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〈冒険者編〉
237. 探索を頑張りましょう 3
しおりを挟む三時間ほど一階層のスライムたちを存分に「ぷちっ」としてきた仔狼は、犬笛の音をきちんと聞き分けて戻って来てくれた。
『たくさん狩ってきましたよ、センパイ!』
「わーすごいすごい、えらいねっ!」
全身で「褒めて褒めて」と訴えてくる小さな黒狼をナギは手放しで褒めてやった。
わしゃわしゃと顔や背中を撫でまくると、嬉しそうに身をくねらせている。
「スライムゼリーに魔石もたくさん! これでしばらくはスイーツの材料にも困らないで済むわね」
仔狼が背負っていたリュックを回収し、中を覗いたナギは破顔した。
きちんと数えてはいないが、三桁は余裕でありそう。これはご褒美が必要だ。
「はい、お礼のプリンをどうぞ」
『わーい、プリン! んんっ? いつものと色と匂いが違うような……』
木製のボウルによそってあげたプリンを前に、仔狼が不思議そうに首を傾げている。
「ふふっ、分かっちゃった? 実はかぼちゃのペーストを混ぜて作ってみた、かぼちゃプリンなの。どうかな?」
目分量で急いで作ったので、ナギは味見をしていない。お礼ついでに、味見係も任せるつもりで彼に提供しているのだ。
ふんふんと匂いを嗅いでいた仔狼はかぼちゃプリンにかぶりついた。
可愛らしい尻尾が勢いよく左右に揺れる。
『美味しいですよ、これ! かぼちゃの優しい甘みが口の中に広がって、ほっとする味です。体に良さそう』
「ほんと? じゃあ、精霊さん達も気に入ってくれるかな」
『精霊よりも師匠たちの方が気に入りそうだけど』
「む。……じゃあ、もうちょっと作っておこうかな? かぼちゃプリンの他にも色んな味のプリンに挑戦してみたんだよね」
三時間の間、ひたすら大鍋でシチューやスープを作っていたわけではない。
くつくつと弱火で煮込んでいる間は暇なので、新作プリンの試作に励んでいたのだ。
「酸味を足すのも面白そうだと思って、ベリーのゼリーを載せてみたの」
前世で食べたことのある、お高いプリンを思い出しながら作ったのは二層になったフルーツプリンだ。
ブルーベリーやラズベリーのジャムやゼリーをのせたプリン。
作っている内に興が乗って、ぶどうやマスカット、オレンジをカットして冷やして固めたプリンの上にゼリー液と一緒にフルーツを飾り付けた。
「彩りがあって見た目はとっても綺麗なスイーツになったと思う」
『プリンって言うより、もうコレはケーキですね』
ミーシャ曰く、精霊は綺麗な物を好むため、きっとフルーツプリンも気に入ってくれるだろうと期待している。
(精霊さんが私が作るスイーツにハマってくれたら、きっと珍しい果物や素材を取って来てくれるはず……!)
もちろん、下心はたっぷりある。
今、ナギがいちばん欲しい果実はダンジョンの下層でしか手に入らないという、イチゴだ。
「ラヴィさんがプレゼントしてくれたイチゴ、美味しかったよねー……」
イチゴが手に入れば、ケーキ作りが捗るというもの。
やはり、イチゴのショートケーキは元日本人的には特別なご馳走なのだ。
『センパイの魔力と欲望から出来た食材ダンジョンですからね。きっと手に入りますよ、イチゴも』
ぽんぽん、と可愛らしい前脚で肩を優しく叩かれた。その眼差しは優しい。
「……ちなみにアキラくんはイチゴが手に入ったら、どうやって食べたいのかな?」
何でもない風に問い掛けてみると、黄金色の瞳をくわっと見開いた仔狼に熱弁された。
『だんっぜん、イチゴ大福っスね! イチゴ大福が至高ですよ、センパイ! こしあんも良いけど、白あんのイチゴ大福がマストですね。粒あんは邪道です』
「イチゴ大福かぁ……。いいわね、ちょうどダンジョンで餅米も手に入るし、簡単に作れそう」
『次点はフルーツサンドです。他のフルーツでも悪くはないんですけど、やっぱりイチゴのフルーツサンドは別格ですよ。生クリームはもちろん、カスタードにチョコクリームとも合うし、イチゴはフルーツ界の女王です!』
