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〈冒険者編〉
291. ワイバーン狩り
前回、冒険者ギルドから調査依頼の指定任務を受けた際にはハイペリオンダンジョンは五十五階層まで拡がっていた。
そこが最下層ではなく、まだ拡張途中だったので、あれから一ヶ月近く経った今。どこまで階層が続いているのか、純粋に楽しみでもある。
上層階には欲しい食材やスパイス類もあったが、まずは先を目指すことにした。
ダンジョン周辺を開拓する際の護衛として呼ばれた冒険者たちは交代でダンジョンに潜っている。
ナギたちは発見者特典で、かなり先行しているため、ほんの少し後ろめたい気持ちもあり、なるべくなら顔を合わせたくないと思ったのだ。
「それに下層にどんな食材がドロップするのかも気になるし……」
「ん、気になるな。欲しい食材は【自動地図化】スキルを使って、人と会わないよう気を付けながら採取すれば良い」
「そうだね。それが良さそう。スパイス類はもちろんだけど、シオの実とヒシオの実も確保しておきたいから」
醤油と味噌をダンジョン都市に広めたくて、エイダン商会に売り込んだのだが、思った以上に好感触で、たくさん買い取ってもらえたのだ。
屋台や食堂、系列のホテルなどで使ってくれたおかげでどちらも今や人気の調味料らしい。
【無限収納EX】内の在庫が心許ないのもあるが、今後ダンジョンで皆が採取するようになると、自分たちの分が手に入りにくくなるかもしれない。
採取された植物はダンジョン内の魔素によりリポップするが、再生には多少の時間が必要となる。
特に希少な薬草や魔素をたっぷり孕んだ果実などはリポップに時間が掛かるのだ。
「幸い、シオの実とヒシオの実は三時間ほどでリポップするけど……」
「商会が率先して買い取ってくれるなら、採取に人が殺到するかもしれないな」
「それは困る! 一般公開前になるべくたくさん採取しておこうね、エド」
「ん、分かった」
「最悪は遠回りになっちゃうけど、大森林の奥に採取に行こう」
魔素が濃い大森林内。
辺境伯邸を出奔して、エドと二人きりでこの森を通り抜けている際にシオの実の群生地は見つけてある。
大森林をなるべく早く踏破するために、あの時は急いでいたけれど、注意して探せばヒシオの実の群生地も発見できると思う。
「冒険者見習い期間に頑張ったから、採取スキルも取得できたからね!」
地味に思えるが、これが意外と便利なスキルなのだ。
採取スピードも倍以上に上がるが、何より欲しい薬草が生えていそうな場所が何となく分かるようになったのが嬉しい。
「採取スキルも駆使して、珍しい素材もいっぱいゲットしようね!」
「ナギらしいな」
端正な口元をほんの少し綻ばせてエドが笑う。付き合いの良い彼は仕方ないなと苦笑しながらも、ナギの我儘に寄り添ってくれるのだ。
いつものように、指を絡めて手を握って、ハイペリオンダンジョンの転移扉に触れる。
「五十五階層へ」
◆◇◆
五十五階層は高山フィールドだ。
現れる魔獣は、翼竜と呼ばれるワイバーン。見た目はプテラノドンに良く似ている。
翼を広げると、八メートルはありそうなほどに巨大だが、胴体は意外と小さい。
空を飛ぶ生き物なだけに、身は軽いのだろう。もっとも、ミーシャ曰く風魔法で飛行補助をしている魔獣のようで、あの巨体でも軽々と空を舞っている。
「空気が薄いし、寒い……!」
転移する前にきちんと準備はしていたのだが、それでもナギは寒さに震えてしまった。
しっかりと衣服を着込み、防水機能付きのマントに身を包んでいたのだが、さすが高山フィールド。
足元からじわじわと冷えてくる。
「なるべく早めに通り抜けよう」
宥めるように背を軽く叩かれて、ナギも気を引き締めた。
きっ、と上空を睨み付ける。
「そうね。さっさと倒してしまいましょう」
空を飛ぶプテラノドンもどき、もといワイバーンを落とすには、ナギの魔法が重宝されている。
エドの氷魔法も攻撃力は高いが、遠距離攻撃にはあまり向かないので、こういう場合にはナギの風魔法が効果的だった。
