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第2話
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「で、今日もやってきたわけ?」
自分の後ろを歩いていたはずの悪友が、教室に入る俺をめざとく見つけて声をかけてくる。当たり前のことだけれど、朝の問答をしている間に追い抜かれていたらしい。
「まーね、そろそろネクタイは飽きてきたし、何しよっかな」
「お前さあ…」
頭をスパンとはたいてきた悪友は呆れ顔をする。
「なんでそんな伊佐野先輩を目の敵にするわけ?」
「いや、目の敵じゃないよ、むしろ逆」
「は?」
「いや、あの人さあ、バカ真面目なの。何しても怒ってくれるし、まじでオモロい」
「先輩とっつかまえてそれ言うとか…お前サイテーだな」
「うーん、やっぱりネクタイうんぬんは長引かせすぎたかな、なんか他のネタを仕入れようかな」
「だめだコイツ、日本語が通じねえ」
「あ、そうだ」
「え、ちょっと夕理?」
授業前の少し騒がしい教室を脱走してやって来たのは、学校の屋上だった。屋上の金網にへばりついて門の方を見れば、まばらになってきた生徒の群れと、それに混じって校舎へと向かってくる生徒会の一群が見える。左腕に腕章をつけている生徒会員は数人見つかったが、お目当ての人は見つからない。
「んー生徒会長だから、やっぱり忙しいのかな…」
「忙しいですよ。あなたみたいな校則を破る人がいると、仕事が増えて、大変です」
「うわっ」
突如自分が何かの影に包まれたかと思ったら、背中から聞き馴染みのある声がかけられる。
「屋上は立ち入り禁止ですよ、水沢さん」
機械仕掛けの人形のようにぎこちない動きで首を後ろに向けると、やっぱり想像通りの人が立っている。
「もうすぐ授業も始まる時間ですし、こんなところで一体何をしていたんですか?」
そう言いながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。ゆっくり後ずさると、背中はすぐに金網へとぶつかり、気がつくと、金網とその人の間に閉じ込められ、目線がゼロ距離で交わった。
「っ…あの」
生徒会長は無言で目を細めると、ゆっくりと顔に向かって手を伸ばしてくる。何か言わなくちゃ、いやとにかく距離をとって逃げなくちゃ、と頭の中でガンガン警鐘が鳴っているのに、体はちっとも動かないし、おまけに、そんな頭の片隅で、「あ、この人ってこんな顔で笑うんだ」と少しテンションが上がってしまっているあたり、俺ってものすごく馬鹿。馬鹿すぎる。
「ふふっ、寝癖、ついてましたよ」
「あえっ…」
ものすごく余裕のある笑みを浮かべて、その人は控えめに笑う。普段の雰囲気とは何だか少しだけ違って見えるのは、顔が影になっていて、いつもよりも少し威圧感があるように見えるから?
「可愛い顔するんですね、聞かん坊のあなたに言うことを聞かせるのは、こっちのやり方がよかったんでしょうか」
「え…」
というか今気がついたけれど、なぜこの人は俺が立ち入り禁止の屋上にサボりに来たことがわかったんだろう。もしかして、生徒会長もサボりたくなる時があるのだろうか。いつも生徒会長として、優等生として、人々から注目されることに疲れてしまうんだろうか。タバコとかを吸っていたら面白そうだけれど、この至近距離でもタバコの匂いはしない。それどころか、何だか爽やかな香りがする…とか言ってる場合じゃない。
「なぜ立ち入り禁止のはずの屋上の鍵が開いていたのか、そこは疑問に思わなかったのですか」
「あ、確かに…」
前に屋上で昼寝をしようと思った時、屋上は開いていなくて入れなかった。その後、何だか悔しくて何回か覗いていたら、屋上のドアがほんの少しだけ開いている時があった。その時は他に誰かいるのかと思って踏み込むことはしなかったけれど、そこから隙を見てはドアノブを回すようになったんだっけ。
「何回かここで寝ていましたよね。ちょうど日陰になる、あの隅で。体を丸めて寝ていた姿は非常に愛らしかったですよ? 普段の口の悪さが、まるで嘘のようでした」
「いや、あの」
「夕理」
突然諌めるように下の名前を呼ばれ、慣れない呼ばれ方に心臓が直に鷲掴みにされたような気持ちになる。突然のことに戸惑っている俺の顎を下から掴み、その人はいっそう顔を近づけきて、楽しそうに笑った。
「明日はあなたのカバンの中からネクタイを探し出すので、そのつもりで」
「あのっ…」
まだ心臓がバクバクとして、動けない俺を置いて、その人は颯爽と去っていく。金網に背中を預けたままずるずると地面にへたり込んだと同時に、チャイムが鳴った。
