見捨てられたのは私

梅雨の人

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「君には亮真と名で呼んでほしい。私も君のことを小雪と呼ばせてもらう。これからよろしく頼む。」 

亮真様と私が婚約者となったのは亮真様が17歳、私がまだ13歳の頃でした。 

当時の私にとって、年上の亮真様はこれまでお会いしたどの方よりも素敵な男性でございまして胸の高鳴りが亮真様に聞かれないか緊張したものです。 

背が高く肩幅が私の二倍以上広い体躯の亮真様は垂れ目の二重瞼と滑らかな肌とたいそう恵まれた見目に加えて裕福な大河内家の御曹司でございますからお兄様の太賀さまとそろって女性の憧れの的でございました。 

わたくしが亮真様の婚約者になってからは、女学院に通う私のお友達やお姉さま方には大変羨ましがられたものです。 

亮真様と並んでも恥ずかしくないようにしなければと気を張りすぎては、5歳年上の幸太郎お兄様に慰められたものです。 

「なに、そう気に病まなくていいだろう?小雪は何もしなくとも年々私が心配になるほど美しく成長しているのだし、どうせ向こうが小雪を是非にと望んできただけなのだから。小雪が嫌になったらいつでも解消できるぞ?」 

なぜか嬉々としてそうおっしゃる幸太郎お兄様はあまり亮真様をお気に召していないご様子です。 

「小雪、こちらへ。」 

私の倍以上あるのではないかと思える大きなたくましい背中に見惚れていたら、思わず足が止まっていたようです。私を待って一緒に歩いてくださる亮真様を隣に今日も幸せを感じます。 

早く会いたかったと申し上げたらはしたないと、所詮政略結婚なのだからそこまでの情を向けられても迷惑だと亮真様に思われてしまうでしょうか。

年の差のことも考慮に入れていただき、月に二度屋敷を互いに訪ね、そのうちの一度はともに外出をする約束になっております。 

そして本日は亮真様のお屋敷にお邪魔になっております。 

口数の少ない亮真様ですが、今もわたくしの幼稚な話を嫌な顔をすることもなく聞いてくださっております。
亮真様が私だけをその視界に入れてくださり話を聞いてくださっておられるのだと思うと、幸せすぎて声が裏返ってしまうこともあるのですが。
いつか亮真様が私との会話を楽しんでくださるようになっていただければと思っております。 

私が年下だから女だからと見下すわけでもなく、婚約者としての義務をしっかりと務めてくれる亮真様に惹かれない女性がいるのでしょうか。 

無口でいらっしゃる亮真様ですが、そこにはいつもさりげない優しさを感じております。 

時折手渡してくれる小さな花束には私の好むダリアやスズランなどの小さな花が盛り込まれております。亮真様のお心遣いを前に、私の胸の高鳴りが亮真様に聞こえてしまわないか心配になってしまいます。 

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