もう少し早く気が付けば君を失わずに済んだのだろうか、なんて後悔をあなたはきっとしない。

梅雨の人

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「お嬢様…今日は夜会を欠席なさってはいかがですか。またアベラルド様にお会いにならなければならないなんて…今日もほとんど何も口にしていらっしゃらなかったではないですか…」 

「イリス、今日の夜会を欠席できるものなら私だってそうさせてもらいたいのよ…でも王宮での夜会はよほどのことがない限り欠席はしてはならないのだから…仕方がないわ…」 

先日、アベラルド様とあんなことがありましたのに、これから二人で着飾って共に夜会に向かわなければならないのです。 

一歩足を進めるたびに、重くなっていく足を引きずるような思いで階段を下りていくと、そこにはすでにアベラルド様がいて、私を見るやいなや階段を駆け上がって来られました。 

「マリア…綺麗だよ。」 

ふわりとほほ笑みかけてくるアベラルド様はまるでいつもと変わらない態度で私に接してこられます。 アベラルド様の中では私がすべてを飲み込み、アベラルド様をただひたすら愛する婚約者だと思っておられるのでしょう。そんなふうに思ってしまうだけで一々落ち込んでしまう自分が嫌になってしまいます。

馬車の中で目の前のアベラルド様と目が合うたびにぞわりぞわりとした感覚が沸き上がります。そして気が付けば夜会会場である王宮に足を踏み入れていたのでした。 


「マリア、悪いが少し待っていてくれないか。すぐに......いや、今日は君のそばにいることにするよ。」 

「そう…なのですか。御用がおありなのではございませんか?」 

「気にしないでくれ。ところでこんなに綺麗な私の婚約者殿は元気がないようだね?」 

そう言って私の腰に手を添えて美しい瞳を細めているアベラルド様に、周囲の女性たちの息を吞む音が聞こえてまいりました。 

珍しくしばらく私にぴったりと寄り添っておられたアベラルド様は、遠くからこちらに視線を送ってくるテリーヌ前伯爵夫人を無視しておりましたが、結局私をおいてそちらへ向かわれることにしたようです。

「マリア。」 

立ち去る際に振り向いて私の名を呼んだアベラルド様の声に気が付きながらも、その視線にも声にも気が付かない風を装って、私は反対方向へ足を進め始めたのでした。 
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