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12話 氷解
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体育館でのライブが終了し、私達は建物の裏手で再び合流する事にした。
「あ、ライブお疲れ様です、瑞希さん」
制服に着替えた瑞希さんが、空を見上げながらうろうろしている所へ声をかける。
「ねえ」
私の姿を見たと同時に、急速に彼女は距離を詰めてきた。さながら獲物を見つけた肉食獣みたいに。
「はい?」
「私のファンに、なってくれた?」
少し不安そうに、尋ねられる。
やっぱりこの人は、ファンの事を凄く考えてくれている人だ。一度離れた私なんかにそう聞いてくれて。
だから、否定なんて、そんな失礼な事は絶対にしない。
「それはもう、勿論」
そう私が肯定の意を示すと、途端に口角を上げて私の肩に手をポンと置く。
「じゃあ、なんかしてあげよっか?」
「なんかとは?」
「ファンサ的なの」
それは唐突な誘いだった。
だが、この状況を楽しもうとしないのは損なのではないだろうか。遊びに行きたい、は流石に今の関係段階じゃハードルが高いしサインでも貰っておこうか?
「あ、そうだ。サインください!サイン!友達として!また瑞希さんはそのうち仕事関係で転校なされるのでしょう?」
そう思っていた途端に、葵さんが先陣を切る。
「なんだそれ、友達を良い免罪符みたいに使うなよ」
「あ、じゃあ私もお願いします。これでもファンの端くれですから」
自分から切り出せない故に、葵さんの誘導がありがたい。
「お前レベルで突っかかって来る奴のどこが端くれなんだよ……」
ファン達の突飛な行動にたじろぐ瑞希さん。
然し、「あ、そうだ」とでも言うように手を叩き、
「お前ら。その敬語使うの辞めてくれる?同級生だ友達だって言うんならさ」
そう笑顔で長年のファンに尊敬の檻を破壊するよう命令してきた。
「は、う、ん」
敬語に抗いつつも、動物の鳴き声のような意味を持たない音が私の喉元から溢れる。
「じゃあ、仲直りしよ?」
然し、私とは違って何のためらいも無く最初の仕事の時の紙を葵さんは目の前に差し出した。
「……言っておくけど、大体こじれてたのはそっちの方だからな」
左手でペンをクルクル回しながら、用紙と葵さんの顔を見比べる。
「葵、スワロウテイルを復活させたいんだろ?また、やるのか?」
しわくちゃの紙に押された10年前のスタンプを眺めながら、瑞希さんは葵さんに尋ねた。
そんな彼女をじっと見つめていると、右手の先の指を身体の後ろで開いたり閉じたりともじもじさせていた。復活には、葵さんが嫌な目に遭うかもしれない事にはまだ引け目を感じているみたい。だけどほんの少しの希望をその瞳の中に孕んでいた。
「いえ。私は体力少なめ人間だから、精神的な復活という事で」
そう静かに呟く葵さんを、優しく見つめる。両者の瞳には、曇りも陰も何も無い。
「……まあいい。見てくれるってだけで良い物だから」
サインを書く彼女の手は、とても重たく時間がかかった。
「あ、ライブお疲れ様です、瑞希さん」
制服に着替えた瑞希さんが、空を見上げながらうろうろしている所へ声をかける。
「ねえ」
私の姿を見たと同時に、急速に彼女は距離を詰めてきた。さながら獲物を見つけた肉食獣みたいに。
「はい?」
「私のファンに、なってくれた?」
少し不安そうに、尋ねられる。
やっぱりこの人は、ファンの事を凄く考えてくれている人だ。一度離れた私なんかにそう聞いてくれて。
だから、否定なんて、そんな失礼な事は絶対にしない。
「それはもう、勿論」
そう私が肯定の意を示すと、途端に口角を上げて私の肩に手をポンと置く。
「じゃあ、なんかしてあげよっか?」
「なんかとは?」
「ファンサ的なの」
それは唐突な誘いだった。
だが、この状況を楽しもうとしないのは損なのではないだろうか。遊びに行きたい、は流石に今の関係段階じゃハードルが高いしサインでも貰っておこうか?
「あ、そうだ。サインください!サイン!友達として!また瑞希さんはそのうち仕事関係で転校なされるのでしょう?」
そう思っていた途端に、葵さんが先陣を切る。
「なんだそれ、友達を良い免罪符みたいに使うなよ」
「あ、じゃあ私もお願いします。これでもファンの端くれですから」
自分から切り出せない故に、葵さんの誘導がありがたい。
「お前レベルで突っかかって来る奴のどこが端くれなんだよ……」
ファン達の突飛な行動にたじろぐ瑞希さん。
然し、「あ、そうだ」とでも言うように手を叩き、
「お前ら。その敬語使うの辞めてくれる?同級生だ友達だって言うんならさ」
そう笑顔で長年のファンに尊敬の檻を破壊するよう命令してきた。
「は、う、ん」
敬語に抗いつつも、動物の鳴き声のような意味を持たない音が私の喉元から溢れる。
「じゃあ、仲直りしよ?」
然し、私とは違って何のためらいも無く最初の仕事の時の紙を葵さんは目の前に差し出した。
「……言っておくけど、大体こじれてたのはそっちの方だからな」
左手でペンをクルクル回しながら、用紙と葵さんの顔を見比べる。
「葵、スワロウテイルを復活させたいんだろ?また、やるのか?」
しわくちゃの紙に押された10年前のスタンプを眺めながら、瑞希さんは葵さんに尋ねた。
そんな彼女をじっと見つめていると、右手の先の指を身体の後ろで開いたり閉じたりともじもじさせていた。復活には、葵さんが嫌な目に遭うかもしれない事にはまだ引け目を感じているみたい。だけどほんの少しの希望をその瞳の中に孕んでいた。
「いえ。私は体力少なめ人間だから、精神的な復活という事で」
そう静かに呟く葵さんを、優しく見つめる。両者の瞳には、曇りも陰も何も無い。
「……まあいい。見てくれるってだけで良い物だから」
サインを書く彼女の手は、とても重たく時間がかかった。
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