97 / 289
〈掌編・番外編〉
25. ホワイトリカー
ハイペリオンダンジョンを攻略し、その初回特典となる転移の魔道具を手に入れたナギとエドは新たな楽しみのために、毎日ダンジョンに通い詰めている。
目当ては食材ダンジョン産の美味しい果実とドロップアイテムのお酒だった。
「今はまだ飲めないけれど、二年後の楽しみのために果実酒を作っておきたいの!」
ナギたっての希望で、果実酒を漬けるためのお酒を手に入れるために、せっせと食材ダンジョンに通っている。
これまでも、辺境伯邸から失敬してきた白ワインで果実を漬けて保存していたのだが、もっと果実酒作りに最適なお酒をダンジョンで見つけたからだ。
「白ワインではダメなのか?」
不思議そうに疑問を投げ掛けてくるエドに、ナギは大きく頷いてみせた。
「果実酒にもっとも向いているのは、ホワイトリカーと言われているの」
「ホワイトリカー……白い酒?」
それはワインとは違うのか。
さらに疑問を深めたエドの目前に、ナギは【無限収納EX】から取り出した酒瓶をどん、と取り出してみせた。
ハイペリオンダンジョンの宝箱に入っていた酒瓶だ。
ラベルなどはないが、【鑑定】スキルで確認すると、『焼酎』だと分かる。
「焼酎甲類──つまり、これがホワイトリカーなの!」
「おお……」
エドの脳内に、アキラから提供されたらしき記憶が浮かび上がる。
前世の彼が唯一、作ったことのある果実酒──梅酒をホワイトリカーで漬けていた記憶だ。
(なるほど、こうやって作るのか)
納得した。ついでに面白そうだ、とも思ってしまった。
「手伝おう。そのショウチュウ、をダンジョンで探すのか?」
「焼酎は残念ながら、宝箱に入っていたものなの。だから、どの魔獣からドロップするのかは分からない」
「む……なら、片端から倒していくか」
「そうするしかないのよねー……」
ふぅ、とため息をつくナギ。
ダンジョンには稀に宝箱が置かれており、文字通りに中にはお宝が詰まっている。
通常のダンジョンでは金銀財宝や武器に魔道具などが見つかることが多いが、ハイペリオンダンジョンは何せ、ナギの欲望と魔力を糧に育った食材ダンジョン。
スパイスや調味料、酒などの変わったお宝が入っていたのだ。
「宝箱に入っていたものは、ダンジョンのフロアボスを倒すとドロップする、レアアイテムなことが多いから……」
「各階層のフロアボスを順番に倒していって、探せばいい」
「面倒だけど、そうするしかないわね」
宝箱が現れるのは一度だけ。
食材ダンジョンを最初に見つけて、攻略した二人が宝箱をすべて発見しているのだ。
「そこは【自動地図化】スキルに感謝よね」
ありがたいスキルのおかげで、どこに宝箱があるのかはお見通しだったのだ。
あらゆる階層の宝箱はすべて回収したので、そこから焼酎を手に入れることはもう出来ない。
結局、エドの提案通りに、暇な時間は食材ダンジョンに通い、せっせとフロアボスを倒していったのだった。
◆◇◆
そうして、ようやく発見したのだ。
焼酎甲類をドロップする魔物を。
待望の魔物は、四十階層に出没する、オーガだった。
しかも、フロアボス特典ではなく、普通のオーガからもドロップした。
レアドロップアイテムではあるが、二十匹倒せば、一本の割合でホワイトリカーを落としてくれたのだ。
「盲点だったな。オーガとは……」
「本当にね。美味しいお肉を落とさないから、オーガのいる四十階層は駆け足で通り抜けたから、気が付かなかったんだわ」
大鬼は人型の魔物だ。
身長は2メートル以上あり、肌の色は青白い。見た目は青鬼そのもので、凶暴だ。
鉄製の棍棒のような武器で襲ってくるので厄介だが、魔法を使える二人にはそれほど脅威を覚える相手でもないので、あまり記憶に残っていなかった。
ドロップするものは、土属性の魔石と鉱石が多く、実入りは少ない。
あまり稼げる魔物でもないので、『黒銀』のメンバーたちと相談して、スルーすることにしたのだ。
「フロアボスは倒したっけ……?」
「それは倒した、と思う。たしか、白ワインの樽をドロップしたはずだ」
「ああ……そういえば、そうかも。ドロップしたワイン樽はギルドが買い取ったから、すっかり忘れていたわ」
しかし、オーガが酒をドロップするとなると、フロアボスのレアドロップが気になる。
「……エド」
「ああ、分かっている。フロアボスに挑むんだな? 任せろ」
頼もしい相方と笑い合って、二人は奥に進んだ。オーガはエドの氷の槍とナギの風の矢で蹴散らした。
魔石と鉄鉱石を目視収納。
ホワイトリカーがドロップした際には、いそいそと手に取って大切そうに【無限収納EX】にしまっていく。