自分の後ろを歩いていたはずの悪友が、教室に入る俺をめざとく見つけて声をかけてくる。当たり前のことだけれど、朝の問答をしている間に追い抜かれていたらしい。
「まーね、そろそろネクタイは飽きてきたし、何しよっかな」
「お前さあ…」
頭をスパンとはたいてきた悪友は呆れ顔をする。
「なんでそんな伊佐野先輩を目の敵にするわけ?」
「いや、目の敵じゃないよ、むしろ逆」
「は?」
「いや、あの人さあ、バカ真面目なの。何しても怒ってくれるし、まじでオモロい」
「先輩とっつかまえてそれ言うとか…お前サイテーだな」
「うーん、やっぱりネクタイうんぬんは長引かせすぎたかな、なんか他のネタを仕入れようかな」
「だめだコイツ、日本語が通じねえ」
「あ、そうだ」
「え、ちょっと夕理?」
授業前の少し騒がしい教室を脱走してやって来たのは、学校の屋上だった。屋上の金網にへばりついて門の方を見れば、まばらになってきた生徒の群れと、それに混じって校舎へと向かってくる生徒会の一群が見える。左腕に腕章をつけている生徒会員は数人見つかったが、お目当ての人は見つからない。
「んー生徒会長だから、やっぱり忙しいのかな…」
「忙しいですよ。あなたみたいな校則を破る人がいると、仕事が増えて、大変です」
「うわっ」
突如自分が何かの影に包まれたかと思ったら、背中から聞き馴染みのある声がかけられる。
「屋上は立ち入り禁止ですよ、水沢さん」
機械仕掛けの人形のようにぎこちない動きで首を後ろに向けると、やっぱり想像通りの人が立っている。
「もうすぐ授業も始まる時間ですし、こんなところで一体何をしていたんですか?」
そう言いながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。ゆっくり後ずさると、背中はすぐに金網へとぶつかり、気がつくと、金網とその人の間に閉じ込められ、目線がゼロ距離で交わった。
「っ…あの」
生徒会長は無言で目を細めると、ゆっくりと顔に向かって手を伸ばしてくる。何か言わなくちゃ、いやとにかく距離をとって逃げなくちゃ、と頭の中でガンガン警鐘が鳴っているのに、体はちっとも動かないし、おまけに、そんな頭の片隅で、「あ、この人ってこんな顔で笑うんだ」と少しテンションが上がってしまっているあたり、俺ってものすごく馬鹿。馬鹿すぎる。
「ふふっ、寝癖、ついてましたよ」
「あえっ…」
ものすごく余裕のある笑みを浮かべて、その人は控えめに笑う。普段の雰囲気とは何だか少しだけ違って見えるのは、顔が影になっていて、いつもよりも少し威圧感があるように見えるから?
「可愛い顔するんですね、聞かん坊のあなたに言うことを聞かせるのは、こっちのやり方がよかったんでしょうか」
「え…」
というか今気がついたけれど、なぜこの人は俺が立ち入り禁止の屋上にサボりに来たことがわかったんだろう。もしかして、生徒会長もサボりたくなる時があるのだろうか。いつも生徒会長として、優等生として、人々から注目されることに疲れてしまうんだろうか。タバコとかを吸っていたら面白そうだけれど、この至近距離でもタバコの匂いはしない。それどころか、何だか爽やかな香りがする…とか言ってる場合じゃない。
「なぜ立ち入り禁止のはずの屋上の鍵が開いていたのか、そこは疑問に思わなかったのですか」
「あ、確かに…」
前に屋上で昼寝をしようと思った時、屋上は開いていなくて入れなかった。その後、何だか悔しくて何回か覗いていたら、屋上のドアがほんの少しだけ開いている時があった。その時は他に誰かいるのかと思って踏み込むことはしなかったけれど、そこから隙を見てはドアノブを回すようになったんだっけ。
「何回かここで寝ていましたよね。ちょうど日陰になる、あの隅で。体を丸めて寝ていた姿は非常に愛らしかったですよ? 普段の口の悪さが、まるで嘘のようでした」
「いや、あの」
「夕理」
突然諌めるように下の名前を呼ばれ、慣れない呼ばれ方に心臓が直に鷲掴みにされたような気持ちになる。突然のことに戸惑っている俺の顎を下から掴み、その人はいっそう顔を近づけきて、楽しそうに笑った。
「明日はあなたのカバンの中からネクタイを探し出すので、そのつもりで」
「あのっ…」
まだ心臓がバクバクとして、動けない俺を置いて、その人は颯爽と去っていく。金網に背中を預けたままずるずると地面にへたり込んだと同時に、チャイムが鳴った。
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