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〈成人編〉
33. あらたな指名依頼 2
しおりを挟む「俺は反対だ」
ナギを囮にして、人さらいを続ける組織と奴隷商人をまとめて捕える作戦について説明されたのだが、エドはきっぱりと首を振った。
「聞いてくれ、エド。ナギの他に適任者はいなくてだな……」
「ナギはダメだ」
「もう少し落ち着いて話を聞いてくれませんか、エド」
「危険すぎる」
「そこは俺たち冒険者ギルドが責任を持ってサポートをだな……」
「信用できない」
「おい……」
取り付く島もない。
さすがのフェローも言葉を失っていた。
仕方がないので、ナギがそっと挙手してみたところ、ギルドマスターのベルクが涙目で喜色を浮かべる。
「ナギ……!」
「あ、誤解しないでくださいね? 依頼を受けるということではなく、質問です」
「そ、そうか。いや、質問は当然だな。何を聞きたい?」
「では、私が選ばれた理由を教えてください。他に適任な獣人族の冒険者もいたのでは?」
魔法が得意で、とっておきの収納スキル持ちだが、ナギは体力や腕力には自信がない。
同じ年代の獣人族の少女と比べても、あきらかに脆弱だ。
一応、【身体強化】は持ってはいるが、あれは持ち前の能力を底上げするスキル。
ほとんどの獣人族が【身体強化】スキルを使えるため、発動しての獣人の少女の方が断然強いのだ。
囮として、そのまま拐われてしまえば、逃げ足も早くないナギではギルドに貢献ができるようには思えない。
「それがですね、残念ながら、我がギルドにはいないのですよ。ナギ以上の適任者は」
だが、フェローはそう言って肩を竦めてみせた。
冗談かと思ったが、いつもの笑みは浮かべていない。
「行方不明になった少女の中には、冒険者見習いのシロクマ族の子もいました。【身体強化】だけでなく、【怪力】のスキル持ちです。期待の新人でしたが、そんな子でさえ、何の痕跡も残さずに連れ去られているのですよ」
「獣人族を囮にしても、同じように拐われて終わりの可能性が高いと我々は考えた」
エドが小さく舌打ちする、
「だからって、魔法使いのナギを囮にするなんて安直すぎる」
「耳が痛いね。そこは申し訳ない」
「これでも色々と考えたんだ。獣人ではなく、亜人種が狙われている可能性もあるからな。だが、ドワーフ族の囮には引っ掛からなかった」
「……エルフは?」
魔法使いを囮にするなら、と考えたエドの問いには、嘆息が返ってきた。
「残念ながら、ダンジョン都市に年若いエルフはおりません。幼いエルフなんて論外です。集落から出されるわけがないですからね」
「そうだな。この王都にいるエルフは二百歳越えの変わり者ばかりだ。さすがに未成年のフリは頼めないし、騙されるマヌケはいないだろうさ」
「ちなみにハーフエルフ、ハーフドワーフの子供はそれなりにいますが、今のところ行方不明者はいません」
ということは、やはり被害は獣人族の少女のみ。
そして、力に自信のある獣人を無力化する術を持つ組織が相手となるのか。
「……それで、魔法が使える私が適任だと?」
「魔法と収納スキル持ちで、おまけに頭がキレるお前さんが適任だと判断した」
「……もしかして、褒めてくれています?」
「おうとも。ナギほどの適任はいないと思うぞ。力や魔法を封じられたとしても、スキルは使えるだろう?」
ベルクの問いに、ナギは神妙な表情で頷く。
魔力を使い果たした時でも、【無限収納EX】スキルは自在に使うことができる。
「囮として囚われたとしても、収納スキルに通信の魔道具を隠し持ってくれていれば、居場所が分かる」
「……なるほど。そういう理由で私が選ばれたんですね」
それなら納得だ。
商品として奴隷を集めているなら、捕まったとしても痛め付けられる心配は少ない。キズモノは安く買い叩かれる。
(まぁ、万一ケガをさせられたとしても、私なら治癒魔法が使えるし、ポーションも隠し持てるものね)
おとなしく拐われて、本拠地に連れ去られたところで、通信の魔道具を使って、ギルドに居場所を伝えることが、今回の任務ということか。
(それなら、私でもできそうよね)
エドはまだ不機嫌そうに押し黙っているが、人さらい組織と奴隷商人をまとめて叩き潰したいのは同意している。
「私は受けてもいいと思っています」
「ナギ⁉︎」
「おお、本当か!」
顔色を変えるエドに向かい、安心するように微笑み掛けて。
「それはそれとして、この任務では獣人でなければ囮になりませんよね? 変装するんですか?」
付け耳などで誤魔化せるものなのか、と不思議に思ったナギの問い掛けに、フェローがにやりと笑った。
「そこが気になるとは、さすがナギですね。ええ、もちろん変装をしてもらう予定です」
自信満々だ。
いったい、どれほど精巧な付け耳があるのだろうとナギは好奇心をくすぐられた。
わくわくしながら、尋ねてみる。
「どんなものを使う予定なんですか?」
服に縫い付ければそれなりに見えそうな尻尾なら想像がつく。
(でも、動物そっくりの付け耳は作るのが難しそうよね。やっぱり、カチューシャタイプなのかなぁ?)
微笑をたたえたフェローがテーブルにことりと小さな瓶を置いた。
「これを使います」
「……これ?」
どう見ても、ガラス製の何かのポーションのようなのだが。
小首を傾げる二人に、ベルクがため息混じりに告げた。
「とあるダンジョン下層の宝箱から出てきたポーションだ。獣人族への変身薬だとさ」
「服用して、三週間ほど効果は続くそうです。興味深いでしょう?」
「変身薬……」
作りもので変装するのではなく、ポーションで変身するのか。
「副作用は今のところ確認されていません。ポーションを服用した者が強く念じた種族に姿を変えることができるそうです」
「使える魔法やスキルはそのままで、外見だけ獣人になるそうだぞ」
「……どうですか? 面白そうだと思いませんか、ナギ」
にっこりとフェローに微笑み掛けられて、ナギは当然こう答えた。
「その依頼、受けますっ!」
しゅばっと挙手したナギの傍らで、エドが頭を抱えていたが、気付かないフリをしたのは内緒である。
◆◆◆
しばらく、仕事が多忙につき更新頻度が落ちます。
申し訳ございません…!
◆◆◆
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