異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

文字の大きさ
203 / 289
〈冒険者編〉

309. 攻略特典 1


 円筒形の革袋は、海の生き物を生きたまま収納することができるアイテムバッグだった。
 海水と一緒に捕まえた魚介類を収納しておけるので、一匹ずつ締める必要がないのは嬉しい。

(まぁ、私の【無限収納EX】は生き物も収納することはできるけどね!)

 ただ、ナギが生き物を収納できる空間は、スキルの小部屋として使っている場所なので、バケツや樽などに入れて保管する必要があった。
 その点、このアイテムバッグなら、海水ごと、生きた魚を収納できるのだ。

『海ダンジョンで大活躍しそうですね、これ』
「そうね。せっかくだから、ここで試してみよう」

 収納容量はそれなりにありそうだが、さすがにフィールド中の海水を飲み込むことはできない。
 なので、ナギは水魔法の要領で海水ごと球体状にして持ち上げてみた。

『わぁっ! さすがセンパイですね。結構、魚入ってますよ!』
「ほんと? じゃあ、このまま収納してみるね」

 円筒形のアイテムバッグの口を広げて、魚入りの海水を近付ける。

「収納、っと」

 しゅるん、と球体が消えた。
 アイテムバッグの中を覗いてみると、しっかりと収納できていた。

「うん、成功!」
『やった! じゃあ、他の魚も入れちゃいましょう。そろそろリポップしないのかなー?』
「フロアボスはしばらくは復活しないだろうけど、他の魚介モンスターは捕まえられそうじゃない?」

 そんなわけで、二人は凍りついた海から船に戻り、巨大お魚さんたちを待つことにした。
 凍っていた海はちゃんと黒狼アキラが溶かしてくれている。
 生け捕りにするため、ナギ愛用の魔法武器を使うことにした。雷撃を放つクロスボウでの攻撃だ。
 ここは弓が得意なエドに任せた。
 しばらく待っていると、カジキマグロに似た巨大な魚が現れる。額に鋭いツノがあり、これで船底に大穴を開けられたら堪らない。
 弓を弾き絞り、矢を放つエド。
 狙いは正確で見事にカジキマグロもどきに突き刺さる。
 魔力は少なめに矢を放ってもらったので、雷撃のダメージは弱い。

「ん、気絶したぞ。頼む、ナギ」
「ありがと、エド!」

 海面に浮かぶ巨体を水魔法で引き寄せて、アイテムバッグに収納する。
 鑑定してみたが、カジキマグロもどきは仮死状態なだけで、大事なお肉には何のダメージもなかった。

「うん、今くらいの雷魔法なら身も焦げずに確保できるわ」
「分かった。次を狙うぞ」
「うん、よろしく!」

 カジキマグロもどきの次はサーモンだ。
 ついさっき出没したものよりは小さな個体だが、腹部が大きい。これはもしや。

「イクラが手に入るかも?」
「む、それは逃せないな」

 サーモンにカツオ、クジラもどきの大物もエドは涼しい顔でさくさくと倒していく。
 先程は失敗してドロップさせてしまった巨大なロブスターもどきも、今度はちゃんと仮死状態で入手できた。

「うふふ。エビにカニにイカにタコ、くじら肉まで手に入っちゃったね!」
「今夜は海のご馳走だな」

 ひととおり、ごっそり海の幸を手に入れて二人はようやく満足する。
 
「次の階層への転移扉を見つける前に、この船も貰って行こうか」

 上機嫌なナギに、エドもそうだなと頷いたところで、二人の視界が暗転する。


◆◇◆


 一瞬だけ、意識を失っていたようだ。
 はっと我にかえると、大木の根元に立っていた。ぼんやりと隣に目をやると、ぶるるっと頭を振るエドの姿。

「……エド?」
「ナギ! 無事か? ……無事だな。良かった」

 問いに答える前に、さっさと【鑑定】スキルで状態を確認したようだ。
 ほっと息を吐くや否や、ぎゅっとナギを抱き締めてくる。

(エドの匂いだ。陽に干したばかりの、ぽかぽかのお布団みたいな、安心する匂い)

