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〈掌編・番外編〉
25. ホワイトリカー
しおりを挟むハイペリオンダンジョンを攻略し、その初回特典となる転移の魔道具を手に入れたナギとエドは新たな楽しみのために、毎日ダンジョンに通い詰めている。
目当ては食材ダンジョン産の美味しい果実とドロップアイテムのお酒だった。
「今はまだ飲めないけれど、二年後の楽しみのために果実酒を作っておきたいの!」
ナギたっての希望で、果実酒を漬けるためのお酒を手に入れるために、せっせと食材ダンジョンに通っている。
これまでも、辺境伯邸から失敬してきた白ワインで果実を漬けて保存していたのだが、もっと果実酒作りに最適なお酒をダンジョンで見つけたからだ。
「白ワインではダメなのか?」
不思議そうに疑問を投げ掛けてくるエドに、ナギは大きく頷いてみせた。
「果実酒にもっとも向いているのは、ホワイトリカーと言われているの」
「ホワイトリカー……白い酒?」
それはワインとは違うのか。
さらに疑問を深めたエドの目前に、ナギは【無限収納EX】から取り出した酒瓶をどん、と取り出してみせた。
ハイペリオンダンジョンの宝箱に入っていた酒瓶だ。
ラベルなどはないが、【鑑定】スキルで確認すると、『焼酎』だと分かる。
「焼酎甲類──つまり、これがホワイトリカーなの!」
「おお……」
エドの脳内に、アキラから提供されたらしき記憶が浮かび上がる。
前世の彼が唯一、作ったことのある果実酒──梅酒をホワイトリカーで漬けていた記憶だ。
(なるほど、こうやって作るのか)
納得した。ついでに面白そうだ、とも思ってしまった。
「手伝おう。そのショウチュウ、をダンジョンで探すのか?」
「焼酎は残念ながら、宝箱に入っていたものなの。だから、どの魔獣からドロップするのかは分からない」
「む……なら、片端から倒していくか」
「そうするしかないのよねー……」
ふぅ、とため息をつくナギ。
ダンジョンには稀に宝箱が置かれており、文字通りに中にはお宝が詰まっている。
通常のダンジョンでは金銀財宝や武器に魔道具などが見つかることが多いが、ハイペリオンダンジョンは何せ、ナギの欲望と魔力を糧に育った食材ダンジョン。
スパイスや調味料、酒などの変わったお宝が入っていたのだ。
「宝箱に入っていたものは、ダンジョンのフロアボスを倒すとドロップする、レアアイテムなことが多いから……」
「各階層のフロアボスを順番に倒していって、探せばいい」
「面倒だけど、そうするしかないわね」
宝箱が現れるのは一度だけ。
食材ダンジョンを最初に見つけて、攻略した二人が宝箱をすべて発見しているのだ。
「そこは【自動地図化】スキルに感謝よね」
ありがたいスキルのおかげで、どこに宝箱があるのかはお見通しだったのだ。
あらゆる階層の宝箱はすべて回収したので、そこから焼酎を手に入れることはもう出来ない。
結局、エドの提案通りに、暇な時間は食材ダンジョンに通い、せっせとフロアボスを倒していったのだった。
◆◇◆
そうして、ようやく発見したのだ。
焼酎甲類をドロップする魔物を。
待望の魔物は、四十階層に出没する、オーガだった。
しかも、フロアボス特典ではなく、普通のオーガからもドロップした。
レアドロップアイテムではあるが、二十匹倒せば、一本の割合でホワイトリカーを落としてくれたのだ。
「盲点だったな。オーガとは……」
「本当にね。美味しいお肉を落とさないから、オーガのいる四十階層は駆け足で通り抜けたから、気が付かなかったんだわ」
大鬼は人型の魔物だ。
身長は2メートル以上あり、肌の色は青白い。見た目は青鬼そのもので、凶暴だ。
鉄製の棍棒のような武器で襲ってくるので厄介だが、魔法を使える二人にはそれほど脅威を覚える相手でもないので、あまり記憶に残っていなかった。
ドロップするものは、土属性の魔石と鉱石が多く、実入りは少ない。
あまり稼げる魔物でもないので、『黒銀』のメンバーたちと相談して、スルーすることにしたのだ。
「フロアボスは倒したっけ……?」
