異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

文字の大きさ
123 / 289
〈冒険者編〉

229. 贅沢な卵料理 2


 大皿いっぱいに盛り付けたチキンライスの上に焼いた卵をそうっと載せていく。

「あとは包丁をすーっと入れると……」
「おおっ! とろとろの中身が溢れてきた!」
「美味しそう……」
「ここに特製ソースをたっぷりかけます」
「ふぉぉ……!」

 作り置きしていたデミグラスソースをたっぷりとオムライスに添えると完成だ。
 なぜか、メンバー全員がテーブルに集まり、息を呑んで見守られてしまったが、皆満足そうで何より。
 
(まぁ、オムレツやオムライスを作っている料理人の手元はじっくり観察しちゃうもんね。私もホテル泊の楽しみのひとつだったし)

 プロの料理人の仕事はシンプルなのにとても美しい手並みで、前世の渚だった時には、ため息まじりに鑑賞したものだ。
 薄焼き玉子で包んだオムライスも好きだが、せっかくの良い卵だったので、ふわとろオムライスにしてみた。
 全員分のオムライスの仕上げを頑張っている間に、エドが手早く配膳してくれた。
 今日のランチはコッコ鳥のふわとろオムライスにカニサラダ、根菜多めのベーコン入りコンソメスープ。
 デザートは大森林リンゴのグラッセだ。

「どうぞ召し上がれ」

 テーブルに着くや否や、皆がわっとオムライスに手を伸ばす。
 大きめのスプーンを用意しておいたので、一口の量が凄まじい。
 物凄い勢いで皿の中身が消えていく様にさすがのナギも圧倒された。

「うっめぇぇ!」
「これ、本当に卵なの? こんなに柔らかな食感初めてだわ! 美味しい!」
「中の赤い飯も旨い」
「ん、全部旨い」

 脅威の食欲を見せつけてくる『黒銀くろがね』の食いっぷりもすごかったが、ナギの手料理をそれなりに食べてきたはずの師匠二人もオムライスに集中していた。
 
「んむっ、おいひっ! コッコ鳥の卵がこんなに美味だったなんてっ」
「ラヴィ、行儀が悪いですよ。……んふっ、それにしても、ナギ。こんなに素晴らしい卵料理を師匠に隠していたとは」
「えぇっ? ミーシャさんには出したことがありますよー!」

 ミーシャには実は三年前に普通のオムライスを作ってあげたことがある。
 十歳だったナギは重いフライパンを上手に扱えず、薄焼き玉子で包むタイプのオムライスにしたのだ。

「あれも美味しかったですが、このオムライスも素晴らしいです。食の芸術です、これは」
「ちょっと大袈裟ですけど、嬉しいです。あっ、おかわりはありますけど、おかわり分はオムライスではなく、チキンライスの目玉焼き載せになりますよ?」
「えええっ⁉︎」

 全員から悲痛な声が上がるが、ふわとろオムレツは作るのが面倒なので仕方ない。

「目玉焼きは半熟で作ってあげるので、我慢してください」

 ナギは笑顔で宣言して、スプーンですくったオムライスをぱくりと頬張った。
 うん、美味しい。ザルで丁寧に濾したので、卵の生地がきめ細かくて、空気を含んでほどよいふわとろ食感に仕上がっている。
 デミグラスソースと合わせることで、少し大人向けの風味。ソースをケチャップにすると、チキンライスと一緒に食べると、トマトの味でくどくなっていただろう。
 コンソメスープもさっぱりとしており、オムライスとの相性も抜群だ。
 レタスやミニトマトなどの生野菜サラダはカニマヨと一緒に口に入れる。シャキシャキのレタスが美味しい。甘酸っぱいミニトマトも良いドレッシング代わり。
 しかし、何より強いのはカニマヨの味だ。生野菜が苦手な白うさぎラヴィさんが「んん~っ!」と身悶えしながら、サラダを堪能している。
 マヨネーズ好きには堪らないだろう。
 その様子に釣られて口にしたルトガーがマヨネーズの味に驚いていた。
 実はこのマヨネーズ、コッコ鳥の卵を使って作った、新鮮で濃厚な特製マヨ。
 エドが頑張って作ってくれました。

「このソース、とんでもなく旨いな……。何で出来ているのかサッパリ分からんが」
「そうね、濃厚なのに酸味があるから、いくらでも美味しく食べられちゃうわね」

 ルトガーとキャスに褒められて、エドも嬉しそうだ。
 黒クマ夫婦もいそいそとサラダにフォークを突き刺し、口にするや否や、カッと目を見開いて固まっている。

「そのソースもコッコ鳥の卵で作ったんですよ。結構、癖になるでしょう?」
「マヨネーズ! これさえあれば、どんな野菜でも美味しく食べられる魔法のソースなのよねぇ」 
「ラヴィさんは立派なマヨラーになりましたね……」

