解散したアイドルユニットをまだ箱推ししてる私の下に、推しの一人が転校してきました

dun

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9話 ファンとして、友達として

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瑞希さんが心を開いてくれるにはどうすればいいのか。考えに考えた。
人の為に何とかしたいと思っていても、それは結局自分だけの物目眼でしか見ていない。
私も、葵さんも、一人の立派なアイドルとして瑞希さんを見ていて、そして本人自身も自分をそう信じて進んでいる。額面だけで見ればそれで良いんだろう。
だけどそれぞれの意見は平行線のまま進んでいく。
私は、私達は、あまりにも推しに対して妄信的だ。だからこそ推しの為に奔走する。
でも、それがいけないのかもしれないと考えれば。私が言い続けていた事は、きっと瑞希さんを傷つけている。もうとっくにスワロウテイルは崩壊しているのに。
でも……。

時刻は夕方を回り、霞がかった薄いオレンジ色の空がゆっくりと地面を同色に染め始めている。
縦に長く伸びた人影が、学校を後にしていくのがまばらに見える。高校の文化祭は存外短い物だ。
私もまた、客足が少なくなったスタンプコーナーの撤収作業に入る。
が、私にとっての本番はここからかもしれない。
私達は決めた。ライブの開始自体はまだ時間がある。だから今から楽屋にでも乗り込んで、話をするという事を。一人の、厄介ファンとして。

近くの生徒に聞いてみた所、最後の目玉としてライブが体育館で開かれるらしい。
だから私達は、意を決してそこへ行く事にした。

体育館の裏手、校舎棟とは違って閑散として何も無い殺風景の中に彼女はいた。
「瑞希さん……」
ポケットに手を突っ込みながら、フードで頭から顔を覆った瑞希さんが遠くの喧騒を一人寂しく見守っている。
「お前、まだいたのかよ」
そして心底呆れたように死んだ目で、瑞希さんはかつてのパートナーに問う。
「私はお前みたいなファンを無碍に扱う奴が嫌い。金、金、金、アイドルとして恥ずかしくないの?」
腰に腕を当てて、前かがみでガンを飛ばす。
一方で葵さんの眼は瑞希さんと違い暗く翳る。
結局、一方向の感情の塊でしかない意見が通るきっかけは話し合いしかない。だから私はそれを、見守るしかないのか。
「だって、瑞希さんはいつも一人で頑張ってて。過剰なファンとかアンチとかもいるのに、それでも何とも無しに立派なアイドルを貫いて!ファンの為に笑い続けて!友達だっていないのに!」
単語を並べているだけの葵さんの慟哭。お金に執着する心の理由にもなっていない物だった。
「友達だっていないって、いきなり失礼だな……」
だけど、意外な所に瑞希さんは食いついた。
「……ホントの事を言いなよ。なんか、私が思ってたのと事情が違いそう」
「……?」
大きな声を出したからか肩を震わせる彼女の肩を、瑞希さんは抱きとめる。
「良いから。私の為に何かしろって誰かに脅された?私の中で思ってた事をお前に押し付けてただけだった?」
え?と気の抜けた声を出して一瞬、葵さんの目に白い輝きが灯る。そして。
「ごめんなさい!スワロウテイルが人気になって、ミズが人気になって、そしたらどんどんミズが遠くなっていく気がしたんです~!ファンにあなたを取られる気がして、だから、全ての人をお金として見てくれたら私の事をまた見てくれると思っただけなんです~!」
途端にうずくまって彼女はしくしくと泣き出した。
ここに来て葵さんの取った対話の為の行動は、唯の泣き落とし。
少し瑞希さんに優しくされただけで、葵さんはあっという間に心を全て開け放ってしまった。
「は、それだけ?」
こちらも気の抜けた声で、何故か被っていたフードを上げる。
「それだけって言っても、私には重要な事だったんです。アイドルとかユニットとか以前に、友達だった時から……。結局そのせいで解散になっちゃいましたけど……」
根っこは気弱な風に見えるまま、か。
思わず私の口に苦笑いが浮かぶ。彼女はどうしようもなく、ただの友達として自分を見て欲しかっただけだ。彼女を遥か彼方の存在と引き離し、自分の中で妄想を肥大化させて、尊敬する。
二人はもっともっと、近い存在だったのに。
だから、私も謝らなければいけない。一応同級生なのに、どこまでも遠い存在のように接していて、なおユニットの幻影を求めていた事を。
「すいません、私も今の瑞希さんの事、何も考えていませんでした。ファンっていう生き物はどうしても調子に乗ってしまうんです……」
綺麗な直角の形に身体を曲げて謝る。
「私、瑞希さんの事を、同級生なのに遠くにいるアイドルとしか見ていませんでした。理想を押しつけてばかりで、スワロウテイルの事ばかりで……。理由も知らずに復活まで望んじゃって」
ファンだけど、ファンで居続けるからこそ、解決出来ない問題もある。
「ごめんなさい!!大切な友達がどんどん遠い所へ行っちゃうのが怖かったんです~!もう一回私を見て欲しくて、二人同じ場所でいたかったんです!」
目の前で謝罪する私達女子二人。
偶然私達を見た人は、果たしてこの状況をどう思うのだろう。
「あ、二人共、ほら、落ち着いて……。そんな事してたら人来るかもだからさ……。ほら、だから一回楽屋、入ろ」
泣き落としには、流石に瑞希さんもたじたじになってしまったみたいだ。
手をぶんぶん振りながらとりあえずと葵さんの丸まった背中をさすってあげている。
葵さん……。これすらも自身の策の内なら、とんでもなく賢い人かもしれない。

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