もう少し早く気が付けば君を失わずに済んだのだろうか、なんて後悔をあなたはきっとしない。

梅雨の人

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そちらに行けば何があるのか、どのような方たちがいらっしゃるのかなど今の私に何の関係があるのでしょうか。何の目的もなく只ゆっくりとアベラルド様とは反対方向へ歩みを進めます。 

出来るだけ…遠く、遠くへ離れてみたかったのです。
 

「マリア」 
「デイビスお義兄様。」 

「一人なのかい?アベラルド殿は…いや。私が力不足なため君につらい思いをさせてしまってすまない。」 

「そんな…デイビスお義兄様。いつもこのような私にとてもよくしてくださって本当に感謝しております。そのようにおっしゃらないでください。」 

「しかし…」 
「あらっ、マリア。…かわいそうなマリア…またアベラルド様に置いて行かれたのね…」 

背後から現れたシャーロットお姉様に全身が急に冷たくなったような気がいたします。優しく抱きしめられても、もう以前のように慰められることはないのです。 

「ふふふっ…惨めねえ」 
耳元でお姉さまが小さく笑いを漏らしたのが聞こえたのは私だけだったのでしょうか。 

「…シャーロット、そういえばお義父上が呼んでいた。一緒に探しに行こう。」 

「あら…そうでしたの?」 

残念…とでも言いたそうな顔をしてデイビスお義兄様と歩いていくシャーロットお姉様は相変わらず美しく凛としていらっしゃいます。 

お二人が去った後に聞こえてくるのはいつものごとく婚約者であるアベラルド様に置いておかれるだけの私を嘲笑するささやき声。 

感じるのは哀れみと蔑みの視線。 

「ふふっ………」 

心とは裏腹に、思わず漏れた私の苦笑が漏れたのは、一人外へとつながる扉を通り抜けた時でした。
目の前には夜闇に隠されたように茂る植え込みが広がっておりました。その植え込みの背後に広がる海原から吹き込む風が私の髪をふわりと吹き上げます。 

海に面する丘の上にそびえたつこの王宮からは大海原がよく見渡せて、遠くにはたくさんある船の明かりが見受けられます。
雲に覆われて真っ黒なこの夜の世界に温かみを与えてくれているようなそんな気が致しました。 


「…そろそろ…マリアのところへ戻らないと。」 

「そんな………私の方が………ほら……。」 

「はぁ…悪い人だ……」 

「…っ……」 

茂みの間から漏れ出るように聞こえてくる声がだれの声なのか、聞き間違えるはずもないのです。次第に湿り気を帯びる男女の息遣いに、情けないながらも足が動かなくなってしまいました。 
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