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〈掌編・番外編〉
9. 海キャンプに行こう 4
「あ、ウニ! これはサザエに似た貝、…うん食用だね。たくさんいるから、バカンス中は食材に困らなそう」
砂浜をのんびりと歩いて辿り着いたのは、岩場だ。手前の方の岩は波で削れたのか、ナギでも登れそうな大きさだった。
奥の方は鋭く尖った大きな岩が重なっているため、近寄る気はない。
よじ登った岩の隙間を覗くと、ウニや貝を大量に見つけることが出来た。
ダンジョンの恩恵なのか、この島は豊かだ。
「ウニはお刺身にしようかな。海鮮丼も作りたいけど、今日はバーベキューだから諦めよう」
収納から取り出した革の手袋を装着して、次々とウニを拾っていく。
バケツはすぐにいっぱいになった。
「じゃあ、次は貝採り! 採取用のナイフ、雑貨屋で購入しておいて良かった」
薬草などの採取用のナイフやハサミは持っていたけれど、貝を採るための道具は持っていなかったのだ。
海キャンプの準備のために買い物をしている際に、雑貨屋の店員さんに教えてもらった専用のナイフがさっそく役に立つ。
ぽろぽろ剥がれて採れるのが面白くて、つい大量に採取してしまった。
サザエっぽい貝の他にも食用の二枚貝、岩牡蠣が手に入った。
「岩牡蠣かぁ……。前世では滅多に口に出来なかったから、夕食が楽しみ。これは絶対に生で食べよう!」
水洗いして、塩を少し振って氷水でしめておくのだったか。
殻を剥くのは少し面倒だが、そこは【無限収納EX】の解体スキルさんにお任せしよう。
レモンを搾って、ちゅるっと食べるのが今からとても楽しみだった。
ウキウキしながら、岩を降りようとして、ふと足を止めた。
見慣れない貝がびっしりと岩に貼り付いている。鑑定すると、カメノテと表示された。
「これがカメノテ……。初めて見たけど、本当に亀の手みたい。これ、たしか食用だったよね?」
貝のように見えるが、これでも甲殻類の一種らしい。海外では高級食材として扱う国もあると聞いたことがあった。
塩茹でや味噌汁にすると旨いらしい。
「ちょっと興味があるから、これも採取しておこうかな。エドがびっくりしそう」
悪い笑みを浮かべながら、ナギはせっせとカメノテを採取する。これも意外と剥がしやすい。かなり大きい個体もおり、十センチサイズの物を狙って採っていく。
「うん、これだけあれば充分でしょう。一旦テントまで戻ろうっと」
収穫物を収納し、ナギは上機嫌で拠点に帰った。砂や海水で汚れた全身を浄化魔法で綺麗にして、冷やしておいた麦茶を飲む。
ほっと一息をついてから、アキラの様子を見に行くことにした。
「わぁ…。頑張ってるね……?」
『あっ、センパイ! 良い所に! 今、網を引き上げるから、獲物を収納してください』
黒狼は器用に投網を咥えて引っ張っている。かなり大きめの網を購入したのだが、余裕で扱える重さだったようだ。
たしか購入した雑貨屋では大の男が十人がかりで引き上げると聞いた気がしたが。
網を投げ入れるところも見たかったな、と少し残念に思う。
「網を引っ張るのも手伝おうか?」
『いえ、センパイは危ないから少し離れていてください!』
きっぱりと断られてしまった。
まあ、この非力な身体では仕方ない。
巨大な黒狼の尻尾の一撃でぶっ飛ばされるのは確実なほどに華奢で頼りないのだから。
「でも、重そうだね。これは大漁かな?」
『ふふふ。実はちょっと沖の方まで泳いで仕掛けてきた網なので、大物が掛かっているかもしれませんよー』
「そっかぁー。それ私が想像していた投網とちょっと違うけど、楽しみね?」
是非ともバーベキュー向きの魚が獲れますように。
あと、海老。ダンジョンでゲットした、大きなロブスターもどきはとてもとても美味しかったので。
『んー、えいっ!』
気合いを入れてアキラが引き上げた投網にはたくさんの魚が引っ掛かっていた。
大漁だ。ナギもわあっと歓声を上げて駆け寄った。ピチピチと跳ねる元気な魚を、ナギは慌ててバケツに放り込んでいく。
「本当にたくさんだね。小さめの魚は逃してあげようか」
