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〈掌編・番外編〉
1. 調理器具職人
しおりを挟むひょんなことから知り合った、冒険者見習いの二人組。
狼獣人のエドと小柄な少年ナギは、半端者とバカにされていたハーフドワーフであるミヤに定期的に仕事を頼みに来る。
ミヤに頼むのは、基本的に調理器具だ。
それも、これまで見たことも聞いたこともない、斬新な道具類が多い。
目新し過ぎて構造が良く分からない物については、ナギの詳しい説明とエドが描いた絵を元にどうにか作り上げている。
「いちばん最初に頼まれたのは、泡立て器だったか。あれはエドが竹細工で見本を作ってくれていたから、分かりやすかったよね」
初仕事を思い出して、ミヤはくつりと笑う。こうやって使うのだと、ナギは工房で生クリームを泡立てた。
そうして美味しい焼き菓子に添えて、ミヤにご馳走してくれたのだ。
「あの、スコーンて焼き菓子、美味しかったよなぁ……」
蜂蜜味の焼き菓子はそれだけでも充分に美味しかったが、生クリームが加わると天上の味へとさらに昇華した。
あんなに美味しい菓子は初めて食べた。
ふわふわの雲に似た「生クリーム」は蕩けるように甘くて、幸せの味がした。
こんなに美味しい物を作るために必要な道具なら、とミヤはその依頼を受けたのだ。
頷いた途端に笑顔のナギにピーラーやスライサーなどの道具作成も追加で依頼されてしまったが、ちょうど大きな仕事が終わったところだったので、請け負った。
開発費用込みなので、それなりの金額になるのだが、二人とも気にせず支払ってくれた。金払いが良いのも気に入ったが、何より新製品に携われることが嬉しかった。
試行錯誤しながらミヤが作り上げた道具を、ナギは澄んだ空色の瞳をきらきらと輝かせながら、嬉しそうに受け取る。
そうして、工房の片隅で商品チェックをするのだ。
「うん、良い出来ですよ、ミヤさん!」
「当然だよ。アタシの腕にかかりゃ、どんな調理器具でも思いのままさ」
「本当ですか! じゃあ、次の依頼品の相談もぜひ!」
商品チェックと称して、調理器具を駆使して作ってくれた料理に舌鼓を打ち、差し入れのワインで良い気分に浸っていたミヤはついつい口が滑り、気が付いたらまた面倒な依頼を受けてしまっている。
「やられた……」
「ミヤさん、ナギさんの手玉に乗せられまくってません?」
頭を抱えるミヤに呆れたような視線を向けてくるのは、職人仲間のムーラだ。
ほっそりとした体躯の持ち主の彼はハーフエルフ。主に魔道具作りを得意としている。
ハーフドワーフのミヤとハーフエルフのムーラ。どちらも半端者として工房村では肩身が狭い思いをしていたが、今はそんな瑣末なことは気にしていない。
なにせ、次から次へと依頼してくるナギたちのおかげで、とんでもなく忙しいのだ。
「しょうがないだろ、あんな旨い飯を出されたらさぁ。アンタだって貪り食っていたじゃないか」
「貪り食ってはいませんよ。ちょっと無心に食べてしまっただけです」
「同じだろー」
「違います。それにしても、先ほどの食事、本当に美味しかったですね」
ピーラーを使って根菜の皮を剥き、スライサーで薄く切った芋を油で調理した「ぽてとちっぷす」は初めての食感だった。
薄い紙のような芋にはぱらりと塩が振りかけられただけだったのに、あんなに美味しい食べ物になるなんて、思いもしなかった。
パリパリと口の中で割れるのも面白い。癖になる味だった。
冷えたエールにとても良く合う。
「芋を使ったサラダも旨かったな。泡立て器で作った黄色いソース、あれは絶品だった」
「ポテトサラダ、でしたっけ。たしかにあれも美味しかったですね……」
ミヤとムーラはうっとりとため息を吐いた。自分たちが作った道具で、あんなに美味しい料理を作ってくれるなんて、職人冥利に尽きるというもの。
