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〈成人編〉
66. 告白 3
(すぐにバレるような嘘は吐かないほうがいいよね)
この二人──特にオスカーの前では、迂闊なことは口にしないほうがいい気がする。
(嘘は吐かずに。……でも、すべてを話す必要はない)
そう考えて、ナギは慎重に言葉を紡いだ。前世の記憶のある生まれ変わり云々はもちろん話さない。
それに特別なスキル【無限収納EX】についても口を噤むことにした。
◆◇◆
王族と筆頭侯爵家子息という、恵まれた環境にいた二人にとってナギが淡々と語った内容はよほど衝撃だったらしい。
「なんという……」
「当事者からの証言は、胸にきますね」
とても同情してもらえたようなので、心の中で「よし!」と拳を握る。
スキルや魔法については、死にかけた際に発動したと説明した。
グランド王国では七歳の誕生日に神殿に祈りを捧げて、初めて魔法やスキルを得ることができると信じられているらしい。
そう教えてもらったナギは驚いた。
(そうなの⁉︎ あ、でも私の場合は転生者特典だから、他の人とは違うのかな)
いや、転生特典でもらった魔法やスキルの他にも五歳からこき使われて得た【調理】などの家庭科系スキルもあった。
(魔法はともかく、スキルは実生活で得られるものもあるよね?)
エドも不思議そうな顔をしている。
「神殿は関係ないんじゃないか。俺たち黒狼族の者は誰も神頼みなんて、したことがないぞ」
グレンはオスカーと顔を見合わせて、苦々しく笑う。
「まぁ、そうだろうね。僕たちも国教とされている神殿が箔付けに使っている慣習だとは思っていたんだ」
神殿では祈りの後で鑑定の魔道具を使い、魔法やスキルを『神殿で授かった』とやるらしい。
スキルは特技から発生することがあるが、【身体強化】や収納スキルなど分かりやすいものでなければ実感するのは難しい。
(魔法だって、鑑定してもらわないと属性が分からないから使えないものね)
鑑定の魔道具はダンジョンからのドロップアイテムで、数も多くない。
【鑑定】のスキル持ちはさらに稀少だ。
「スキルはともかく、魔法を自力で覚えたのはすごいぞ」
手放しで褒めてくれるグレンは、母を知っているからか、親戚のお兄さんのような言動になっている気がしないでもない。
可愛くねだれば、お小遣いを握らせてきそうだ。
その背後に立つオスカーは思案げに人差し指を唇に押し当てている。
「そういう珍しい事例があったと、以前に報告書で読んだことがあります。生死に関わる一歩手前の状態で、とある兵士が治癒魔法を覚えたのだとか」
「そうか……。やはり、実際に命が危うかったのだな」
実際、十歳の誕生日に前世の記憶を思い出して、スキルや魔法を取得していないと危険な状態だったのだ。
「栄養失調──えっと、まともな食事がほとんど取れなかったので、弱っていたんです。あと、屋根裏部屋は隙間風もひどくて風邪をこじらせてもいたので……」
無我夢中で【治癒魔法】を使ったのだと説明する。
回復してからは、食糧庫から食べ物をこっそり持ち出していて、その時に収納スキルを使ったのだ、と。
嘘は言っていない。
「なるほど。命を繋ぐために、治癒の魔法を。食べ物を持ち出すために収納スキルが開花したんだな」
「そ、そうなのかもしれません、ね?」
断言はせずに、えへへと笑っておく。
そして、その収納スキルで辺境伯邸のあれこれを持ち出して逃げたのだと告白した。
「あのまま屋敷にいたら、また同じような目に遭うと思ったんです。だから、いっそのこと森の中へ逃げてやろうと考えて」
「それで、一人で大森林に向かったのか」
「なんというか、思い切りのよすぎるご令嬢ですね」
はぁ、と二人の男が額を突き合わせてため息を吐いている。
どちらも見目麗しいため、大変に眼福な光景だった。
「それなりの規模の盗賊団に拐われた可能性も視野に入れていたんだが……」
「すみません。私、一人です」
「一人であの量の物品を収納したのですか?」
「はい。ごめんなさい。ついカッとなって」
しおらしく首をすくめてみせると、グレンがくつりと喉を震わせるようにして笑った。
「規格外の【アイテムボックス】だとは思っていたけれど……さすが、アランナ嬢の愛娘だね」
「夫人も二属性魔法の使い手でしたものね。母方の血が濃かったのでしょう」
なんと、母は魔法が使えたのか。
体が弱かったので、めったに使うことはなかったらしいが、水と土属性の魔法使いだったようだ。
(……もしかして、あの脳筋父、それもあって魔法コンプレックスだったとか?)
剣術スキル持ちの凄腕の騎士だったが、滑稽なほど魔道武器にのめり込んでいた疑問が晴れた気がする。
「ちなみに、持ち出した物はすべて手放した?」
「あ、えっと……屋敷にあった高そうな家具やドレス、宝飾品なんかは売り払っちゃいました」
「ああ……まぁ、子供が生き抜くためにはそうするしかないよね……うーん」
形のよい眉をひそめて悩ましげな様子のグレンに見惚れていたナギは、はっと我にかえった。
「あっ、あの! 王家から預かっていた魔道武器や家宝はここにあります!」
慌てて【無限収納EX】からそれらを取り出した。
属性魔法付きの剣や、弓。スキルが付与された魔道武器をごっそりテーブルに並べていく。
エドも先ほど、魔法の網を切り裂いた魔剣をそうっと紛れ込ませていた。うん、それ国宝。使ったことは黙っておこう。
そっと目配せをしておく。
「おお……これはなかなか壮観だ」
「国宝級の魔剣がこんなに。……はぁ」
目を輝かせて喜ぶグレンと、胃を押さえて憂鬱そうなオスカーの対比が面白い。
「うん、これらが戻ってくるなら、どうにかなるんじゃないかな」
「……殿下? 何を考えているんですか」
「もちろん。僕たちはもちろん、アリア嬢もハッピーエンドになる方法さ」
「……俺を巻き込むつもりですね?」
「僕たちは親友だからな!」
はっはっは、と快活に笑う金髪碧眼の王子さま。
くしゃりと片手で黒髪を乱雑に掻き上げて、オスカーは深くため息を吐いた。
きっちりと編み込まれていた髪が乱れるが、むしろ色気が増したように見えて、ナギはドキドキする。
「なんとなく、そうなるだろうなとは思っていたので……仕方ない。協力しますよ」
「お前ならそう言ってくれると思ったよ!」
無邪気に笑ってハグをしてこようとするグレンを押し退けるオスカー。
「で、どうするつもりです?」
「うん。まずはアリア嬢。このテーブルの上の宝物の数々は僕が預かっても?」
「もちろん、お返しします!」
勢い込んで、そう宣言する。
耳にするなりグレンはにんまりと微笑んだ。
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