「思った以上に語られちゃった。うん、でもフルーツサンドも良い案だね。手に入ったら、たくさん作ってあげる」
『やったー! 約束ですよ、センパイ?』
好物を前にした仔狼は、チョロかわいい。
ご機嫌で駆け回る黒ポメラニアン、もとい黒仔狼をナギは微笑ましく見守った。
◆◇◆
「大量のスライムゼリーを手に入れられたから、この素晴らしいスイーツを私たちが食べることが出来たのですね」
「はい! ア、っと…エドが頑張ってくれたので!」
「やるじゃないの、オオカミくん! 師匠が褒めてあげるわっ。ほーら、なでなで」
「いい。頭に触れるな。それは撫でてはいないぞ、師匠。首が折れるからやめてくれ」
皆が揃ったところで夕食を堪能し、デザートとして新作のフルーツプリンを味わいながら、本日の成果について話したところ、師匠二人からお褒めの言葉を頂戴した。
にこにこと笑顔で受け取るナギとは違い、エドは心底嫌そうに顔を背けている。
戦闘狂うさぎの異名を誇るラヴィルの「なでなで」は油断すると首を傷める威力があるらしい。どれだけ剛力なのですか。
「お二人は休日をどう過ごしたんですか?」
「私とミーシャは蜂蜜と琥珀糖をひたすら集めたかな。これでしばらくは甘味に困らない」
「後で蜂蜜をナギに渡すので、美味しいお菓子を所望します」
上機嫌な師匠たち。甘味が大好物な彼女たちが満足するほどの量ということは、相当な数の魔蟲を狩ったのだろう。
「ついでに宝石や黄金の装飾品もドロップしたので、小遣い稼ぎもできました」
ふ、と微笑むのは暴虐のエルフなる美しき麗人。
レアドロップを引いたなら、フロアボスや特殊個体と当たったのか。
(まぁ、二人なら低階層も余裕か……)
『黒銀』のメンバーたちもそれぞれ休日を満喫したようだ。
リーダーのルトガーが名残惜しそうに空になったグラスをテーブルに置きながら、教えてくれた。
「俺たちも魔獣や魔蟲を倒したぞ。デクスターとゾフィが蜂蜜と鹿肉を欲しがってな」
「たくさん手に入った」
ほくほくとした表情で頷き合う黒クマ夫婦は通常運転だ。
パーティ内の経理を担当しているキャスも嬉しそうにグラスを傾けている。
「良い稼ぎになったわよ。アラクネシルクと砂金も手に入ったし」
「換金するのが楽しみだな」
休日にも関わらず、しっかり働いていたようだが、皆元気すぎませんか。
ナギからしたら働きすぎに見えるけれど、これでも無理はせずに、のんびりした休暇らしい。
「充実した休日だったから、また明日から頑張れそう」
「ん、ナギのフルーツプリンは絶品だった」
キャスのつぶやきにゾフィがこくりと頷いた。フルーツプリン、気に入って貰えたようで何よりだ。
ふと、ゾフィの隣に座るデクスターが空になった皿を指差した。
「絶品と言えば、今夜のシチューも美味かった。初めて食べたが、この茶色いシチューはパン以外にも合うのだな」
ちなみに今夜のメインはハヤシライスだ。
赤ワインとケチャップ、フルーツソースを使ってたっぷりと煮込んだスープはお米との相性も抜群。
牛肉の代わりにワイルドディア肉を使ったのだが、我ながら美味しく仕上がったと思う。
(隠し味のミソが決め手かな?)
カレーの前哨戦としてハヤシライスを提供してみたのだが、皆にも好評だったので、また作りたい。
「お米とスープ系の組み合わせに拒否反応がないなら、シチューご飯もいけそうね。エドのパンを早々に食べ尽くされる前に、ご飯物のメニューを出していこうかな」
「肉たっぷりの丼ものがいいと思う」
エドの提案は毎度的確だ。
冒険者は体力勝負。魔力だって使えば腹が減る。腹持ちの良い米と肉の組み合わせは、何よりの冒険者飯。
作るのが簡単なところも素晴らしい。
「そうね。朝は軽くサンドイッチ、昼はシチューライス。夕食はガッツリ丼ものにしよう。皆さん、美味しいご飯を食べたければ、お肉をたくさん狩ってきて下さいね?」
冗談混じりのナギの軽口に、皆がこぞって頷いてきた。
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