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〈冒険者編〉
202. 戦利品
しおりを挟む「素晴らしいダンジョンだったわね、エド……!」
改変され、現在成長中のハイペリオンダンジョン。
物欲に目が眩んだナギはエドを引き連れて下層を目指していたのだが、三十二階層で足を止めることになった。
残念ながら、ダンジョン自体がまだ完成しきっていなかったのだ。
「てっきり最下層だと思っていたけど、まだ工事中かぁ……」
「残念だが、おかげでこのダンジョンが中級以上だと分かっただろう。今後の攻略の楽しみが出来たな」
「そうね。今でも充分素晴らしいダンジョンなんだもの。楽しみで仕方ないわ!」
ほうっとナギはため息を吐く。
三十階層より下のフィールドはさすがに強い魔獣がひしめいていたが、他の冒険者たちがいない、他人の目がないこの場所は二人の独壇場だ。
エドは遠慮なく高価な魔道武器を使い倒し、ナギは実験だとばかりに色々な属性の魔法を試し撃った。
ちなみに、一番はっちゃけたのはアキラだ。いつもはポメラニアンなみにキュートな仔狼姿だが、本来の巨大な黒狼の姿に戻り、全力で狩りを楽しんでいた。
「レベルも10以上は上がったし、ドロップアイテムや貴重な食材も大量に手に入ったし。幸せすぎる……」
【無限収納EX】内に眠る食材に思いを馳せて、ナギはうっとりと瞳を細めた。
見た目は妖精のように愛らしいナギは、そうやっていると、可憐で儚げな美少女にしか見えない。
が、頬をピンクに染めて切ないため息を吐きながら想うのは初恋の相手でも何でもなく、珍しい食材や調味料である。
少しだけ呆れているエドの『中』で、アキラがケラケラと笑っていた。
『見た目はとびきりの良い男なのに、中身が微妙なヤツのことを残念イケメンって言うけど、センパイは残念美少女だねー』
なるほど、と頷きそうになったが、エドは慌てて首を振る。
(いや、ナギは残念じゃないぞ? 優しいし、料理は上手いし、頭も良い)
『まぁ、たしかにセンパイは優しいし、料理は上手で頭の回転も早い。でも、ちょっとだけ中身が残念。……まぁ、そこが魅力的なんだけど』
たしかに、と頷くエドの目前でナギはウキウキとコテージを取り出して設置している。
三十二階層のフロアボスを倒したので、ここはしばらくは安全地帯になるのだ。
「今夜はここに泊まりましょ? せっかく色々と手に入ったし、作ってみたい料理があるの」
「分かった。手伝おう」
「すっごく助かる! ありがと、エド」
綺麗な空色の瞳を細めて微笑む少女をエドは眩しそうに見つめる。
彼女が張り切っているのは明白だ。
何せ、三十二階層のフロアボスは二人が待ちに待った魔獣──ブラッドブルだったのだ。
「んっふふふー♪ 高級黒毛和牛肉、じゃなかった。ブラッドブル肉で何を作ろうかな~?」
目の色を変えた二人が本気で攻撃を加えたため、そこそこ強いはずのブラッドブルは瞬殺だった。
そして、大量の肉をドロップした。
ついでに宝箱も落としたのだが、二人とも真っ先に肉に駆け寄ってしまったのは仕方ない。
綺麗なサシの入った、美しい肉をナギは両手に抱えて天に掲げて感謝していた。
祈りは相棒に任せて、エドは粛々と肉の塊を拾い、アイテムポーチに収納する。
フロアボスだったブラッドブルからドロップした肉は素晴らしかった。食用の部位は殆ど落としているように思える。
肩、バラ、肩ロース、リブロース、サーロイン。ヒレに腿にらんぷ部位もしっかりある。更に大きな舌もドロップした。
巨大な牛の魔獣だったため、枝肉はどれも大きい。両腕で抱えきれないほどの肉もあったが、獣人の腕力で強引に抱え上げてアイテムポーチに放り込む。
ちなみに内臓類もしっかりドロップしていた。
「心臓、肝臓、横隔膜まであるのね。ミノやセンマイもある。ヒモやシマチョウ? わぁ、立派なテール!」
興奮したナギが一通り説明してくれた。
ホルモン系は焼肉か鍋になるようだ。楽しみで仕方ない。
一応、忘れずに宝箱の中身も回収し、二人はコテージに入った。
◆◇◆
のんびりとお風呂を堪能し、部屋着に着替えてナギはキッチンに向かった。
エドのバスタイム中にハイペリオンダンジョンで手に入れた戦利品の食材をテーブルいっぱいに並べてみた。
「魔獣肉は大量すぎるから、調味料や採取した野菜や果物を中心に並べてみたけど、壮観ね……」
