異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

文字の大きさ
206 / 289
〈冒険者編〉

312. お家に帰ろう


 ハイペリオンダンジョンを見事に攻略した二人は引き止めようとする面々を振り切るようにして帰路に着いた。
 ちなみに引き止めようとしたのは、もう少し詳細を聞き出したい冒険者ギルドとドロップアイテムを買い取りたいエイダン商会。
 もっと新しいメニューを覚えたい開拓地食堂の人々だった。

(それと、『黒銀くろがね』の黒クマ夫婦ね。捨てられる子猫みたいな眼差しで見つめてくるのだもの。後ろ髪が引かれたわ……)

 あまりにも可哀想だったので、ナギは作り置きの肉料理を、エドは菓子パンをそっと差し入れてしまった。
 ダンジョンをクリアした後で、他の冒険者たちに囲まれた際に助けてもらったお礼も兼ねている。
 彼らにだけは、ギルドに教えたダンジョン攻略のヒントをこっそり伝えた。
 ダンジョンを最下層までクリアしたナギとエド以外だと、いちばん下層で頑張っているパーティなのだ。

 名残惜しげな彼らに手を振ってから、二人は颯爽と旅立った。
 目指すはダンジョン都市。かわいい居候たちが待つマイホームだ。

 大森林から出ると、ナギはすぐさまゴーレムの核を取り出して魔力を込めた。
 作り出したのは、二人乗りのゴーレム馬車。スピードを重視して、荷車がないタイプのシンプルな作りにしてみた。
 トゥクトゥクに似た形をした、小さな座席付きの乗り物だ。
 衝撃を吸収する魔獣の毛皮を敷き、ふかふかのクッションも使うので、それなりに快適に馬車を飛ばすことができるはず。
 ゴーレム馬車には御者は基本的に必要ない。
 魔力を込めてゴーレムを実体化させたナギが念じた通りに動いてくれるのだ。

「早く帰りたいから、飛ばすわね」
「分かった。舌を噛まないように気を付けよう」

 神妙な表情で頷き合った。
 何せ、ここは大森林近くの未開拓の土地がしばらく続く。
 かろうじて獣道よりはマシ、程度の細道はあるが、もちろん舗装されてはいない。
 食材ダンジョン発見後に冒険者ギルドや商業ギルドなどが何度も馬車を往復させたことから、多少は地面も踏み固められていたので、以前よりは走りやすかった。

 ともあれ、ゴーレム馬車は疲れ知らず。
 ナギがたっぷりと魔力を込めてあるので、動力切れを起こすことなく、二人の休憩時間以外はノンストップで駆け抜けてくれた。


◆◇◆


 早朝から暗くなるまでゴーレム馬車で駆けて、予定より早く獣人の街に到着した。
 ガーストの街にはエイダン商会の支店がある。親しくさせてもらっている、リリアーヌが支店長をしているのだ。
 彼女はナギとエドを大いに歓迎してくれた。
 急ぎの旅であることを告げると、余計な時間を掛けずに、すぐに仕事の話を通してくれることもありがたい。
 無事にハイペリオンダンジョンを踏破したことを告げて、ドロップしたアイテムを買い取ってもらう。
 食材はもちろん、魔獣素材も大量に買い取ってもらえた。
 特に喜ばれたのはシルバーウルフの毛皮だ。
 南国に位置するダリア共和国の夏は長く、過酷なため、氷属性の美しい毛皮は富裕層には大人気らしい。

「冒険者ギルドでの買取り額より色を付けるから、多めに融通してくださらない?」
「私たちは構いませんけど、高額になりませんか」

 売れるかどうか不安になるほどの金額で購入してくれたので、ナギは戸惑いがちに聞いてしまった。
 ふ、とリリアーヌが端整な口元を笑みを浮かべる。

「高額ですが、それ以上の価値を付けて市場に流すのが私ども商人の腕の見せどころですから」
「これほどの見事な毛皮なら、加工して美しいコートを仕立てれば、素材代はすぐに回収できますとも」