「ワイバーンも風魔法に耐性があるようだけど……それ以上の魔力を込めれば、落とすのは簡単」
練り上げた魔力を込めて、ウインドカッターを飛ばす。
首を落とせば簡単だが、翼の方が的としては当てやすい。なので、狙うのはワイバーンの翼一択だ。素材はなるべく傷めたくない。
薄い皮膜を大きく切り裂けば、耳障りな甲高い悲鳴を上げながら、落ちてくる。
そこを待ち構えたエドがトドメを刺す。
愛用の剣でその喉元を掻っ切る様は見事で、素早すぎてナギの目ではきちんと追うことはできないほど。
絶命し、ドロップアイテムに変化する前に素早く触れて【無限収納EX】に収納する。
「やった! 素材まるっとゲット!」
「うまくいったな」
「んっふふふー。今夜はワイバーンの唐揚げだね!」
「楽しみだ。皮膜の部分が特に旨い」
「分かる。美味しいよねぇ、あの部位の唐揚げ」
エドが楽しみにしているのは、ワイバーンの翼の肉だ。
見た目は蝙蝠のそれとそっくりだが、ここが意外と美味しいのだ。
厚さは五ミリほど。ニンニク、生姜で風味を付けた醤油で下味を付けてカリッと揚げると、絶妙なのだ。
「鶏肉の唐揚げの、美味しい皮の部分とそっくりなんだよね!」
仔狼も大好物な、ワイバーンの皮膜の唐揚げ。「延々と鶏皮の唐揚げだけ食べたい欲が満たされる……!」と大喜びで貪り食べていた。
気持ちは分かる。美味しいよね、鶏皮の唐揚げ。
カロリーについては考えないこととする。
「食材ダンジョンだと目視での収納ができないから不便なのよね」
ちまちまと翼を攻撃して落としてトドメを刺す理由がコレである。
ドロップアイテムに変わってしまうと、この翼の皮膜部分が手に入らないのだ。
まるごと収納できれば、翼はもちろん胸肉モモ肉部分も手に入れることができる。
他の鳥型魔獣の肉の方が柔らかくてジューシーだが、ワイバーンは上質の赤身肉で、良い出汁が取れるのだ。
「翼は唐揚げにして、お肉は煮込み料理に使おうね!」
白湯スープに使うと、また格別なのだ。
「よし、狩るぞ」
大空を舞うワイバーンは二十羽ほど。
ちなみにフロアボスは大型種で、ドロップアイテムは魔石と塊肉、赤ワインの大樽だった。
未成年の二人は残念ながら味わうことはできなかったけれど、味見したミーシャ曰く上質らしい。
全員で山分けしたので、そのうち赤ワイン煮込みに使ってみようと思う。
もう一度同じアイテムがドロップすれば、そっちは売ってみるつもりだ。
さくさくとワイバーンの群れを倒すと、フロアボスが待ち構えている場所を目指すことにした。
前回は山登りを頑張ったが、今はエドとの二人きり。周囲には誰もいない。
遠慮なく、ズルができる。
◆◇◆
「ひゃあっ! 待って待って早い……!」
『ひゃっほー! 久しぶりのシャバだーっ』
漆黒の狼にしがみつきながら、ナギは悲鳴を上げた。
馬具を改造した鞍のおかげでどうにか騎乗することはできたが、巨大な狼は馬ではない。揺れが酷いし、動きがトリッキーすぎて翻弄される。
が、さすが狼。あっという間に山を越えて、ボスエリアに到着した。
『とうちゃーく! ね、センパイ! アイツ、俺が倒していい?』
ぶるんぶるんと上機嫌に尻尾を振る黒狼から、どうにか地面に降り立ったナギは口元を押さえながら、小さく頷いた。
「すきにして」
『はーい! ……アイスランス!』
高らかに吠えると同時に、フロアボスの大型ワイバーンの額を氷の槍が貫いた。
瞬殺だ。巨体が地面に倒れ、淡く光を放つ。ドロップアイテムは──魔石と肉、そして大樽がひとつ。
『この匂いは赤ワイン! 前回と同じドロップアイテムみたいですねっ。あ、でも塊肉に皮膜も付いてる! 唐揚げにできそうですよ、センパイ! ……センパイ?』
キャッキャと喜ぶ巨大な黒狼はとても愛らしかったが、ナギにそれを愛でる余裕はなかった。
「酔った……」
しゃがみこんだまま、ぼそりと呟くと黒狼は大慌てで岩山の陰に駆けて行った。
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