異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

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〈冒険者編〉

306. 七十階層 1


 ラーメンを作って食べてから、一週間。
 二人はハイペリオンダンジョンの攻略に勤しんだ。
 食材ダンジョンの二つ名の通り、ここは美味しい食材がたんまりと手に入る。
 階層によってはゴーレムやスケルトン、レイスなどが出没し、美味しいお肉が狩れないと意気消沈した二人だったが、そういうフィールドは逆に稼げる場所でもあった。
 ゴーレムは希少な金属やゴーレム核を落としてくれるし、スケルトンは金貨や銀貨、武器などをドロップした。
 レイスには物理攻撃が効かないが、そこはナギの出番である。
 あいにく聖魔法は使えないが、光魔法は得意なのだ。浄化魔法クリーンは頑固な汚れだけでなく、悪霊だってさくさく浄化ができる。
 レイスを倒すと、闇属性の魔石がドロップした。闇属性と聞くと物騒なイメージがあるが、魔石は人気があるのだ。
 穏やかな眠りを誘う効果があるため、安眠グッズに使われるらしい。

「安眠できる枕はちょっと欲しいかもしれない……」

 漆黒の魔石をてのひらで転がしながら、ナギは思案する。
 周囲を警戒してくれていたエドがそんな相棒の様子に気付いたようだ。

「売らずに持っておくか?」
「んー。錬金術の素質が皆無だから、持っていても仕方ないのよね」
「枕元に置いておくだけでも、多少の効果はあるようだが……。そもそもナギは不眠症だったか?」
「いえ、まったく」

 きっぱりと首を振ると、呆れた眼差しを向けられてしまう。
 
「……だろうな。アキラがナギの寝付きは恐ろしく良いと言っていた」
「う……ふかふかのポメラニアンの抱き心地が抜群だから?」
「オオカミな」

 さりげなく訂正するエド。
 仔狼アキラは優秀な抱き枕の任務をしっかりこなしているようだ。

「なら、やっぱり売り払おうかな。わりと良い値段で買い取ってくれるのよね?」
「光属性の魔石が一番高値だとは聞いたが、闇属性も人気だからな」
「そうね。このフィールドはアンデッド系ばかりで全然楽しくはないけれど、楽に稼げるのは嬉しいかも」

 ナギは光魔法で、エドは物理攻撃が効くスケルトンなどを蹴り倒して、ひたすらアンデッドを滅していった。
 魔石と金貨銀貨はありがたい。武器類は汎用品だが、数があるのでそれなりの価格で冒険者ギルドが引き取ってくれるはず。
 フロアボスは魔道具やアクセサリーをドロップすることが多いので、ここでも稼げる。
 ちなみに宝箱も幾つか手に入れてあった。
 黄金の装飾品に銀貨がぎっしり詰め込まれた宝箱を見つけた際には歓声を上げてしまったほど。

「手付かずのダンジョンに真っ先に挑めるのは幸運よね!」

 【自動地図化オートマッピング】スキルのおかげで、宝箱や隠し部屋もすべてお見通しなのだ。
 
「さて、次の階層には美味しいお肉を落とす魔獣がいるといいんだけど」

 ノーダメージでアンデッド階層を蹂躙した二人は意気揚々と先へ進んだ。


◆◇◆


 そうして幾つもの階層を踏破して、到着したのが七十階層。
 手前の階層ではミノタウロスと交戦し、大量の肉を手に入れたが、さすがに疲れたので半日ほどゆっくりと休んでの挑戦だ。
 前日の疲れはすっかり取れている。
 昨夜は夕食にミノタウロス肉を食べたのだ。贅沢にも分厚く切り落とし、ステーキにして味わった。
 ブラックブル肉を好物とする二人が宗旨替えをしたくなるほどに、ミノタウロス肉は絶品であったと思う。
 筋肉質な赤身肉かと思いきや、ドロップした塊肉に包丁を入れると、美しいサシ入りの霜降りだったのだ。
 ガーリックオイルで焼き上げたステーキは素晴らしかった。
 いつもなら五度はおかわりを繰り返すエドが、二枚で満足したほどに、ミノタウロス肉は上質だった。
 量より質。腹も心も満ち足りた二人は、たっぷりの栄養と睡眠を取り、万全の体制で七十階層に挑む。

