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01.お父さん、お母さん、就職は決まってないけど、働く喜びがわかりました
第009話「いつも上向きな気持ちでいられるといいよね」
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第009話「いつも上向きな気持ちでいられるといいよね」
酒場「赤いマッシュルーム亭」に足を踏み入れると、その活気に僕はすぐ驚かされた。ファミリーレストランのような小奇麗な店ではなかったけど、多くの客がここで飲食をしていて、楽しそうにしているように見えた。
僕がいつも行くのは草緑地区にあるお店だけど、そこよりもお店が大きいし、お客さんも多い。第一あの店は一階建てだったし。
ミニマム族の女:「お客さん何人?」
店に入ると、低身長のミニマム族の女性がビールを運びながら尋ねて来た。
アリアンナ:「二人だ」
ミニマム族の女:「二階へどーぞ」
そう告げてミニマム族の女性店員はどこかのテーブルへとビールを持って消えてしまった。僕はアリアンナの後をついてゆき、サイコロポーカーで賭け事をして遊んでいる男達の後ろを抜け、木製の階段をギシギシ軋ませながら上がる。
アリアンナ:「ベランダと奧側、どっちにしようか」
ウェンデル:「景色の見える方がいいな」
お店の二階奥には地図か何かが貼ってあって、それもそれで興味をとても惹かれたが、僕はそう答えた。
アリアンナ:「景色? そんなのべつに見えないぜ」
苦笑するアリアンナ。高さ634メートルの超高層展望台ならまだしも、田舎の木造二階で景色も何もあったものじゃない。
でもその時の僕は耳を貸さなかった。
ウェンデル:「でもベランダ側がいいな」
アリアンナ:「わかった。そうしよっか」
ありがとうアリアンナ。
二人はベランダに出て、二人用テーブルの一つを選ぶ。椅子も机も大小の木箱の事をそう呼んで扱っているだけだったが、座ってご飯を食べられるのは魅力的だ。
ウェンデル:「いい景色だね」
アリアンナ:「そうかな?」
アリアンナは二階から地上を見下ろしている。僕はこう答えた。
ウェンデル:「うん、今日も星が綺麗だ」
アリアンナ:「ああー……そうだね」
ウェンデルの視線が自分と違う事に気づいたアリアンナが空を見上げると、星空が広がっていた。
ベランダから見えるトラフェルキアの夜景を堪能していたウェンデルであったが、何かが壁にぶつかるような店内の激しい物音と歓声が聴こえて、ウェンデルの耳がピクンと跳ねた。
ウェンデル:「え? なに?」
僕は驚いて席を離れると、ベランダから恐る恐る店内を覗き込む。店の隅で狼人族の男がまさかミニマム族の男に殴り倒されているところを目撃してしまったのである。ミニマム族っていうと、その背丈からしてそんなに身体の強い種族には見えないけれども……彼に関しては例外的なのか、上半身裸の彼の胸や背中は発達していて、筋肉モリモリのマッチョマンといった風である。
ウェンデル:「ねえアリアンナ、喧嘩してるよ。平気かな」
犯罪が起きているのではないかと不安になってアリアンナを振り返ったが、彼女は平然とした表情だ。
アリアンナ:「ああ~、あれ? あれなら平気だ。毎晩やってる」
ウェンデル:「でも殴り合ってるよ」
アリアンナ:「ただの拳闘だよ、合意のスポーツだし、賭けも成立する。ボクシングとかムエタイの試合と一緒だって。ほら、戻ってきなよ」
彼女の説明に納得しテーブルまで戻って来るが、普段行くお店はああいう事はやっていない、吟遊詩人もいないしもっと静かな食事所だ。
ウェンデル:「この酒場はボクシングもするの? こんなお店は初めてだよ。驚いた」
アリアンナ:「そうか? 別に普通だと思うけど……ウェンデルさんは、普段はどこで飯食べてる?」
ウェンデル:「草緑地区の、バーンドラビットってお店なんだけど」
アリアンナ:「知らないなあ、今度行ってみるか」