そうして、次の階層へ続く転移扉の前でフロアボスと対峙する。
「ほぅ。こいつは、特殊個体のフロアボスらしいぞ」
「そうみたいね。倍近く大きいもの」
縦にも横にも大きな、ハイオーガだ。
これは初めて見る。
凶悪そうな顔を醜く歪めて嗤うが、そんな安い挑発など二人は軽くスルーした。
そんなことよりも、この特殊個体のフロアボスから何がドロップされるのか、という方が気になって仕方ない。
「ナギ、全力でやるぞ」
「分かった。無駄な時間は使いたくないものね」
魔力を練って、二人は全力でとっておきの魔法を放った──
◆◇◆
『……で、ドロップしたのが、この酒ニャ?』
ダイニングテーブルいっぱいに並べられた酒瓶を、呆れたように猫の妖精のコテツが見やる。
「そうなの。特殊個体のオーガを倒したら、こんなにたくさんのお宝を落としてくれたのよ!」
ウキウキとはしゃぎながら、ナギが酒瓶に頬擦りする。
妖精めいた美少女が、お酒に頬擦りする姿を目にしたエドが何とも言えない表情になった。
ちらりとそれを一瞥したコテツが同情したように軽く頷く。
ナギはそんな二人の様子に気付いた様子もなく、にこにこと微笑みながら、戦利品を確認している。
「全部で五十本はあるのよ! こっちはワインね。赤白ロゼに、なんとスパークリングワインまであるの!」
ワインだけではなく、他の醸造酒もあった。日本酒だ。
「これは吟醸酒、純米酒。もちろん焼酎もたくさんあるわ! ホワイトリカーがいちばん多いから、果実酒も漬け放題よ!」
「そうか。それは良かった」
しかも、ドロップしたのはこれだけではない。鑑定した中には、ビールがあったのだ。
「エールビールにラガービールもあるわ。五本ずつね。大事に確保しておきましょう!」
しっかりと【無限収納EX】に収納する。こちらの世界のエールと味比べをするのが今から楽しみだ。
「そして、なんと! ウイスキーまでドロップしたのです!」
興奮気味にナギが指差したのは、ウイスキーだ。
大麦やライ麦、トウモロコシなどの穀類を原料としたお酒で、蒸留した後に熟成された高級酒である。
「この世界では、ドワーフのみが作れるという幻のお酒、ウイスキー!」
残念ながら、ブランデーはドロップしなかったが、ウイスキーが一本手に入っただけでも嬉しい。
「アルコール濃度が高いから、成人したとしても、かなり薄めて飲んだ方が良さそうね。楽しみだわ」
ドロップした酒類はいちばん安全な場所──ナギの【無限収納EX】で保管することにした。
ここなら、盗まれる心配もない。
「さぁ、食材ダンジョンで果実も採取してきたことだし、果実酒を漬けるわよ!」
「ん、……ほどほどにな、ナギ」
採取したのは水蜜桃に黄金林檎、ブルーベリーにいちごだ。
あとは、ハイペリオンダンジョンで見つけて、木ごと持ち帰った梅が根付いたので、梅酒も漬けることにした。
「本当は氷砂糖があればいいんだけど……」
氷砂糖には浸透圧の作用で果実の美味しいエキスを引き出す効果があると前世で聞いた覚えがある。
果実酒作りには最適なのだが、存在しないので仕方ない。
「ダンジョン産の蜂蜜で代用するわね。これも美味しくなるはず……!」
ただし、蜂蜜は溶けにくいので、頻繁に瓶を振って馴染ませる必要がある。
「美味しい果実酒を二年後に堪能するためだもの。頑張るわ……!」
そんなわけで、ナギとエドは数日おきに冷暗所に通っている。
あなたにおすすめの小説
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います
黒木 楓
恋愛
伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。
異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。
そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。
「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」
そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。
「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」
飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。
これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。