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〈成人編〉
28. 〈幕間〉ダンジョン都市、到着
「ここがダンジョン都市か!」
王国からの船が到着する港街から、十日をかけてダリア共和国の首都に到着した。
ダンジョン都市は居住区を塀で囲っているため、東西南北の砦を通過する必要がある。
グレンとオスカーが辿り着いたのは、南の砦だった。
「南にあるダンジョンは海にあると聞いたが、どんな場所なのだろうな」
そわそわと落ち着きなく視線をさまよわせる元上司にして幼馴染みの姿に、オスカーはため息を吐く。
「落ち着いてください、グレン。ダンジョンに挑むにしても、まずは冒険者ギルドへの挨拶が先です」
「そうだったな。大丈夫だ。僕は浮かれていない」
「めちゃくちゃ浮かれていたじゃないですか、貴方」
軽口を叩きながら、南の砦の行列へと足を向ける。
冒険者用の列と商人と一般人用の列が分かれていたが、オスカーはほんの少し思案して、門番の一人に何事かを耳打ちした。
驚いたように顔を上げた門番の男に懐から取り出した書類を見せている。
(ふむ。グランド王国の紋章入りの書状か。兄上が用意してくださったものだな)
封蝋には国王である兄が常に携帯している指輪印章が捺されている。
「はっ、失礼しました! こちらへどうぞ!」
冒険者ギルド経由で砦に連絡は入っていたようだ。
二人はそのまま冒険者ギルドの本部へ案内されることになった。
◆◇◆
国王直々の書状のおかげで、グレンとオスカーの二人は無事にダリア共和国に受け入れられた。
王族待遇は辞退し、ただのグレンとオスカーとして冒険者登録も済ませてある。
まずは銅級冒険者デビューだ。
これから着々と依頼をこなしてランクアップを目指さなくては。
「楽しみだな、オスカー!」
「まぁ、そうですね。王国にいてはできなかった経験です」
冒険者ギルドの本部がある中央区。
グランド王国からの来訪者の到着はすみやかに通達されたようで、二人がのんびりと本部に足を踏み入れた時には、すでに東西南北すべてのギルドマスターが勢揃いしていた。
「さすが、歴戦のギルドマスターたちだったな。迫力が違う」
「どなたも元金級冒険者だそうですからね」
それぞれ武器や得意分野は違うが、冒険者ギルドに多大に貢献した彼らに気圧されないよう対峙できたのは、王族としての意地とはったりのおかげだろう。
ダンジョン都市の視察という名目の薄っぺらさは彼らには見抜かれていたように思う。
「微笑ましそうに送り出されましたからね……」
「まぁ、いい。東西南北のギルドマスターのお墨付きをもらったようなもの。存分にダンジョンを楽しむぞ、オスカー!」
「はいはい。おてやわらかにお願いしますね、殿下」
「名前を呼ぶ約束だぞ、オスカー」
「失礼しました。……行きますよ、グレン」
さっそく観光としゃれこみたいところだが、ギルドが宿を用意してくれたとのことなので、厚意に甘えることにする。
案内を遠慮すると、手書きの地図と紹介状を手渡された。
富裕層に人気だという、エイダンホテル。ダリア共和国きっての大商会が運営する高級宿泊施設らしい。
「なんでも食事が絶品だそうだぞ」
「それは楽しみですね。この国の料理はとても素晴らしい」
五階建ての立派なホテルに到着すると、すぐさま部屋へと案内された。
落ち着いた調度品で揃えられた室内は居心地がいい。
室内が明るいのは、大きなガラス窓があるからだ。贅沢な作りに素直に感心した。
気兼ねなく、外の景色を眺めることができるのが嬉しい。
「どうぞ。ウェルカムドリンクです」
室内まで荷物を運んでくれた従業員が笑顔で飲み物を運んでくれた。
「ありがとう」
「いただきます」
まずはオスカーがグラスに口を付ける。毒味も兼ねているため、グレンは大人しく待った。
オスカーは何かに驚いたように、わずかに目を見開くと、そのままグラスの中身を一息にあおってしまう。
「……どうした?」
いつもと違う反応に戸惑いながら尋ねると、珍しくも満面の笑みを浮かべながら「あまりの美味しさに驚いてしまいまして」などと、しれっと言う。
ちょっと呆れてしまったが、どうやら毒の心配はないようなので、グレンもグラスを口にした。
北口である故郷と比べると、この国は温暖だ。冬が終わったばかりの季節なのに、もう夏のように汗ばんでいる。
なので、オスカーがこの氷が浮かぶ水を美味そうに口にしたのも当然のこと。
そう思っていたのだが──
「っ、何だ、この水は⁉︎」
「……美味しいでしょう?」
「美味すぎる!」
夢中でグラスの中身を空にしたところで、案内役の従業員がくすりと微笑んだ。
「ありがとうございます。こちら、デトックスウォーターとして人気のある飲み物です。いつでもご用意いたしますので」
「ああ、ありがとう。……エールのような泡がある水は初めてで、驚いてしまった」
「それに酸味と微かな甘みもあって、飲みやすかったです」
手放しで褒められて気をよくした従業員が「解毒作用のあるハーブとレモン果汁、蜂蜜を少々。そして、タンサンの実で作ってあるので、身体にもいいんですよ」と笑う。
「タンサンの実……?」
「はい。食材ダンジョンで採取した実で、先ほどの泡──炭酸を作ることができるのです」
「そんな実があるのか……」
とても興味深い。
「ホテル内のレストランでも、色々な種類の炭酸ジュースを注文できますので、よろしければご利用ください」
「色々とありがとう」
オスカーが礼を言って、チップを握らせる。
従業員が部屋を後にすると、二人は真顔で相談を開始した。
「あの泡の飲み物はすばらしい。炭酸、だったか? 我が国にも輸入できないだろうか」
「王国でも人気が出ると思いますよ。落ち着いたら、商業ギルドに相談してみましょう」
「ダンジョンであのような素晴らしい植物が採取できるとは……」
さっそく明日から、ダンジョンに挑むことにしよう。
張り切る二人は、その夜の食事でも衝撃を受けることとなる。
美味しい食事に目がない少女と少年によってエイダン商会に持ち込まれたレシピや食材、調味料によって、王国生まれの二人がカルチャーショックに苛まれるのは必然だった──
◆◆◆
グランド王国は飯マズと言われている某国をモデルにしております。
紅茶と肉料理と朝食には自信があります!
◆◆◆
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執筆終了済みです。