「バーンドラビット」というお店は、ラビバーン族の店主がいつも野兎のグリルを焼いていて、それを常連のラビバーン冒険者に振る舞っている店だ。……その件で質問して僕が殴られた店でもある。野兎のグリル、それ自体についてはとてもおいしそうな匂いがするけどお金がないから食べた事はない。僕はいつもカウンターに座ってパンと石のスープを注文している、だってそれが一番安いから。
アリアンナ:「これ店のメニュー」
ウェンデル:「うん」
僕はテーブル、という名の傾いていない木箱に立てかけてあって木の板を受け取る。なるほど、これがメニュー表なんだ。「バーンドラビット」のカウンターからパンと石のスープを決まって注文し続けてた僕には、これまで縁のないものだった。
メニューには料理の名前、値段が書いてあって、料理の小さな絵も描いてある。ええと……あ、良かった。
ウェンデル:「僕、これにしよう」
アリアンナ:「決まった? 早いな」
ウェンデル:「うん、はいアリアンナも」
アリアンナ:「オレ、選ぶの時間かかるから先に注文しちゃってくれ」
アリアンナは手をあげて、店内二階を右往左往する店員を呼ぶ。
「すみませーん、注文!」
店員:「今行きます~」
呼ばれてやってきたのはラビバーン族の女性店員。あ、この子かわいいなあ、黒い鼻がチャーミングだ。これから毎日ここに来てもいい気分になり始めてきた。
ウェンデル:「これと、これ。お願いします」
口下手になった僕はメニューを直接指差した。ドリンク類は裏だったから、メニューをひっくり返したりもした。
「以上で」
店員:「はーい。持ってくるので少し待っててくださいね」
小さな尻尾をフリフリと振りながらラビバーン店員の子がテーブルを離れるとき、ジャリン、と会計音がした。この音の正体に僕はもう気づいている、論理コマンドでメニューブックを呼び出し残金確認。残金は617ギルダン。そう、減っている。でもこれには僕も驚いてはいない、「バーンドラビット」の方も”こういう感じ”だったからだ。トラフェルキアには注文即、所持金から自動引き落としのお店が存在するのである。ハイテクだ。
自動会計のお店は「バーンドラビット」だけではないと知ることが出来て良かった。うん、今日も経験値を増やしてしまった。
酒場「赤いマッシュルーム亭」に足を踏み入れると、その活気に僕はすぐ驚かされた。ファミリーレストランのような小奇麗な店ではなかったけど、多くの客がここで飲食をしていて、楽しそうにしているように見えた。
僕がいつも行くのは草緑地区にあるお店だけど、そこよりもお店が大きいし、お客さんも多い。第一あの店は一階建てだったし。
ミニマム族の女:「お客さん何人?」
店に入ると、低身長のミニマム族の女性がビールを運びながら尋ねて来た。
アリアンナ:「二人だ」
ミニマム族の女:「二階へどーぞ」
そう告げてミニマム族の女性店員はどこかのテーブルへとビールを持って消えてしまった。僕はアリアンナの後をついてゆき、サイコロポーカーで賭け事をして遊んでいる男達の後ろを抜け、木製の階段をギシギシ軋ませながら上がる。
アリアンナ:「ベランダと奧側、どっちにしようか」
ウェンデル:「景色の見える方がいいな」
お店の二階奥には地図か何かが貼ってあって、それもそれで興味をとても惹かれたが、僕はそう答えた。
アリアンナ:「景色? そんなのべつに見えないぜ」
苦笑するアリアンナ。高さ634メートルの超高層展望台ならまだしも、田舎の木造二階で景色も何もあったものじゃない。
でもその時の僕は耳を貸さなかった。
ウェンデル:「でもベランダ側がいいな」
アリアンナ:「わかった。そうしよっか」
ありがとうアリアンナ。
二人はベランダに出て、二人用テーブルの一つを選ぶ。椅子も机も大小の木箱の事をそう呼んで扱っているだけだったが、座ってご飯を食べられるのは魅力的だ。
ウェンデル:「いい景色だね」
アリアンナ:「そうかな?」
アリアンナは二階から地上を見下ろしている。僕はこう答えた。
ウェンデル:「うん、今日も星が綺麗だ」
アリアンナ:「ああー……そうだね」
