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〈成人編〉
61. ギルドへの報告
翌早朝。
夜が明けて、すぐ冒険者ギルドやオスカーたちが駆け付けてくれた。
崖から落ちて流れ着いたので現在地の説明は難しかったが、オスカーが持つGPSもどき魔道具のおかげで場所はすぐに分かったらしい。
(オスカーさん、すごい形相でグレンさんのところに駆け付けていたなぁ……)
何やら、他にも二人お仲間らしき人がいたようだが、これ幸いと彼らから離れたので、後はよく知らない。
ひととおり怪我がないかなどの確認をされた後で、ハイペリオン・ダンジョン前のギルドまで連れて帰ってもらった。
「おつかれ、ナギ。エドもありがとう。不測の事態に焦ったが、おかげで助かりました」
東の冒険者ギルド、サブマスターのフェローが直々に頭を下げてくれた。
ギルドの会議室にはフェローを筆頭に、冒険者ギルド本部の者や事件の関係者捕縛のために協力してくれたパーティメンバーもいる。
金級冒険者揃いで、迫力が桁違いだ。
その中の一人が、ナギの視線に気付いてニコリと微笑みかけてくる。
白兎獣人のラヴィルだ。
エドの師匠である彼女は、ナギには親しげにひらりと手を振るが、傍らに立つ弟子には意味ありげな眼差しを投げ掛けてくる。
居心地悪そうな相棒の背がぴんと伸びた。
(褒めているのか、お説教コースか分からなくて落ち着かない感じ……?)
いま、この場では何も言うつもりはないようで、すぐに視線は外された。
なんとなく、エドと二人でほっと息をつく。
ラヴィルの所属するパーティの活躍のおかげで、獣人の少女たちの誘拐事件に関わった連中は一網打尽にできたらしい。
巻き込まれてしまったグレンの姿はないが、オスカーと共に別室で聴取されているようだ。
グレンに色々と追及されずに済んで、ナギはホッとする。
「フェローさん、組織のアジトから持ち出した書類をどうぞ」
【無限収納EX】から取り出した書類の束をテーブルに積み重ねる。
ざっと目を通したグレンが仕分けてくれた、『クロとグレー』の帳簿も横に並べた。
かなりの量の証拠品を前にして、皆がざわざわしている。
「多いですね……」
げんなりとするフェローだが、証拠は大事。助かりますと丁寧にお礼を言われた。
「あと、隠し財産らしき物や被害に遭った子たちの荷物も一緒に回収してあります。念のためにこれも調べてくれますか?」
テーブルにごそっと取り出す。
会議室の長テーブルがそれだけで埋まってしまった。
一瞬、天を仰いだフェローは神妙な表情で請け負ってくれた。
「承知しました。すこし時間をください。ちなみに犯罪組織から回収した財物は発見者にいくばくかの権利が発生しますが……」
ナギはエドと顔を合わせて、頷いた。
昨夜のうちに相談しておいたので、神妙な表情で告げる。
「権利は放棄します。その代わり、今回の被害に遭った子たちに金銭の補償とちゃんとした仕事の斡旋をお願いしたいです」
二人とも、お金には困っていない。
指名依頼として受けた、この仕事で依頼料と達成報酬も入ることだし、何より──
「それより、今回の事件の関係者はちゃんと罰せられるんですよね?」
ナギの問いに、もちろんだとフェローが頷く。
「ガズール商会、商会が雇っていた連中。そして、輸入先のシラン国の奴隷商会も捕まえることができたからね」
「そうですか。なら、良いです」
どさくさに紛れて、帆船に大岩を落として逃走を阻止したのが役立ったらしい。
甲板が破損して、立ち往生していたところを捕縛したのだという。
「我が国の民を拐かし、奴隷としていた事実は国を通して、対処してもらう。シラン国としても、関係した商会には処罰せざるを得ないと思うよ」
シラン国内のことなら事件を揉み消せたかもしれないが、ダリア共和国内での事件なのだ。
(シラン国の奴隷商会をひとつ潰せただけでも、私たちにとっては成果だもの)