『そうですねー。食い出もなさそうだし、俺は大っきい魚が食いたいです!』
わっふ、と鼻息荒く1メートルはありそうな魚を咥えてきた黒狼が言う。
鑑定すると、クロダイと出た。こんなに大きな鯛もいるのかと驚いた。
「これは立派だから、刺身にしたいかも」
『クロダイの刺身! やった!』
「大きいから半分、の更に半分で充分かな。他の身は炊き込みご飯やアクアパッツァ、ムニエルや煮付けにしてもいいわね」
『どれも美味しそうです!』
「うん。獲れたれピチピチだから、きっとすごく美味しいわよ」
腕が鳴るというものだ。
さっそく受け取って、スキルで解体していく。今日のところはお刺身だけ出そう。
他にもバーベキューに使えそうな魚を中心に収納し、目当ての海老も手に入れた。
ロブスターもどきはかなりの大きさなので半分に割って焼いていこうと思う。
海老と貝、あとは野菜と魚介類に飽きた時用のお肉も少しだけ用意して。
毒持ちの魚や食用でない魚、小さな魚は逃してやった。これだけ獲れれば、釣りをする必要はないだろう。
アキラは残念そうに釣り竿を眺めていたが、ナギがじろりと睨むと耳を寝かせて諦めてくれた。
しおしおと項垂れる姿に、ため息を吐く。
「……もう、仕方ないわね。今日は諦めるとして、明日釣りをすれば良いわ。美味しい魚を釣ってくれる?」
『! はい、もちろん!』
あの前脚でどうやって釣るのか気になっていたので、これは決して甘やかしではない。
バーベキューの下拵えは、人の姿に戻ったエドが手伝ってくれた。
野菜や魚を食べやすいサイズに切り分け、肉を手早く串に挿していく姿は手慣れたもの。
「エド、ずっとアキラに身体を貸してあげているけど、つまらなくない? たまには交代して思い切り遊んでいいんだからね?」
「ああ、平気だ。ゆっくり休めて、ちょうど良い。アキラの目で海を眺められるし、それなりに楽しんでいるから平気だ」
「……そう? 今回はエドのバカンスでもあるんだから、ちゃんと遊んでね?」
「ああ、分かっている。ありがとう。ナギも楽しんでいるのか」
「ん、私ものんびり楽しんでいるよ。アキラみたいにはしゃいではいないけど」
二人でアキラのはしゃぎっぷりを思い出して苦笑する。
十歳児に呆れられていますよ、アキラさん?
夕食は豪華だった。
ウニと岩牡蠣、クロダイの刺身は黒狼特製の氷皿を飾り、バーベキューも多彩なメニューで賑やかだ。
「刺身が甘くて美味しい……。お醤油が要らないくらいに濃厚」
『ふわぁ……! センパイ、オレ岩牡蠣初めて食ったんですけど、なんですかこれぇ……泣きそう……』
「分かる。絶品よね。普通の生牡蠣も美味しいけど、岩牡蠣はまた格別。これは飲める」
余計な調味料など不要だと、岩牡蠣さまはどっしりと構えている。
レモン汁を垂らして口に含むと、潮の香りが広がる。噛む暇もなく、口の中から消えていく。恍惚とした表情で一人と一匹は岩牡蠣を堪能した。
「はっ…! いけない、美味しすぎて食べ尽くしちゃう。エドの分もきちんと確保しておかなきゃ」
『ですね、これを食べられないのは悔しくて泣いちゃいますよ。センパイ、明日も岩牡蠣を採りに行きましょう!』
「いいわね。今日採った場所は私が根こそぎ持って帰っちゃったから、反対側の岩場に行ってみましょう」
美味しい物は、何よりも優先すべき。
バカンスは楽しいが、岩牡蠣採りはもっと楽しい。
クロダイの刺身もウニも美味しかった。
サザエや二枚貝は網焼きをし、醤油を垂らして平らげる。
マヨネーズ醤油を塗って網焼きした海老もクリーミーで絶品だった。海老味噌ももちろんマナーを無視して、行儀悪く頂いた。
『センパイ、またバーベキューしましょうね!』
黒狼の笑顔を前に、ナギは苦笑まじりに頷いた。
腹いっぱい詰め込んだ状態なので、しばらくは遠慮したいが、こんな満面の笑みを目にしたら、断るなんて無理に決まっている。
こうして、バカンス初日の海鮮バーベキューは大絶賛のまま幕を下ろした。
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