「それは倒した、と思う。たしか、白ワインの樽をドロップしたはずだ」
「ああ……そういえば、そうかも。ドロップしたワイン樽はギルドが買い取ったから、すっかり忘れていたわ」
しかし、オーガが酒をドロップするとなると、フロアボスのレアドロップが気になる。
「……エド」
「ああ、分かっている。フロアボスに挑むんだな? 任せろ」
頼もしい相方と笑い合って、二人は奥に進んだ。オーガはエドの氷の槍とナギの風の矢で蹴散らした。
魔石と鉄鉱石を目視収納。
ホワイトリカーがドロップした際には、いそいそと手に取って大切そうに【無限収納EX】にしまっていく。
そうして、次の階層へ続く転移扉の前でフロアボスと対峙する。
「ほぅ。こいつは、特殊個体のフロアボスらしいぞ」
「そうみたいね。倍近く大きいもの」
縦にも横にも大きな、ハイオーガだ。
これは初めて見る。
凶悪そうな顔を醜く歪めて嗤うが、そんな安い挑発など二人は軽くスルーした。
そんなことよりも、この特殊個体のフロアボスから何がドロップされるのか、という方が気になって仕方ない。
「ナギ、全力でやるぞ」
「分かった。無駄な時間は使いたくないものね」
魔力を練って、二人は全力でとっておきの魔法を放った──
◆◇◆
『……で、ドロップしたのが、この酒ニャ?』
ダイニングテーブルいっぱいに並べられた酒瓶を、呆れたように猫の妖精のコテツが見やる。
「そうなの。特殊個体のオーガを倒したら、こんなにたくさんのお宝を落としてくれたのよ!」
ウキウキとはしゃぎながら、ナギが酒瓶に頬擦りする。
妖精めいた美少女が、お酒に頬擦りする姿を目にしたエドが何とも言えない表情になった。
ちらりとそれを一瞥したコテツが同情したように軽く頷く。
ナギはそんな二人の様子に気付いた様子もなく、にこにこと微笑みながら、戦利品を確認している。
「全部で五十本はあるのよ! こっちはワインね。赤白ロゼに、なんとスパークリングワインまであるの!」
ワインだけではなく、他の醸造酒もあった。日本酒だ。
「これは吟醸酒、純米酒。もちろん焼酎もたくさんあるわ! ホワイトリカーがいちばん多いから、果実酒も漬け放題よ!」
「そうか。それは良かった」
しかも、ドロップしたのはこれだけではない。鑑定した中には、ビールがあったのだ。
「エールビールにラガービールもあるわ。五本ずつね。大事に確保しておきましょう!」
しっかりと【無限収納EX】に収納する。こちらの世界のエールと味比べをするのが今から楽しみだ。
「そして、なんと! ウイスキーまでドロップしたのです!」
興奮気味にナギが指差したのは、ウイスキーだ。
大麦やライ麦、トウモロコシなどの穀類を原料としたお酒で、蒸留した後に熟成された高級酒である。
「この世界では、ドワーフのみが作れるという幻のお酒、ウイスキー!」
残念ながら、ブランデーはドロップしなかったが、ウイスキーが一本手に入っただけでも嬉しい。
「アルコール濃度が高いから、成人したとしても、かなり薄めて飲んだ方が良さそうね。楽しみだわ」
ドロップした酒類はいちばん安全な場所──ナギの【無限収納EX】で保管することにした。
ここなら、盗まれる心配もない。
「さぁ、食材ダンジョンで果実も採取してきたことだし、果実酒を漬けるわよ!」
「ん、……ほどほどにな、ナギ」
採取したのは水蜜桃に黄金林檎、ブルーベリーにいちごだ。
あとは、ハイペリオンダンジョンで見つけて、木ごと持ち帰った梅が根付いたので、梅酒も漬けることにした。
「本当は氷砂糖があればいいんだけど……」
氷砂糖には浸透圧の作用で果実の美味しいエキスを引き出す効果があると前世で聞いた覚えがある。
果実酒作りには最適なのだが、存在しないので仕方ない。
「ダンジョン産の蜂蜜で代用するわね。これも美味しくなるはず……!」
ただし、蜂蜜は溶けにくいので、頻繁に瓶を振って馴染ませる必要がある。
「美味しい果実酒を二年後に堪能するためだもの。頑張るわ……!」
そんなわけで、ナギとエドは数日おきに冷暗所に通っている。
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