「行くぞ、ナギ」
「ん、行きましょう、エド」

 いつものように手を繋いで、転移扉に触れた。押し開けると、独特の浮遊感。
 目を開ける前にナギの耳には波の音が届いていた。

「……まさか、海?」
「その、まさかのようだ」

 ぽつりとつぶやいた独り言に返事が返されて、ナギは慌てて目を開けた。
 そして目の前に広がる光景に呆然と立ち尽くす。

「さすがにこれは想像していなかったな」
「そうね。まさか、海のが七十階層のフィールドだったなんて」

 そう、二人が立つのは海の上。
 陸地どころか、小さな島さえ見えない沖に放り出されたのだ。
 さすがに海の上にそのまま落とすのではなく、大きな木造の船の上だったが。
 ぐらぐらと揺れる足元にもどうにか慣れた頃合いで、二人は自分たちが転移した船の中を探検することにした。
 巨大な帆船の甲板に転移させられたので、まずは周辺を確認する。

「人の気配はないわね」
「中に何かいる。……匂いから、おそらくはサハギンだな」
「あら。ここでも稼げそうね」

 にやり、とナギが笑う。
 サハギンからドロップする宝箱は二つの意味で「おいしい」のだ。
 文字通りに金銀財宝がぎっしりと入っているが、その他にも海の幸が収納されている。
 沖に出ないと捕まえることのできないサーモンやマグロ、カツオなどの大型魚が手に入るのだ。

「狩るぞ」

 張り切ったエドが率先して船内に飛び込んでいく。
 ナギはその後をのんびりと追った。
 

◆◇◆


 船内に潜んでいたサハギンは四十匹ほど。その殆どをエドが倒してくれた。
 ナギはたまに背後から飛びかかってくるサハギンを風魔法でさくさく切り刻んだ。
 このダンジョンではなぜか倒した魔獣や魔物を目視収納できないので、素材の全部獲りは諦めている。
 とはいえ、幸運値がそれなりに高いナギはドロップ運も悪くないので、三匹中一匹は宝箱を落としてくれた。
 中身は後ほど確認することにして、サハギンが消えた船内をのんびりと探検する。

「船長室がすごく豪華ね」
「金庫があるな。ボロボロの宝の地図に、戦利品らしき金銀財宝。どうやら、ここは海賊船のようだ」
「海賊船!」

 なるほど、どうりでただの帆船にしては、やたらと大砲の数が多いと思った。
 船長室にはその他に武器もたくさん見つけた。
 壁にはカトラスが二本、斜め十字になるように飾られてある。
 キャビネットに無造作に置かれているのはマスケット銃というやつだろうか。

「異世界にも銃があるんだ……」
「初めて見た。……もしかして、このダンジョンがナギの記憶を元に作り出したんじゃないか?」

 ここハイペリオンダンジョンはナギの魔力を糧に大きく育ったが、ドロップする各種調味料や手に入る食材からして、ナギの記憶を元にそれらを作り出している可能性が高い。
 
「……船長室のあれこれ、全部回収しておこうかな?」

 この世界にない銃が誰かの手に渡るのは怖い。ナギがおそるおそる口にすると、エドも真顔で頷いてくれた。

 豪奢な家具類はもちろん、壁に飾られた武器類に絵画、タペストリー、高級絨毯など根こそぎ【無限収納EX】に放り込んでいく。
 ダンジョン内だが、ちゃんと持ち帰れる宝物扱いなのかもしれない。
 
「売れそうな物は売り払おう」
「賛成。豪華だけど、ちょっと趣味が悪いものね」

 ごてごての成金趣味な内装は二人の好みからは外れている。
 が、質は良いのでそれなりの金額で売れそうだ。

「これもリリアーヌさんに相談かな」
「それが良さそうだ」

 冒険者ギルドには銃以外の武器を売ろう。
 
「もう、めぼしい物はなさそうだな」
「ん……あれ? この船、動いていない?」
「そういえば、さっきまでと床の揺れ方が違うな」

 サハギンを倒しただけでクリアとは、さすがにならないようだ。
 二人は船長室を出て、甲板に上がった。
 風もないのに、ぐんぐんと海を進んでいく帆船の様子に呆然とする。

「実は幽霊戦だったとか……?」
「どちらにしろ、俺たちにはどうしようもない」
「そうだね。じゃあ……」

 ぐるりと周囲を見渡して、ナギはにこりと微笑んだ。
 青い空、白い雲にオーシャンビュー。
 こんな素敵なロケーションを楽しまないのはもったいない。

「優雅に船上ランチを楽しむことにしましょうか」

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