もう少し早く気が付けば君を失わずに済んだのだろうか、なんて後悔をあなたはきっとしない。

梅雨の人

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64アベラルド視点

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「………っ………そこをどけっ!なぜ私とマリアの邪魔をする!私のマリアに触れるな!私をマリアのところに行かせてくれ兄上!!」 

「もういいだろう、アベラルド。出せ。」 

馬車は兄上の一声で再び動き出し、そのまま私はヒギンス公爵家の所有する最西端にある領地まで送られた。かなりの日数を要した旅程で、馬車に揺られながら、もう王都には戻れないのだと嫌でも理解した。未練ばかりが膨らんでいったが、時間と共に心は徐々に落ち着きを取り戻していった。 

海岸線がずっと続くその領地を見渡すように小高い丘の上に屋敷が位置していて、窓を開けていると柔らかな風が執務室に入ってくるほど穏やかな気候のこの場所では、あちらこちらに白やら薄紅色の花々が咲き誇っていた。 

王都まで単騎に乗っても十日はかかるこの領地は我がヒギンス公爵家にとっても貿易の重要な拠点となっており、その日から私がこの領地を治めることになった。それからというもの執務や視察で忙殺される日々を過ごした。 



最後にマリアを見てから十年の月日が流れた。

多少の余裕を感じるようになってきた私の最近のお気に入りは、広大な海原を眺めることのできる庭園にちょこんと居心地悪そうに設置されているベンチに腰かけて、ただひたすらにぼうっと時間を過ごすことだ。 

「マリア」 

十年たっても忘れられない愛おしい存在の名前を口にしても、すぐに風に流れて行って虚しさと後悔で胸が締め付けられる。 

子供達にも恵まれたマリアはあの男とキンブリー侯爵家を継いで幸せに暮らしているようだ。 

「ああ……会いたいよマリア……」 

虚しい独り言は風に流され、記憶の中のマリアを思い出しては愛おしさで胸が締め付けられる。 

もう誰とも遊ぶ気にもなれず、いろんな女たちが私に接触しようと未だに近づいてくるが、もう誰も相手をする気にもなれない。マリアを失った私は陰で男色なのではと噂されているようだ。部下からそんな話を聞いた時は笑えなくてペンを落としかけてしまった。 

兄上の方に男児ばかりが4人も生まれたので私が妻帯する必要もないだろうと、兄上の三男である甥っ子が私の養子としてあと数年したらこちらに来ることになっている。 

皮肉なもので結婚するまでの「遊び」を楽しんでいた私はマリアを失った瞬間にもうそんな気も、機能も失せてしまったようだ。 

マリアがいたから遊び終わったときに戻る場所があった。これまでそれが楽しく感じたのに、マリアがいなくなった途端にそれが楽しくなくなるなんて皮肉な話だ。

愛するということは、大切にするということは、相手をその時が来たら幸せにしようということではかったようだ。
その時も何も関係なく、マリアの幸せを願いすぐに行動に移せばよかった。

そんな簡単なことに…………もう少し早くに気が付けば君を失わずに済んだのだろうか。 

願わくば…願わくばこんな最低な私がマリアを今でも愛おしく思うことを許してほしい。 
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