 その匂いとぬくもりに、ナギも身体の力が抜けていくのが分かった。

「……何があったのか、分かる?」
「いや、気が付いたらこの場所にいた。ここは何処だろう」
「この木、見たことがあるような……」

 ぼんやりと大木を見上げて、ようやく気付いた。

「これ、ダンジョンの入り口になっていた大木だよ。ハイペリオンの木」

 木の幹だけでも、二十メートルはある太さの大木だ。太い枝が四方にみっしりと茂っており、立派な樹冠が頭上に見える。

「でも、ここにはダンジョンの入り口はないな」
「……ないね。ダンジョンとは違う木なのかしら? 入り口があった窪みにも何も……いや、何か置いてある」

 太い木の根の隙間に、2メートル四方の窪みがあり、その空間にぽつりと何かが置かれていた。
 
「見てみよう。悪い物のようには思えない」
「そうね。一緒に行こう」

 身軽く木の根本に滑り込むと、に近寄ってみる。

「これは……」

 息を呑むエドの隣で、ナギも驚いていた。
 虹色に煌めく、水晶の玉。
 【鑑定】してみると、ハイペリオンダンジョンの核、とある。

「ダンジョンの核って、こんなに無造作に置かれているの? 大丈夫……?」

 前世で読んだファンタジー小説では、この核を壊すとダンジョンが消滅するという設定があったような。
 不思議そうな表情を浮かべるエドにそう説明すると、ふっと笑われてしまった。

「ナギは核を壊したいのか?」
「まさか! こんなに素敵なダンジョンを無くすなんて、とんでもない損失よ!」
「なら、大丈夫だ。おそらく、俺たちがここに招かれたのは──……」

 と、虹色の水晶玉が強い光を放った。
 二人の脳裏に『ハイペリオンダンジョン初攻略者特典、授与』と何かの声が響く。

「攻略、って」
「七十階層が最下層だったようだな」
「それで、転移扉が見当たらなかったのね」

 水晶玉が消えて、代わりに宝箱が現れた。
 てのひらサイズの宝石箱ジュエリーボックスと五十センチほどの大きさの船の模型だ。

「……これが初攻略者への特典?」
「とりあえず、開けてみよう」
「そうね。まずは宝石箱から……」

 螺鈿細工を施された宝石箱は、これ自体が美しく、芸術品のようだ。
 夜光貝やアワビなどの真珠層と呼ばれる美しい貝殻を切り抜いて貼り合わせてあり、その繊細な仕上がりにナギはため息を吐いて見惚れてしまう。
 蓋を開けると、蓋の裏側と側面に鏡が入っており、表面には草花の模様が施されていた。
 中には分厚いシルクのクッションが敷かれており、指輪がふたつ収まっている。
 さっそく【鑑定】スキルで確認してみて、驚いた。

「ハイペリオンダンジョンへの転移指輪……?」
「転移ができる魔道具は、国宝だと聞いたことがある」
「国宝って……これ、取られたりしないよね?」

 心配になって、ナギは指輪をそっと握り締める。それにエドはちょっと悪そうな表情を浮かべた。

「黙っていれば、誰にもバレないと思う」

 無言で見つめ合った二人だが、やがてプッとナギが噴き出して、一緒になって笑った。

「ふ、ふふっ。それもそうね! 初回攻略特典なんて、最初に踏破した人しか知らないもの。この船の模型だけ貰ったって言えばいいのよね」
「ん。黙っておけばいい。嘘は吐かない。ただ黙っておくだけだ。問題ない」

 そういうわけで、この転移の指輪は二人だけの秘密となった。
 右手の薬指を飾る指輪は台座が金で石は青金石ラピスラズリだ。
 エドとお揃いの指輪を嵌められて、何となく気恥ずかしい。

「……で、こっちの船の模型だが」
「よくできた模型だけど、別に要らないよね……?」

 かっこいいとは思うけれど、ボトルシップなどの趣味がなかったナギには戸惑いの方が大きい。
 だが、じっと模型を眺めていたエドは顔を輝かせてナギを振り返った。

「これ、模型じゃなくて、本物の船だ」
「えっ」
「しかも、魔道具だ」
「ええっ⁉︎」

 さすがダンジョン攻略特典。
 どちらも規格外のお宝だった。

あなたにおすすめの小説

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。  異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。  そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。 「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」  そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。 「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」  飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。  これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。