まずは採取したもの。
シオの実はもちろん、念願のヒシオの実。
なぜか日本の新高梨にそっくりな瑞々しい梨。
個人的にも嬉しかったのは梅の木を見つけたことか。もちろん、こっそりと木ごと持ち帰っている。根付かなかった時のために、梅の実もきちんと採取した。
アボカドとカカオを見つけた時も小躍りしそうになった。
「こっちの世界、まだアボカドを見たことがなかったから諦めていたのよね。嬉しいなぁ。サラダやサンドイッチに使いたかったの」
海老とアボカドの組み合わせなど、最高すぎる。
薄くスライスしてワサビ醤油で食べるアボカドもお酒のツマミとして、前世で良く作っていたことを思い出す。
「カカオはダンジョン都市にもあるけど、お高いんだよね……。たぶん、海ダンジョンの下層で採取できるんだろうけど」
残念ながら、ナギとエドの二人はまだそこまで到達できていない。
「たまにラヴィさんがお土産でくれるくらいだし」
ちなみに彼女のお目当ては渡したカカオで作られるチョコレート菓子なので、半分ほどは食べられてしまう。
二人とも冒険者としてそれなりに稼いでいるので、買えるのは買えるのだが。
「でも、やっぱり冒険者だし? 自分たちで手に入れたかったのよね。だから、嬉しいな」
チョコレート農園? と驚くほどたくさんの木が生えていたので、もちろん何本か持って帰るつもりで収納した。
カカオの実もエドと二人で大量に採取してあるので、しばらくはチョコレートを心ゆくまで堪能出来そうだ。
「……で、ヒシオの実に続いてビックリしたのが、これね。鑑定によると、タンサンの実」
ビー玉そっくりの透明な実だ。文字通り、炭酸の実。この実を水と混ぜれば、あっという間に炭酸水ができる、不思議な果実だ。
「うーん、もしかしてこの世界の神様、作るのが大変そうな調味料とかは不思議な実作戦で乗り切ろうとしていない……?」
醤油とか味噌とか。いや、完成品があっさり手に入ったのはとても嬉しいことなんだけど。
「まぁ、ありがたいかな? これまで炭酸は松の葉を使ったりと、地味に面倒だったから」
シュワシュワと炭酸を発するタブレットのようなビー玉、ではなく実には感謝だ。
もちろん、これもあるだけ採取した。
お酒を飲めない未成年の二人にとっては、炭酸入りの冷えた果実水は最高の飲み物になるのだろうから。
「薬草やハーブは帰宅してからミーシャさんと確認することにして。次はドロップアイテムね」
お肉だけでなく、オイルや調味料がドロップしたのには驚いたが、途中からはすっかり慣れてしまった。
スライムゼリーにコッコ鳥の黄金卵は地味に嬉しい。色んな種類の胡椒のドロップは素直に嬉しかった。
オリーブオイルやココナッツオイルは使い勝手が良いし、琥珀糖は高く売れそう。
蜂蜜とメイプルシロップはものすごく嬉しい。前世日本で食べた物よりも品質が良かったので、大事に味わうつもりだ。
「……で、ここらへんは宝箱に入っていた、お宝食材ね。うん。お宝だねぇ……」
水蜜桃や黄金林檎は確かに珍しいが、何度も食べたことがあるのでそこまで驚きはしなかった。
驚いたのは、みりんやお酢、日本酒に焼酎などが陶器の壺や、ガラス瓶入りで宝箱に詰まっていたことだ。
「あと、瓶いっぱいの、ごま油! すっっごい欲しかったけど、いいのかなコレ……? この大きな麻袋いっぱいの粉はベーキングパウダーだし。こっちの麻袋には餅米入り! やったね、これで美味しいお餅も食べられるし、おこわも炊ける!」
宝箱の中身が前世日本人ホイホイすぎた。
何よりも喜んでしまったのは、先程のフロアボス、ブラッドブルが落とした宝箱の中身か。
ひとかかえほどの大きさの木箱にガラス瓶で詰め込まれていた。どれも乾燥したり加工が施された香辛料だった。
逸る気持ちを抑えながら、ひとつずつ鑑定していく。
「クミン、カルダモン、クローブ、シナモン、サフラン、ナツメグにローリエ、ガーリック、パクチー。こっちは唐辛子にジンジャー、ガラムマサラ、ブラックペッパー。ええと、オオバゲッキツ? 何と言ってもターメリック!」
たまに知らない名前の香辛料があったが、これだけ揃えば、念願のアレが作れる。
そう、ずっと探していた香辛料がとうとう揃ったのだ。
「カレーを作るわよ、エド!」
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