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「マリア嬢、ではまた。」
フェリックス様に見送られた私は出迎えた使用人に伴われて自室に戻り、湯船でゆっくりと体を温めます。
一人になりたくて使用人には扉の外で控えてもらいました。
静かに瞳を閉じて思い浮かぶのは、先ほどの楽しくてきらきらとしていた時間とそして…テリーヌ前伯爵夫人がアベラルド様にしなだれかかるお姿でした。
アベラルド様の私を呼ぶ声が脳裏に焼き付いていて離れません。
今日はテリーヌ前伯爵夫人がアベラルド様のお相手だっただけで、お姉様、妹のルビー、私のかつて友人だった御令嬢たち、それからその他数多の女性達…アベラルド様のお相手は数多くいらっしゃるのだと不意にそんなことを考えてしまいます。
肌を重ね愛を囁き囁かれ、甘い時間を共にするのが遊びというのなら、アベラルド様の本当の愛とはどこにあるのでしょうか。
アベラルド様に求められて婚約者になったといわれても、私にはその理由がさっぱりわからず、ただただ苦しいだけの時間をどれだけ過ごしてきたことでしょう。
他の女性に、そして私の姉妹に触れたその手で私を二度と触れてほしくない、声も聞きたくない、二度とその姿を見たくない...
逃げ出したい…それでもまだアベラルド様をお慕いしている...
逃げ出したい…まだ少しでも希望があるなら縋りたい…逃げ出したい…逃げられるのなら…
辛うじてつながっている琴線が心の奥で、プツリと音を立てて切れてしまったのはいつのことだったでしょうか。
それなのに複雑な心の中はいつまでも迷走を続けてしまっているのです。
コンコンっ
「マリアお嬢様、失礼いたします。ヒギンス公爵令息様がお嬢様にどうしてもお会いになりたいとお越しになられております。」
「申し訳ないけれど、もう寝てしまったとお伝えして頂戴。」
そう応えた私に対して、僅か嬉しそうなイリスの声が、扉の向こうへ再び消えていくのを静かに聞いていたのでした。
ーー
「マリア」
早朝に突然屋敷にやってこられたアベラルド様を追い返すわけにもいかず、そのまま朝食を共に頂き、応接室でお茶を改めてご一緒しています。
相変わらず、昨夜も何事もなかったかのような柔らかい笑みで私に微笑みかけて来るアベラルド様が目の前に座っております。
なぜあなたがここにいるの?そんな言葉を飲み込んで、紅茶の入ったティーカップをテーブルに戻し、アベラルド様へと向き直りました。
ふわりと微笑むアベラルド様は、そのまま私たちの間にあるローテーブルをあっという間に回り込んできて、私の座っているソファの目の前にやって来て膝をつきました。
フェリックス様に見送られた私は出迎えた使用人に伴われて自室に戻り、湯船でゆっくりと体を温めます。
一人になりたくて使用人には扉の外で控えてもらいました。
静かに瞳を閉じて思い浮かぶのは、先ほどの楽しくてきらきらとしていた時間とそして…テリーヌ前伯爵夫人がアベラルド様にしなだれかかるお姿でした。
アベラルド様の私を呼ぶ声が脳裏に焼き付いていて離れません。
今日はテリーヌ前伯爵夫人がアベラルド様のお相手だっただけで、お姉様、妹のルビー、私のかつて友人だった御令嬢たち、それからその他数多の女性達…アベラルド様のお相手は数多くいらっしゃるのだと不意にそんなことを考えてしまいます。
肌を重ね愛を囁き囁かれ、甘い時間を共にするのが遊びというのなら、アベラルド様の本当の愛とはどこにあるのでしょうか。
アベラルド様に求められて婚約者になったといわれても、私にはその理由がさっぱりわからず、ただただ苦しいだけの時間をどれだけ過ごしてきたことでしょう。
他の女性に、そして私の姉妹に触れたその手で私を二度と触れてほしくない、声も聞きたくない、二度とその姿を見たくない...
逃げ出したい…それでもまだアベラルド様をお慕いしている...
逃げ出したい…まだ少しでも希望があるなら縋りたい…逃げ出したい…逃げられるのなら…
辛うじてつながっている琴線が心の奥で、プツリと音を立てて切れてしまったのはいつのことだったでしょうか。
それなのに複雑な心の中はいつまでも迷走を続けてしまっているのです。
コンコンっ
「マリアお嬢様、失礼いたします。ヒギンス公爵令息様がお嬢様にどうしてもお会いになりたいとお越しになられております。」
「申し訳ないけれど、もう寝てしまったとお伝えして頂戴。」
そう応えた私に対して、僅か嬉しそうなイリスの声が、扉の向こうへ再び消えていくのを静かに聞いていたのでした。
ーー
「マリア」
早朝に突然屋敷にやってこられたアベラルド様を追い返すわけにもいかず、そのまま朝食を共に頂き、応接室でお茶を改めてご一緒しています。
相変わらず、昨夜も何事もなかったかのような柔らかい笑みで私に微笑みかけて来るアベラルド様が目の前に座っております。
なぜあなたがここにいるの?そんな言葉を飲み込んで、紅茶の入ったティーカップをテーブルに戻し、アベラルド様へと向き直りました。
ふわりと微笑むアベラルド様は、そのまま私たちの間にあるローテーブルをあっという間に回り込んできて、私の座っているソファの目の前にやって来て膝をつきました。
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