ウェンデルの視線が自分と違う事に気づいたアリアンナが空を見上げると、星空が広がっていた。
ベランダから見えるトラフェルキアの夜景を堪能していたウェンデルであったが、何かが壁にぶつかるような店内の激しい物音と歓声が聴こえて、ウェンデルの耳がピクンと跳ねた。
ウェンデル:「え? なに?」
僕は驚いて席を離れると、ベランダから恐る恐る店内を覗き込む。店の隅で狼人族の男がまさかミニマム族の男に殴り倒されているところを目撃してしまったのである。ミニマム族っていうと、その背丈からしてそんなに身体の強い種族には見えないけれども……彼に関しては例外的なのか、上半身裸の彼の胸や背中は発達していて、筋肉モリモリのマッチョマンといった風である。
ウェンデル:「ねえアリアンナ、喧嘩してるよ。平気かな」
犯罪が起きているのではないかと不安になってアリアンナを振り返ったが、彼女は平然とした表情だ。
アリアンナ:「ああ~、あれ? あれなら平気だ。毎晩やってる」
ウェンデル:「でも殴り合ってるよ」
アリアンナ:「ただの拳闘だよ、合意のスポーツだし、賭けも成立する。ボクシングとかムエタイの試合と一緒だって。ほら、戻ってきなよ」
彼女の説明に納得しテーブルまで戻って来るが、普段行くお店はああいう事はやっていない、吟遊詩人もいないしもっと静かな食事所だ。
ウェンデル:「この酒場はボクシングもするの? こんなお店は初めてだよ。驚いた」
アリアンナ:「そうか? 別に普通だと思うけど……ウェンデルさんは、普段はどこで飯食べてる?」
ウェンデル:「草緑地区の、バーンドラビットってお店なんだけど」
アリアンナ:「知らないなあ、今度行ってみるか」
「バーンドラビット」というお店は、ラビバーン族の店主がいつも野兎のグリルを焼いていて、それを常連のラビバーン冒険者に振る舞っている店だ。……その件で質問して僕が殴られた店でもある。野兎のグリル、それ自体についてはとてもおいしそうな匂いがするけどお金がないから食べた事はない。僕はいつもカウンターに座ってパンと石のスープを注文している、だってそれが一番安いから。
アリアンナ:「これ店のメニュー」
ウェンデル:「うん」
僕はテーブル、という名の傾いていない木箱に立てかけてあって木の板を受け取る。なるほど、これがメニュー表なんだ。「バーンドラビット」のカウンターからパンと石のスープを決まって注文し続けてた僕には、これまで縁のないものだった。
メニューには料理の名前、値段が書いてあって、料理の小さな絵も描いてある。ええと……あ、良かった。
ウェンデル:「僕、これにしよう」
アリアンナ:「決まった? 早いな」
ウェンデル:「うん、はいアリアンナも」
アリアンナ:「オレ、選ぶの時間かかるから先に注文しちゃってくれ」
アリアンナは手をあげて、店内二階を右往左往する店員を呼ぶ。
「すみませーん、注文!」
店員:「今行きます~」
呼ばれてやってきたのはラビバーン族の女性店員。あ、この子かわいいなあ、黒い鼻がチャーミングだ。これから毎日ここに来てもいい気分になり始めてきた。
ウェンデル:「これと、これ。お願いします」
口下手になった僕はメニューを直接指差した。ドリンク類は裏だったから、メニューをひっくり返したりもした。
「以上で」
店員:「はーい。持ってくるので少し待っててくださいね」
小さな尻尾をフリフリと振りながらラビバーン店員の子がテーブルを離れるとき、ジャリン、と会計音がした。この音の正体に僕はもう気づいている、論理コマンドでメニューブックを呼び出し残金確認。残金は617ギルダン。そう、減っている。でもこれには僕も驚いてはいない、「バーンドラビット」の方も”こういう感じ”だったからだ。トラフェルキアには注文即、所持金から自動引き落としのお店が存在するのである。ハイテクだ。
自動会計のお店は「バーンドラビット」だけではないと知ることが出来て良かった。うん、今日も経験値を増やしてしまった。
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