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〈成人編〉
29. クレープを作ろう
久しぶりに食べるチョコレートが美味しすぎて、二週間ほど毎日ダンジョンに通ってしまった。
転移の魔道具で瞬時に移動ができる食材ダンジョンと違い、海ダンジョンまでは自力で通わなくてはならない。
幸い、ダンジョンまで到着すれば、五十階層まで転移すればいいので、そこは楽だったが。
猫の妖精の三匹と、チョコレートのパン作りにハマったエドが乗り気なこともあり、皆でせっせとカカオ採取に励んでしまった。
とはいえ、ナギたちは冒険者。
生活のためには稼がなければならない。
なので、五十階層に通うついでに、他の階層でもせっせと狩猟に励んだ。
狙うのは、シーサハギン。
「ナギ、倒したぞ!」
「ん、収納っ!」
『こっちも倒したニャ』
「はーい、収納!」
「みゃみゃっ」
「にゃう!」
「はいはい、ありがとねー。収納!」
半魚人もどきの海のモンスター、シーサハギンは宝箱をドロップする。
レアドロップアイテムなので、確率はあまり高くないのだが、ナギには【無限収納EX】スキルがある。
最強の収納スキルのおかげで、シーサハギンはドロップアイテムに変化する前にすべてナギが目視で収納して、素材どころか宝箱も丸ごと確保できた。
シーサハギンの宝箱の中身は多彩だ。
海のモンスターだけあり、中身は新鮮な魚介類がほぼ占めているけれど、真珠や珊瑚、難破船から拾い集めたらしきコインや宝飾品などが見つかることも多い。
今回倒した、シーサハギンの群れからも宝箱を大量に回収することができて、ナギは上機嫌だった。
「魚介類は自分たちで美味しく食べることができるし、お宝はギルドに買い取ってもらえるから、シーサハギンはオイシイ獲物よね!」
『見た目は気持ち悪いけど、いいとこあるニャ』
高く売れるお宝だと知ると、コテツも満足そうに喉を鳴らした。
「海藻類とカツオが多かったぞ。よかったな、ナギ」
シーサハギン狩りに慣れているエドなどは、ナギの喜ぶお宝を知り尽くしている。
「昆布とカツオ節! 美味しい出汁を引くことができるね。嬉しいな」
『真珠や宝石のほうを喜ばないのが、さすがナギにゃ……』
呆れたようにヤレヤレとため息をつくコテツをナギは心外そうに見やった。
「そんなことはないわよ? 真珠も宝石も高く売り捌けるもの! 嬉しいに決まっているわ。皆で山分けしても、かなりの稼ぎになるのは装飾品のおかげよ」
猫三匹と二人で五等分しても、それぞれ金貨一枚の儲けは確保できている。
一日の稼ぎが日本円換算で十万円もあれば、立派な冒険者だ。
冒険者ギルドでお宝の中身を買い取ってもらうと、意気揚々と帰宅する。
「ナギ、今日は何を作る?」
わくわくした表情を隠しもせずに聞いてくるエド。
すっかり大人びて、クールな佇まいが素敵と女の子たちに大人気な彼の、年齢相応の表情が見られたことが嬉しくて、ナギはくすりと笑う。
「そうね。チョコレートドリンクを作ろうかしら。暑いから、ホットココアじゃなくて、アイスココアはどう?」
「チョコレートの飲み物か。かなり甘そうだな……」
「おやつはクレープを作りたいな。チョコバナナ味の」
『食べたいニャ!』
返事は足元から。
ヒゲぶくろをぷっくりさせて興奮した様子のコテツが前脚でナギに縋り付いておねだりをしてくる。
「──これは断れないな」
「可愛すぎてズルい……っ」
そんなわけで本日のランチはクレープに決定。
せっかくなので、色々な具材を用意して楽しむことにした。
「バナナとチョコレートは必須として、イチゴも使いたいよね」
「なら、ホイップクリームも用意した方がよくないか?」