前回の依頼は「ミキサー」と云う道具作りだった。用途と構造の説明や図解を貰ったが、これは魔道具だ。
刃物部分はミヤが作れるが、さすがに動力部分は手に負えない。そこで魔道具職人のムーラを仲間に引き込んだのだ。
人嫌いで扱いの難しいムーラだったが、ナギが差し入れにくれたマフィンを幾つか分けてやると、あっさりと懐柔された。
(気難しいハーフエルフがまさか甘党だったとはね)
そうして、二人で協力してナギからの依頼をこなすようになった。
ミキサーは何度か調整し、ようやくナギの納得のいく物が作れた。
さっそく、そのミキサーを使って、作ってくれたのはパンプキンスープ。滑らかな舌触りのする、王さまのスープだと思った。
スープはもちろん、デザートにも大活躍だよ、とナギは無邪気に笑っていたが、職人二人はこれは売れると確信した。
どうにかナギたちを口説き落とし、発明した「ミキサー」や他の調理器具を売り出すことにした。
売上げの何割かをナギたちに還元しようとしたが、それは断られてしまった。
食い下がると、その分を開発費用に充てることになったが、おかげで仕事が楽しくて仕方ない。
「ピーラーはダンジョン都市でかなり広まったよ。最初は飲食店や宿屋、お屋敷の厨房にしか下ろしていなかったけど、口コミでどんどん売れちゃって」
「スライサーと泡立て器も売れていますよね。菓子屋やパン屋も使っていましたよ」
「そうそう。おかげさまで大繁盛!」
赤毛のポニーテールを揺らしながら、ミヤはにんまりと笑う。
武器ひとつ作れない半端者のドワーフと、ずっとバカにされていたけれど、今じゃドワーフ工房村でいちばんの売れっ子だ。
それもこれも、あの小さくて可愛らしい見習い冒険者くんのおかげだが。
「ミキサーも高額商品なのに、大量に発注されているんだって?」
「ええ。ナギさん発案の、レシピを付けて販売する方法が思いの外受けたようで」
こちらも大売れらしい魔道具職人ムーラは端正な顔に笑みを浮かべた。
高額な魔道調理器具は高級宿やレストランに売り付けている。この世にひとつの、ナギ特製レシピを付けて。
そのレシピで作ったスープはお客に大人気らしい。それぞれが違う種類のスープなため、メニューがダブることはなく、共存出来ているようだ。
「この世界にたったひとつのレシピ、という売り文句。皆さんコレに大層弱いらしく、面白いくらいに売れていますよ」
「レシピが広がるかと思ったけど、そこはちゃんと守り切っているんだな」
「大事な売り物ですからね」
先ほどナギに手渡された、依頼品について記された紙をミヤはあらためて眺めた。
興味を惹かれたらしいムーラが横から覗き込んでくるが、気にしない。
「なんだ。今回は魔道具じゃないんですね」
「ああ。何でも、海ダンジョンで狩った魔獣を美味しく食べるために必要な、特製フォークだってさ」
「特製フォーク? 普通のフォークではダメなんですか?」
「ほら、この図解。全然形が違うだろ? 細長くて先端が二つに割れている」
「反対側の造形も変わっていますね。細長いスプーンのような……」
「ま、このくらいなら、すぐに打てるさ」
変わった形だが、泡立て器やスライサーに比べれば、簡単すぎる依頼だ。
簡単すぎて、あまり売れそうにはないが、他ならぬナギからのお願いなのだ。
「頑張って作ろうかね。この、カニフォークってやつを」
後日、カニフォークを受け取りに来たナギとエドがご馳走してくれた、大量のカニ料理はミヤとムーラを多いに魅了し、これは売れる! と南の街で売り出し、こちらもまた大儲けしたらしい。
「やっぱりカニはこのフォークじゃないとね!」
「カニの脚の身がスルスル取れるぞ、ナギ」
無邪気に喜びながら、茹でたカニ身を堪能するナギとエドは次は何を頼もうかな、と無心にカニを貪る職人二人をちらりと横目で眺めたのだった。
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