愛を知ってしまった君は

戻って来たルビー１

「旦那様、奥様は先ほど出発したと知らせを受けたばかり。少し落ち着いてください。」 

「っぁああっ。ごほんっ！そうだな。まだルビーが到着するには少し時間がかかるからその間にこの書類に目を通しておくか。…ああ！やっぱり私がルビーを迎えに行けばよかった！」 

ルビーがやっと屋敷に戻ってくることになって、今朝は早朝から外に目線を寄越してはまだかまだか、ああ、迎えに行けばよかった…とぶつぶつ言っては使用人の邪魔になっている主人に、執事は何とも言えない視線を向けていた。 

自身の愚かさが招いたことだというのに、それが全くなかったかのようにルビーの帰りを待ち構えているこの主人に使用人一同これ以上余計なことをしてくれるなと一様の念を送っていた。 

ルビーは使用人を家族のように大切にし、女主人としての手腕も見事なもので使用人一同はルビーのことを心から慕っているのだ。 

落ち着かないノアが執務室に引っ込んではすぐに出てきて屋敷のエントランスをうろうろうろうろうろうろうろうろしている間、。遂にルビーが屋敷に戻ってきた。 

「ルビー！ルビーおかえり！！さあ！足元に気を付けて。ほら、私の腕に捕まって。」 

「いえ、そういうのは結構です。」 

待ちに待ったルビーが戻って来たのに、自分に見向きもせずすたすたと立ち去るのをノアが縋りつくように部屋までついて行った。 

三階にある夫婦の寝室の隣にあるルビーに部屋に直行するかと思っていたが、なぜか二階の一番眺めの良い客間へ足を向け始めたルビーにノアは慌てた。 

「ル…ルビー？部屋はそっちじゃないだろ？なぜこんな客室なんかに足を向ける必要があるんだ？」 

ルビーが妻の部屋に向かっているとばかり思いこんでいたノアは悪い予感に背筋を凍らせた。