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〈成人編〉
24. 子猫と海ダンジョン 4
高レベルの猫の妖精、コテツによるスパルタ教育のおかげで、子猫二匹は四十階層でも充分通用するほど強くなった。
なので、ナギもエドも全力でダンジョン攻略に挑んだ。
「目指すは五十階層!」
『チョコのため、がんばるニャー!』
「「ニャー!」」
なるべく寄り道はせずに、最短距離で下の階層を目指していく。
それはそれとして、美味しそうなお肉やお魚があれば全力で狩るのも忘れない。
猫は天性のハンターである。
元狩人のエドと同じく、獲物を狙う目は真剣だ。
普通の猫科の動物と違うのは、獲物を甚振ることはせず、瞬時にトドメを刺すことくらいだろうか。
ドロップアイテムに変化する前に、ナギは目視で獲物の死骸を【無限収納EX】に回収する。
「うん、やっぱり『海ダンジョン』や『肉ダンジョン』ではちゃんと目視の収納はできるみたい。どうして、『食材ダンジョン』ではできないのかしら?」
先を進みながら、ぼやいてみたところ、何やら考え込んでいたエドが口を開いた。
「……おそらく、だが。『食材ダンジョン』はナギの魔力や欲……願い、を糧に成長して完成したダンジョンだろう? その過程で、ナギの特殊なスキルもバレているから、チートな行為ができなくなっているんじゃないか」
「私の特殊なスキルって、『無限収納EX』のこと?」
エドに指摘されたことを吟味すると、それが正解に思えてきた。
(……たしかに、魔獣や魔物を倒してドロップアイテムのみを与えてくれるダンジョンシステムの隙をついた形のチート行為だものね。私のスキルを知った『食材ダンジョン』だけは目視収納ができない理由も納得できる)
自分の魔力やスキルがそこまで影響をしているとは。
「いや、かなり影響を与えていると思うぞ? まずドロップするアイテムがな……」
「美味しいお肉やお魚、それにスパイスや調味料……うん、影響がすごいね」
「レアドロップにはなるが、マジックバッグのドロップ率もかなりいい」
「……やっぱり、それも私のスキルの影響かなぁ?」
「だと思うぞ? おかげで『食材ダンジョン』にも関わらず、実力や野心のある冒険者たちが続々と挑戦しに足を運んでいる」
「マジックバッグは便利だもんね……」
自分たちで使うのはもちろんのこと、かなりの高値で売れるのだ。
冒険者ギルドのお偉いさんが『食材ダンジョン』の発見を手放しで喜ぶのも納得である。
「まぁ、いいわ。『肉ダンジョン』や『海ダンジョン』ではちゃんと素材丸ごと収納ができるもの。それに『食材ダンジョン』でも目視収納はできないけど、獲物に触れたら収納自体はできるし?」
倒した直後に触れる必要があるので、危険な場合もあるが、そこは頼れるエドに協力してもらって、どうにか素材丸ごとゲット作戦を頑張っている。
「ブラックブルは、捨てるところがないくらい、美味しい素材だもん」
お肉はもちろん、内臓やタン、頬肉、尻尾。牛骨だって、美味しいスープが作れるのだ。
「ああ、分かっている。ブラックブルもだが、俺はワイバーンも捨てがたい」
「ワイバーン! そうだね、ワイバーンも皮膜の唐揚げが絶品だもの。また狩りに行かないとね!」
カリッと揚がったワイバーンの皮膜の唐揚げ。あれは罪の味。あれを前にすると、あと少しの我慢が必要なビールをすぐにでも解禁したくなってしまう。
「我慢! 我慢よ、ナギ……!」
飲みたくなってしまうので、成人の儀式まではワイバーンの唐揚げはおあずけにしておいた方がいいかもしれない。
ともあれ、今は──
『そこで引っ掻くニャッ!』
「ニャッ!」
コテツの指導のもと、トラとミウの二匹が巨大な魔物に立ち向かっている。
子猫たちがシャッ、と爪を引っ掻くと、風魔法が発動して、シーオークを三枚におろしてしまった。
「わぁ……すごい威力」
「魔法の発動方法の意味が分からない」
ぱちぱちと拍手するナギと、複雑そうな表情のエド。
「お肉がズタボロだから、さすがにこれはドロップしたものを持ち帰ることにするわ」
「それがいいと思う。肝心の肉が血まみれだからな……」
ナギの【浄化魔法】で綺麗にすることはできるが、気分的にちょっと嫌なので、これはドロップした肉を収納した。
シーオークは海に棲むオークだ。
シーゴブリンと同じく、陸上で見かけるオークの変異種。
指にヒレがあり、身体にエラがある以外は、普通のオークとそれほど変わらない。
肌の色が青いので、見分けるのは簡単だ。ちなみにサハギンのように、海から出没する厄介な魔物でもある。
「でも、お肉は問題なく美味しいのよね」
「同意する。陸のオークより、脂身が少ない気はするが、味は問題ない」
「脂身は少ないけど、お肉自体は陸のオークよりもやわらかいのよね。ずっと水に浸かっているからかしら?」
理由は分からないが、美味しいお肉なので、しっかり回収する。
今夜はシーオークのカツにしようかな、とウキウキしながら、先を目指す一行だった。
◆◇◆
日中はひたすら先を目指して、日が暮れるとセーフティエリアに魔道テントを張って、中にこっそりコテージを出して休んだ。
魔獣や魔物、海魔を倒しつつ、美味しそうな果実を見つけたら、しっかり採取もこなす。
猫の妖精たちは幸運値が高いのか、フロアボスを倒すと、高確率で値打ちのある宝箱をドロップした。
「宝石に金銀財宝。まさに、招き猫だね、君たち」
ありがたく回収する。
これはまとめて冒険者ギルドに買い取ってもらい、皆で山分けする予定だ。
手に入れた肉や魚、果物などは美味しいご飯に調理して、これまた皆で味わう予定です。
『食材ダンジョン』には無かった肉や魚介類も手に入ったので、とても楽しみだ。
そんな風に、二人と三匹のパーティで着々と進んでいき──とうとう到着した。
「五十階層! ようやく到着したねっ」
念願の五十階層は、緑濃い熱帯雨林だった。
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