 マヨラー師匠からは定期的にマヨネーズの購入をねだられている。
 が、衛生面が気になるので、いつも食べ切れるだけの量を詰めたガラス瓶でしか渡していない。
 収納スキルや魔道冷蔵庫を持っていれば、もう少し融通を利かせることは可能だが、あいにく彼女はどちらも持っていなかった。

「もっとたくさん買い取るって言ってるのにぃ……」
「ダメです。マヨネーズは常温だと傷みやすいんです。ダンジョンアタック中にお腹を壊しても良いんですか、ラヴィさん?」
「困るわ、とっても」
「なら、我慢です。たまにマヨネーズ料理を差し入れしますから」

 肩を落とすラヴィルを宥めると、途端に顔を輝かせて、ちゃっかりリクエストをしてくる。

「ポテトサラダが食べたいわ! あと、マヨネーズをたっぷり使ったサンドイッチと!」
「はいはい、分かりました。明日の朝食に作ります」
「やったー!」

 無邪気に喜ぶ白うさぎ獣人の美女を微笑ましく眺めていると、つん、と肩を突かれた。
 振り向くと、拗ねた表情のエルフに上目遣いで訴えられる。

「ずるいです、ラヴィばかり。私も食べたい」
「ええっと、ミーシャさんはたしか、チキン南蛮がお好きでしたよね? タルタルソースたっぷりのチキン料理を作ります、夕食に」
「ん、楽しみにしています」

 にこり、と微笑まれた。
 いつもこのパターンな気がするが、麗しくて良い匂いのする、おっかない美女を前にすると、きっと誰でもこうなってしまうと思う。
 エドには呆れたような視線を向けられたが、師匠たちにはお世話になっているので仕方ない。

「温かいスープも美味しかったし、まさかデザートまであるとは思わなかったわ」

 食後のお茶を堪能しながら、キャスが満足そうなため息を吐いた。

「新しく発見されたダンジョンの探索なんて面倒な任務だったけれど、ご飯は美味しいし、快適なお家で泊まれるし、かなり当たりの依頼だったわね、ルトガー」
「普通は無理だがな。どれもナギのおかげだ。感謝する」
「いえ。私も食材がたくさん手に入るので、こちらこそ感謝です」

 コッコ鳥の肉や卵をメインに使った昼食だったため、舌鼓を打った全員がやる気に溢れていた。

「さて、そろそろ行くか。コッコ鳥を狩りに」
「そうね、腕が鳴るわ」
「昼食の間にリポップしているだろうから、狩り尽くそう」
「いいわねぇ。私も手伝うわ。美味しいマヨネーズのために!」
「師匠……」
「弟子も行くわよ、獲物の場所を教えなさい!」

 ガッツリと首を掴まれたエドが、ラヴィルにドナドナされていく様をナギはそっと見送った。
 
「四階層に挑戦しなくて良かったのかな……」
「時間はたっぷりあるのだし、問題はないでしょう」

 コテージにはミーシャが残ってくれた。
 どうやら書類仕事があるようなので、リビングに書き物机を出しておく。
 
「ありがとう。ギルドに提出する報告書だけど、今日までの報告だけでもたくさん書くことになりそう」
「そうなんですか? そんなに変わったこと、ありましたっけ……?」
「ゼリーをドロップする特殊なスライムや通常の倍の大きさのコッコ鳥、その卵。そしてそれらがとんでもなく美味なことを報告しなくては」
「……えっと、よろしくお願いします……?」

 後で美味しい紅茶を差し入れしておこう。
 そっとリビングから離れると、ナギはキッチンで腕を捲った。
 夕方になると、きっとまたお腹を空かせた連中が大量の獲物を抱えて戻ってくる。
 その腹を満たしてやるのが、ナギの一番の仕事。

「チキン南蛮、大量に作らないと」

 タルタルソースもきっと秒でなくなる。
 作って貰っていて本当に良かった、魔道泡立て器!
 
「ついでに唐揚げも揚げておこう。皆気に入りそうだし」

 あとは明日の朝食用に、サンドイッチの具材も用意しなくては。ポテトサラダ作りはエドにも手伝って貰おう。

「うう……魔道泡立て器があっても大変そう。マヨネーズは内緒にしておけば良かった……」

 後悔しても、もう遅い。
 ミーシャがせっせと書き上げた報告書にはコッコ鳥のマヨネーズへの賛美に満ちており、後々さらに面倒なことになるのだが、それはまだ先のお話。

あなたにおすすめの小説

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。  異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。  そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。 「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」  そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。 「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」  飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。  これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。