 リリアーヌの傍らに立つ金庫番らしき男性も胸を張る。
 そこまで自信があるのならば、きっと高値で売り捌ける伝手があるのだろう。

「シルバーウルフの毛皮、一枚で金貨十枚か」
「十五頭分を買い取ってもらったから、これだけで金貨百五十枚分の稼ぎになったわね……」

 日本円だと、千五百万ほどの稼ぎだ。
 それとは別にフロアボスのジャイアントロップイヤーからドロップしたゴージャスな毛皮のマントも商会に引き取ってもらった。
 残念ながら、これには氷属性は付与されていない。単に綺麗なマントである。
 とはいえ、王族が愛用しても納得の品なので、これも高く買い取ってもらえた。
 ゴーレムからドロップした鉱石や宝箱から発見した宝飾品も何点か引き取ってもらえて、二人はほっと胸を撫で下ろした。
 冒険者ギルドでも引き取ってもらえるが、宝飾品は鑑定士が入るため、手数料がかなり取られてしまうのだ。

(その点、エイダン商会だと目利きの鑑定士がいるから、すぐに査定してもらえる。本当にリリアーヌさんと知り合えて良かった!)

 感謝の気持ちを込めて、食材ダンジョンで入手したチーズやヨーグルト、いちごをプレゼントする。
 ちなみに開拓地食堂で思い付いたピザカッターなどの調理器具はドワーフ工房のミヤに相談して、製作できてからリリアーヌに商談を持ち掛ける予定だ。

「では、先を急いでいるので、ここで失礼しますね」
「まぁ……名残惜しいですが、仕方ないですわね。お気を付けて」

 エイダン商会には二時間ほど滞在した。
 街の宿を勧められたが、先を急ぐのでと遠慮して、すぐにガーストを発った。
 街の宿も悪くはないのだが、街道外れでコテージを出して休める方が快適なので。

 その日は街から二時間ほど離れた街道沿いで休むことにした。
 暗い夜道を進む酔狂な旅人はいない。
 早朝にコテージを仕舞って、すぐに出発すれば、誰にも見られることはないだろう。
 周囲に誰もいないことを確認してから、ナギはコテージを開けた場所に設置した。

「さすがに、ずーっと座りっぱなしだと疲れちゃうね」
「歩いていた方が疲れないくらいだ」
「ゆっくりお風呂に浸かって、体をほぐさないと」

 交代でバスタイムを満喫する。
 食材ダンジョンで採取した柚子ゆずを湯に浮かべたお風呂はエドにも好評だった。
 アキラも入りたがったようで、途中で仔狼の姿に変化させられたらしい。
 ポメラニアンサイズなため、バスタブで犬かきをしてお風呂を楽しんだとか。

 夕食はワイバーン肉の照り焼き丼を食べた。皮膜は断然、唐揚げにして食べるのが美味しいのだが、その他の部位の肉も食べ応えがある。
 今回はワイバーンのモモ肉をじっくりと照り焼きにして食べることにした。
 醤油とみりん、蜂蜜を使った照り焼きソースとモモ肉から滲む脂が絡んで、食欲をそそる香りが辺りに立ち昇る。
 一口サイズに切り分けてご飯の上にのせて食べるのだが、エドはそこにマヨネーズを添えていた。
 ナギは少し考えて、チーズをのせてみた。

「……! その方法があったか……」
「んふふー。照り焼きソースとマヨネーズも相性はバッチリだと思うわよ? でも、この熱々のワイバーン肉にチーズをのせると、とろっと溶けたところが最高に美味しいのよねー」
「二杯目はそれで食う」

 照り焼きソースとチーズもとてもよく絡んで絶品だった。
 肉はもちろんのこと、これはダンジョンドロップアイテムのチーズの品質がとびきり良いからだろう。

「このチーズを使った料理をもっと研究したいわ」
「協力する」
「エドの協力は味見って言うのよ?」
「ん、……味見で協力する」

 味見は外せないようだ。
 
 翌日も早いため、食休みもそこそこにベッドに潜り込んだ。

(はやく、皆に会いたいな)

 一ヶ月離れただけで、もうこんなに寂しくなるなんて。
 ふかふかの毛皮のネコたちを思い出して、ナギは仔狼アキラをぎゅっと抱きしめて眠りについた。

あなたにおすすめの小説

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。  異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。  そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。 「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」  そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。 「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」  飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。  これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。