明日世界が滅ぶらしい。

nakamura

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幸せな家族

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 私たち夫婦は子供ができる確率が至極少ないと婦人科の医師から言われていた。
 だが、互いに親のいない人生を送ってきた私たちにとって、我が子をもち、幸せな家庭を築くことは、私たちの人生において絶対的というほどまで大きい夢だったのだ。
 妻は酷く悲しんだ。
 そんな妻に私は、医師に言われた、体外受精をしてみないか?と提案した。
 妻は最初は抵抗があったが、私は自分の血が混ざっていない子だとしても、愛せることは確信していた。
 その旨を妻に伝えると、「そうよね、どんな形であれ、私たちの子供に変わりはない、その子と私たちで最高に幸せな家庭をつくろ!」と言ってくれた。
 そして体外受精を行い、今から生まれる2人の夢について毎日毎日毎日話した。
 子が作れないと言われた時は絶望したが今は2人で未来のことを永遠に話せるくらい希望に満ちていた。
 毎日2人で名前はどんな名前にしようか考えた。
 幼稚園ではちゃんと友達ができるか、小学校に行ったら勉強をしっかりできるか、中学校になったらいじめられないか、高校に行ったら不良にならないから、大人になったらどんな人と結婚するのか、ずっと先のことまで話した。
 そして妻は出産が近くなり婦人科に入院した。
 何ヶ月か経ったころ医師にそろそろ出産が近いので入院した方がいいと言われ妻は入院した。
 入院してからも私は仕事終わりに毎日妻の元へ行き子供の話をどちらかが眠るまで話した。
 妻は仕事があるから毎日は無理しないでと気を遣ってくれたが、私は妻と子供の話をするのが毎日の楽しみになっていたので疲れなど一切感じなかった。
 そして、私が出勤しようとすると病院から電話がかかってきた。
 子供が産まれてくるとの報告だ、私は会社に休みの電話をいれ、急いで病院に向かった、何とも幸せな気持ちでいっぱいになりながら胸を高鳴らさせ妻の元へ向かった、病室では妻が一生懸命に痛みと戦っていた、私も妻を励ましながら見守った。
 そしてついに私たちの子がこの世界に産まれた。
 私は妻を強く強くだきしめ、幸せを分かち合った。
 我が子を、抱っこしたときのなんとも言えない幸福感、私たちは笑いながら泣いた、グシャグシャな私の顔を見て妻は笑ったが妻もグシャグシャな顔だった。
 その夜は妻の元にずっと寄り添った。
 気がつくと2人とも眠っていて、私の方が先に起きた、妻は幸せそうなに眠っていた。
 私は我が子を見るために別の病室へと向かった、その最中にある休憩室にたくさんの人が集まっていた。
 何かと思い私もそこへ向かうとニュースが流れている。
 ニュースの内容は信じ難いものだった、明日世界が終わるらしい。
 明日世界が終わる?そんなバカなことがあるはずがない。私たちには新しい世界が始まったばかりだ、なのに明日終わる?信じられなかった。私は妻に何と言えばいい?明日世界が終わるらしいんだ。
 そんなこと言えるわけがない。
 私は医師の元へと向かい、子供とそばに居たいとお願いした。
 医師はなんとも言えない表情で了承し、妻の病室へと子供を移動させてくれた。
 妻へは私がお願いしたと言ったら、ありがとう、これで大好きなこの子のそばにずっといれる、と言って嬉しがった。
 妻へは明日世界が滅ぶことを言っていない。
 幸いにも妻のいる病室にテレビは置いていなかった。
 その後は私たちの子にどんな名前がいいか2人で聞いた。
 お互いに候補の名前で子供を呼び、反応したらその名前にしようと前から決めていた。

 「あ!反応した!あなたの名前は希夢ね!すごい!私たちとあなたにピッタリの名前!!」

 私たちが1番いいなと思っていた名前、希望の希に夢と書いて、のぞむだ、希望に溢れ、夢を追う人生を送ってほしいという気持ちで考えた名前だった。
 妻ははしゃぎながら喜んだが、今の私は複雑な感情で心が壊れそうだった。

 「そうだな、この子も何かわかっていてこの名前を選んだのかもな」

 私がそう言うと妻は私の顔を見て不安そうな顔で言った

 「何かあったの?顔が疲れてるわよ?」

 妻は私のことをなんでもわかるのだな。
 だがこのことは言わないでおきたい、今の幸せは絶対に壊したくない、せめて妻と子だけにでも幸せな時間を最後まで送ってほしい、私はその思いで妻には明日世界が終わることを伝えなかった。

 「そういえば、外が何か騒がしくない?」

 今外では急な報道でパニックになった人々で溢れかえっている。

 「お祭りが今日あると言っていたからそれじゃないかな」

 「そうなのね!まるで私たちのために開いてくれてるみたいだね!そんなわけないけど!」

 妻は何が起きてるか知る由もなく、幸せに溢れんばかりの表情で言っている。
 世の中は残酷だと思っていたがこれは流石に残酷すぎではないだろうか、なんて無慈悲なんだ。
 私は妻を抱きしめると泣いた、大人になってから泣いたことなど一回もなかった私に妻は戸惑ったが私を抱きしめ返す。

 「もう、、、どうしたの?あなたが泣くなんて初めて見たよ、今までありがとうね、一生懸命働いてくれて、私のことを愛してくれて本当にありがとうね、あなたが私を妻に選んでくれて本当に幸せです」

 涙がとまらなかった、妻も泣いていた、だが妻は幸せの涙だろう。
 
そう思うと私も幸せな気持ちになれた。
 
 今この幸せが一生続けばいいのに、本気でそう思った。

 だが明日は必ずやってくる。

 せめて最後にもし、神様がいるのならお願いします、もし、来世があるのなら、妻と子と一緒に次の人生も歩ませてください。

 そして私は決めた、残りの時間は妻と子と私の最高に幸せな時間を作ろうと、明日世界が滅ぶとしても今の幸せは誰にも邪魔はできないだろうから。
 

 
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