エドのことを奴隷として扱っていたシラン国には恨みしかない。彼の父親も奴隷狩りで命を落としてしまったのだ。
「海に出られていたら危なかったが、なぜか船が破損してしまったからね。おかげで一網打尽にできた」
ふふふ、と笑うフェローからナギはそっと視線を外した。
「そうなんですねー。不思議ですねっ。天罰かな?」
「ははは。天使が罰を下したのかもしれないね。何にせよ、裁きの天使には感謝しなくては」
これはバレているのかな、と焦るナギの手をエドがそっと引いた。
「そろそろ俺たちは休ませてもらっても?」
「ああ、そうだね。後のことは大人に任せてゆっくり休んでくれ」
ギルドの職員に促されて、二人は会議室を後にした。
◆◇◆
ナギは冒険者ギルドが用意してくれた宿の部屋に足を踏み入れるや、ベッドにダイブした。
「はー……疲れたね、エド」
「そうだな。今回の依頼は、精神的な疲労がひどい」
「でも、エドのおかげで皆、命拾いしたもの。そこは誇っていいと思う!」
「……ああ、そうだな」
俺はナギが無事なら、それでよかったんだが──ぼそりと呟かれた言葉は、ナギの耳には届かなかった。
浄化魔法で全身の汚れを落とすと、楽な普段着に着替える。
「さすがに疲れたから、三日くらいは休もうね」
「……ナギがそう言うなら」
師匠に似て若干脳筋なエドは残念そうだ。精神的に疲れてはいるが、そのストレスをダンジョン内で晴らしたかったようだ。
「のんびりと英気を養った後で、ダンジョンに行こうね」
「いいのか?」
「うん。たまには食材ダンジョンにきちんと潜っているところを皆に見てもらわないと、怪しまれそうだし」
ハイペリオン・ダンジョンの初回攻略特典として、転移の魔道具を入手したため、二人とも毎日でも通えるのだ。
主に自分たちが食べたい食材を手に入れるために転移しているが、副産物のドロップアイテムが大量に【無限収納EX】に溜まっていた。
「魔石と宝石、アラクネシルクと砂金を換金したいんだよね」
食材目当てで倒した魔獣や魔物からドロップするレア素材。
特にマジックバッグを稀にドロップする魔獣はナギにとってはカモネギさんだ。
倒すと同時に【無限収納EX】へ回収すると素材が丸取りできる──つまり、レアドロップアイテムも入手できる。
デーツ目当てで通う三十五階層のフロアボス、サンドキャメルの革製マジックバッグは高額買い取り商品だ。
(あれ一つの売上げ金で、一年は遊び暮らせるっていうものね)
快適に暮らすには、それなりのお金が必要。
勤勉で小心な日本人気質のナギたちは、きちんと貯金もするけれど、ケチではない。
「今回は何狙いだ?」
「そろそろイチゴの在庫が心もとないから、六十階層に行きたいわ。エドは?」
「俺は三十二階層に行きたい」
「ブラックブルのお肉ね?」
収納リストを確認すると、こちらの在庫も一桁数。黒毛和牛もどき肉は絶対に在庫を切らしたくないので、行かねば。
今後の予定を確認すると、小腹が空いたので昼食をとることにした。
「お昼は屋台かお店で食べたい!」
昨日から十三人分の食事を作らされたナギのリクエストで、外に出ることにした。
「何を食べたい気分?」
「久しぶりにピザが食べたい」
「いいわね、ピザ。マルゲリータかクアトロ・フォルマッジを堪能したいわ」
美味しいチーズを食べたいナギが弾むような足取りで、通りを歩く。
開拓地食堂で腕を磨いた料理人が開いたピザレストランのドアに手を掛けた、その時。
「おや、奇遇ですね、ナギさん。ご一緒しても?」
艶やかな低音の持ち主に呼び掛けられて、ナギは固まった体勢のまま、そろりと背後を振り返る。
「オスカーさん……とグレンさん……」
にこにこと胸の内が読めない、胡散臭い笑顔の黒髪美丈夫と申し訳なさそうな表情の金髪碧眼の美青年がそこにいた。
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