8 / 17
二章 勇者猫と魔王
1.猫ですから。
しおりを挟む異世界に勇者として召喚されたけれど、なぜか子猫の姿で顕現して、しかも魔王に拐われて現在、魔王城でぬくぬくと暮らしております。
はい、前回までのあらすじです。
何を言っているか分からない?
申し訳ないけれど、実のところ私もよく分かっていません。
なにせ、気が付いたら既に子猫の姿だったのだから。
もう少し詳しく説明すると、日本で大学生として生きてきた私──羽柴美夜が行き倒れ中の子猫を拾った瞬間に、足元に魔法陣が現れて異世界に転移したのだ。
どうも、その異世界の人族の王が魔族の国に戦を仕掛けようと、別の世界から勇者を召喚したらしい。
都合の良い説明で洗脳し、操ろうとしていた人族の王の手から、魔王が勇者を浚い、魔王城に連れ帰ってきたのだと、エルフのメイド長から丁寧に説明してもらった。
その召喚された勇者が、子猫の姿をした、この私──羽柴美夜だった。
異世界へ転移している最中に、抱き締めていた瀕死の子猫と混じってしまったのではないか、と考えているのだけど、正解は神のみぞ知る。
(……いるのかな、この世界に神さまは)
真っ白の毛皮とキトンブルーな瞳の可愛らしい子猫に変化した私は、てっきり魔王に殺されるのだと怯えていたのだけど。
誰もが恐れ慄く歴代最強と誉れ高い魔王は、どうやら小さくてふわふわな可愛らしい生き物にとても弱かったようで。
パニックになってパンパンに尻尾を膨らませ、「やんのか」ポーズで威嚇する子猫の姿にメロメロになり、勇者を倒すどころか、己が床に転がりながら猫じゃらしを振る始末。
(んん? この魔王、意外とチョロい?)
己の可愛らしさを知ってしまった子猫は、かくして魔国で美貌の魔王アーダルベルトと美人のメイドさん達にちやほやされながら、楽しく暮らすことになったのだ──
◆◇◆
「魔王様、東のドワーフ国より貢ぎ物です。山羊ミルクとブラックブル肉。どちらも最高品質の物ですわね」
「南の人魚族からは新鮮なマグロとカツオが届いておりますわ。生でも美味しく頂けるそうですよ」
エルフのメイドさん達が執務に励む魔王に報告している横で、美夜はうとうとと微睡んでいた。
なにせ、生後1か月ほどの子猫。
食べて寝てを繰り返す、無力で可愛い生き物なのだ。
先程までは、ふかふかのソファの上で眠っていたはずだが、どうやら猫ベッドに寝かせられて、魔王のデスクに移動させられた模様。
くあっと欠伸をする子猫姿の美夜を凝視しながら、魔王アーダルベルトはうむ、とか何とか頷いている。
書類が溜まっていたのか、物凄いスピードで目を通した書類にサインをしていた。
使っているペンはとても高価そうな羽根ペンだ。
真っ黒で艶々な羽根が忙しなく動く様子に、美夜はむずっとした。
目が離せない。
無意識に尻をふりふりさせて、獲物を狙うポーズを取ってしまう。
きっと今、鏡を見たらキトンブルーを爛々と輝かせて目を丸くさせている子猫が拝めることだろう。
そんな子猫の様子に気付いた魔王アーダルベルトが、ふと端正な口許を綻ばせた。
手にした羽根ペンをゆっくりと左右に揺らす。つられて美夜の頭もゆらゆら揺れた。
「どうした勇者。その程度か?」
「みゃ(魔王ムーブもういいから)」
上下左右、ふらりと舞う羽根ペンの動きがゆっくりになった瞬間。
今だ! パッと飛び上がって羽根を捕まえる。
ふわふわの前脚で押さえつけ、ころんと転がりながら、あぐあぐと噛み付いた。
小さな牙では傷ひとつ付かないけれど、ちょうど口の中が痒かったので問題ない。
「なかなかやるな、勇者よ」
「ミャミャッ」
仰向け状態で羽根部分に噛みつき、後ろ脚で蹴りつける行為がとても楽しい。
興奮して、かみかみけりけりしている美夜を立派な黒壇の執務机に向かう魔王アーダルベルトが瞳を細めて見詰めている。
何だこれ。
美夜の中の理性的な人としての意識が突っ込むが、ふわふわの毛皮を纏った子猫の意識は夢中で羽根ペンにじゃれついている。
時折、魔王が楽しそうに羽根ペンを取り返し、目の前で振るものだから、性質が悪い。
「ふはは。どうした、勇者。これがそれほどに欲しいのか、ん……?」
「ふみゃああ!」
本能には逆らえないのだ。
卑怯だよ、魔王……!
113
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~
こじまき
ファンタジー
※20251119に13話改稿しました
「こんな転生先だなんて聞いてないっ!」六年間付き合った彼氏に婚約を解消され、傷心のまま交通事故で亡くなった保育士・サチ。異世界転生するにあたり創造神に「能力はチートで、広い家で優しい旦那様と子だくさんの家庭を築きたい」とリクエストする。「任せといて!」と言われたから安心して異世界で目を覚ましたものの、そこはド田舎の山小屋。周囲は過疎高齢化していて結婚適齢期の男性なんていもしないし、チートな魔法も使えそうにない。創造神を恨みつつマニュアル通り街に出ると、そこで「魔力持ち」として忌み嫌われる子どもたちとの出会いが。「子どもには安心して楽しく過ごせる場所が必要」が信条のサチは、彼らを小屋に連れ帰ることを決め、異世界で保育士兼りんご農家生活を始める。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました
藤原遊
ファンタジー
魔力不足でお城が崩れる!?
貴族が足りなくて領地が回らない!?
――そんなギリギリすぎる領地を任された転生令嬢。
現代知識と少しの魔法で次々と改革を進めるけれど、
なぜか周囲を巻き込みながら大騒動に発展していく。
「領地再建」も「恋」も、予想外の展開ばかり!?
没落領地から始まる、波乱と笑いのファンタジー開幕!
※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる