の外でむなしく響くその声と音に私の体は反応することもありません。私が必要ないのであれば優しさは必要ないのです。徹底的に突き放して下されば良いだけなのですから。
私の足がそこに張り付いたかのように少し動くのも億劫に思えて、ただ茫然と暗闇から朝日が昇るのをずっとそこで眺めていたのでした。
コンコンッ
「奥様お目覚めでしょうか…」
「ええ、起きているわ。入っていいわよ。」
「奥様、顔色が…医者を呼んできます。」
「良いのよ侍女長。」
「いえ、よくありません奥様。」
私が止めるのを振り切って侍女長がほかの使用人に指示を出します。それからすぐに駆けつけてきた医師は、私の状態を見てしばらく考えた後に、とりあえずは三日間の休養と栄養のあるものを摂るようにと告げて帰っていきました。
「……」
私が無理をしないように侍女長自らが私につきっきりで看病をしてくれておりますが、案の定、静寂だけが一体を包み込んでおります。
「グレース、入るよ?…具合はどうだ?…顔色が悪いな…」
「香水...素敵な甘い香りでございますね…」
「ん?甘い香りだって...?ああ、これはゾーイの香水だな。…病人を見舞うのにふさわしくなかった。すまない。着替えてから出直してくる。」
妻が病床に入ったその時も、ゾーイ様を心配して寄り添っておられたのでしょう。
よく知りもしない妻のことを見舞う時間よりも、幼馴染の心配をする時間の方が優先事項なのだと突きつけられたような気が致しました。
「奥様、余計なお世話かもしれませんが無礼を承知で…。大奥様に旦那様とゾーイ様のことを相談されてはいかがでございましょうか?」
「それは出来ないわよ。そんなことをすると、嫁いできたばかりの、まだ右も左もよくも知らない若妻が、出しゃばったことをなどと旦那様によく思われないかもしれないわ…もしかしたら旦那様だってゾーイ様が自分の奥様だったら良かったのにと、内心思ってるかもしれないもの。それだと、私がもしお義母様やお義父様に相談したとして、旦那様がゾーイ様との距離を取らされてしまったら…旦那様に恨まれてしまうわね…。私も…旦那様のことをあまりよく知らないから…良いのよ、これで…」
「奥様…」
「少し眠らせてもらうわね。…実は昨夜は眠れなくって寝不足なの。だから…旦那様がまた訪ねてきたら寝ているって伝えてもらえるかしら。私に構うよりも旦那様もゾーイ様が心配なのよ。だからその方がきっと旦那様にとってもいいと思うの。」
侍女長は頭を下げて扉にむかっていきます。
「奥様…私がここを出たら鍵をおかけくださいませ。…旦那様もそれでしたら入ってこれないでしょう。御用の時は鈴で私どもをお呼びください。私共は扉の前に控えておりますので…では失礼いたします奥様。」
「ありがとう、侍女長。」
侍女長が扉を出て、カチャリと扉の鍵を閉めました。
今日は曇り空で窓から見える見事な庭園も心なしかいつもより色を無くして見えます。私の植えた薔薇は相変わらず綺麗に咲いているのが視界に入ってきました。
「やっぱり眠れないわね…」
虚しい独り言が部屋の中で消えて行きました。
遠のく足音に耳を傾けながら、行儀悪く壁に体重を預けて月のない空を見上げます。
先程、私に声をかけてきたときに聞こえてきた旦那様の声は、ゾーイ様と話していた時のように心躍った声ではなく、相変わらず冷たいものでした。
「本当に、なぜこんなことになってしまったのかしら……」
カチャ
扉の外に静かに置かれた食器の物音と共に旦那様の声がします。
「もし君がよければ食べてくれ。」
廊下の外でむなしく響くその声と音に私の体は反応することもありません。私が必要ないのであれば優しさは必要ないのです。徹底的に突き放して下されば良いだけなのですから。
私の足がそこに張り付いたかのように少し動くのも億劫に思えて、ただ茫然と暗闇から朝日が昇るのをずっとそこで眺めていたのでした。
コンコンッ
「奥様お目覚めでしょうか…」
「ええ、起きているわ。入っていいわよ。」
「奥様、顔色が…医者を呼んできます。」
「良いのよ侍女長。」
「いえ、よくありません奥様。」
私が止めるのを振り切って侍女長がほかの使用人に指示を出します。それからすぐに駆けつけてきた医師は、私の状態を見てしばらく考えた後に、とりあえずは三日間の休養と栄養のあるものを摂るようにと告げて帰っていきました。
「……」
私が無理をしないように侍女長自らが私につきっきりで看病をしてくれておりますが、案の定、静寂だけが一体を包み込んでおります。
「グレース、入るよ?…具合はどうだ?…顔色が悪いな…」
「香水...素敵な甘い香りでございますね…」
「ん?甘い香りだって...?ああ、これはゾーイの香水だな。…病人を見舞うのにふさわしくなかった。すまない。着替えてから出直してくる。」
妻が病床に入ったその時も、ゾーイ様を心配して寄り添っておられたのでしょう。
よく知りもしない妻のことを見舞う時間よりも、幼馴染の心配をする時間の方が優先事項なのだと突きつけられたような気が致しました。
「奥様、余計なお世話かもしれませんが無礼を承知で…。大奥様に旦那様とゾーイ様のことを相談されてはいかがでございましょうか?」
「それは出来ないわよ。そんなことをすると、嫁いできたばかりの、まだ右も左もよくも知らない若妻が、出しゃばったことをなどと旦那様によく思われないかもしれないわ…もしかしたら旦那様だってゾーイ様が自分の奥様だったら良かったのにと、内心思ってるかもしれないもの。それだと、私がもしお義母様やお義父様に相談したとして、旦那様がゾーイ様との距離を取らされてしまったら…旦那様に恨まれてしまうわね…。私も…旦那様のことをあまりよく知らないから…良いのよ、これで…」
「奥様…」
「少し眠らせてもらうわね。…実は昨夜は眠れなくって寝不足なの。だから…旦那様がまた訪ねてきたら寝ているって伝えてもらえるかしら。私に構うよりも旦那様もゾーイ様が心配なのよ。だからその方がきっと旦那様にとってもいいと思うの。」
侍女長は頭を下げて扉にむかっていきます。
「奥様…私がここを出たら鍵をおかけくださいませ。…旦那様もそれでしたら入ってこれないでしょう。御用の時は鈴で私どもをお呼びください。私共は扉の前に控えておりますので…では失礼いたします奥様。」
「ありがとう、侍女長。」
侍女長が扉を出て、カチャリと扉の鍵を閉めました。
今日は曇り空で窓から見える見事な庭園も心なしかいつもより色を無くして見えます。私の植えた薔薇は相変わらず綺麗に咲いているのが視界に入ってきました。
「やっぱり眠れないわね…」
虚しい独り言が部屋の中で消えて行きました。
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