「そうだね! チョコクリームとホイップクリームはたくさん用意しよう」
『ダンジョンで採取したベリーもあるニャ』
「ブルーベリーとラズベリー! 酸味があるベリーもクレープの具材にぴったりね」
「マンゴーもいいんじゃないか?」
「贅沢なクレープになりそう!」
あとはジャムを挟むのもよさそうだ。
バターとシナモン、蜂蜜のみのシンプルなクレープも捨てがたい。
「それと、甘いものばかりだとエドが飽きそうだから、おかずクレープも作るね」
「おかずクレープ?」
「ツナマヨとかハムとか、チーズや照り焼きチキンをレタスやスライスしたオニオンを具材にしたクレープよ。手軽だけど美味しいの」
「いいな、それ。食ってみたい」
エドは好きだと思う。
マヨネーズやオーロラソースも用意しておこう。エビやスモークサーモンを巻いても美味しそうだ。
「ゆで卵にソーセージ、生ハム、唐揚げもありかな? レタスの他にキュウリとアボカドがあっても良さそう」
考えているうちに楽しくなってしまい、ついついたくさん作りすぎてしまった。
「クレープの生地は作るから、好きな具材で自分で作ってね」
「分かった」
『いっぱい挟むにゃ!』
「あまり多いと綺麗に巻けなくなるぞ?」
張り切ってクレープを作る皆の姿をニヨニヨと含み笑いで眺めながら、生地を焼いていった。
「さて。まずは本命のチョコバナナクレープ!」
生地を焼き終えたナギはさっそくクレープ作りに取り掛かる。
まずはホイップクリームをたっぷりと搾って、スライスしたバナナをのせた。
そこにチョコレートクリームをこちらも贅沢にたっぷりと塗り込む。
あとは生地を巻いて、そのままかぶりつく。
「んんっ。おいひい……っ!」
一口かじっただけなのに、口の中が幸せでいっぱいだ。ホイップとチョコレートクリームがとろけるよう。
ねっとりとしたバナナの甘さとほの苦いチョコのバランスが最高だ。
「旨いな。もっちりとした生地も好みだ」
「サンドイッチよりは軽く食べられるのがいいよね、クレープ。次はイチゴホイップにしよう!」
「俺はマンゴーでいく」
もりもりとクレープを食べていくエド。が、さすがにデザート系は三個で飽きたようで、すぐにツナマヨとハムの具材へと移行していた。
「ん、こっちも好きだ。いくらでも食えそうだな」
用意した、おかず系の具材をひとしきり試し始めている。
ちなみに猫の妖精たちは、果物は少しだけで、もっぱらクリームやチョコレート、蜂蜜などをたっぷりと包み込んで舌鼓を打っていた。
「うみゃい!」
「ウミャー」
「ムグムグ……」
にゃごにゃごと、ご機嫌な鼻歌まじりに皆でクレープを平らげている。
「美味しかったね、クレープ。私はやっぱりチョコバナナがベストかな」
「ホイップも悪くはないが、やはりチョコクリームがクレープには必須だと思う」
『また食べたいニャ!』
二週間、海ダンジョンで採取したおかげで、カカオの実は大量に確保できた。
コテツから教わった【発酵】魔法のおかげで、チョコレートへの加工も楽にできるようになった。
充実した二週間だったと思う。
「美味しいチョコレートのお菓子も堪能できたし、来週からは真面目にお仕事をしなくちゃね」
「そうだな。……久しぶりに東のギルドに顔を出そうか」
ナギの提案にエドは素直に頷いた。
「ラヴィさんたちにもチョコレートのお菓子をお裾分けしないとね」
なにせ、カカオの実とその情報をくれたのは彼女なのだから。
「……ついでに、少しだけ探りを入れておくか」
カカオに浮かれたナギはすっかり失念していたが、エドはちゃんと覚えていたのだ。
「ダンジョン都市を視察しに来るという連中が、どこにいるのかは把握しておきたい」
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