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〈掌編・番外編〉
34. 骨付鶏料理
しおりを挟む「骨付鶏が食べたい」
エドと二人で食材ダンジョンにスパイスを狙って転移した、昼下がり。
無事に目当てのスパイスを手に入れたナギは宝箱に入っていた黒胡椒の瓶を見下ろして、ぽつりとつぶやいた。
「骨付鶏? ……鶏肉が食いたいのか? なら、コカトリスを狩ってこよう」
理由を問うことなく、すぐに狩ってくると行動に移そうとするエドは格好よすぎではなかろうか。
「大丈夫よ、エド。コカトリスもコッコ鳥も、鶏肉なら大量に【無限収納EX】に眠っているから」
在庫なら、文字通りに売るほどある。
なら、なんで欲しがったんだ? と首を傾げるエド。
「ごめん。まぎらわしかったね。骨付鶏って、前世のとある県の地方飯っていうのかな? 塩胡椒とガーリックで味付けしたニワトリのモモ肉をオーブンでじっくり焼いた料理なんだけど……」
日本で食べた記憶を思い出しながら、ナギはほうっとため息をついた。
「すっっっごく美味しいのよ、それが」
「……オーブンで焼いただけの鶏肉が?」
「まぁ、下味はかなりガッツリ付けてあるんだけどね。なんというか、クセになる味わいがあるのよ」
あいにく都内住みなので、ご当地では食べたことがなかったが、その骨付鶏料理の有名店の支店が横浜にあるのだ。
美味しいご飯とお酒に目がない友人が教えてくれて、一緒に食べに行ってから、すっかりハマってしまった。
「今生ではまだ食べたことがないのに、ふと思い出すと、無性に食べたくなっちゃうのが、この骨付鶏料理なの」
「ナギがそこまで言うほどの鶏肉料理か……」
ごくり、とエドが喉を鳴らした。
「なら、作ってみよう」
「え?」
「コッコ鳥のモモ肉をオーブンで焼くだけなのだろう? なら、俺も手伝おう。ナギが前世から好きだったという鶏肉料理、俺も味わってみたい」
琥珀色の瞳に笑みをにじませて、軽い口調でねだってくるとは、エドにしては珍しい。
ふふ、とナギも気付いたら笑い返していた。
「そうね。食べたかったなら、作ればいいのよ。なら、さっそく下味を付けなくちゃ」
浅い階層でスパイス類を狙っていたので、人の少ないフィールドへ移動することにした。
◆◇◆
自分たち以外はまだ到着していない階層へ転移すると、セーフティエリアにコテージを設置する。
エプロンを装着して、さっそくキッチンで調理を開始した。
「大型の魔道オーブンがあってよかったわ。普通のニワトリならともかく、コッコ鳥の肉はひとまわり以上も大きいもの」
その分、食べ応えもあって美味なので、普通のニワトリの肉をわざわざ購入したりはしない。
ダンジョン内の魔獣は特殊個体やフロアボス以外は、ほぼ同じ大きさでリポップする。
だが、ダンジョン外で狩ったコッコ鳥なら、個体差はかなりあった。
その中から、なるべく年若そうな個体と老齢の域の個体を選り分けて調理する。
「なぜ、わざわざ選ぶんだ?」
不思議そうにエドに問われてしまった。
実は、骨付鶏のメニューには『ひなどり』と『おやどり』の二種類があるのだ。
ひなどりは、とにかく身がやわらかくてジューシー。おやどりは、肉質が硬めだが、歯応えも味も後をひく美味しさなのだ。
食べやすさなら、断然ひなどりだが、ビールのお供なら、おやどりを選ぶ。
(今回はまだ未成年だから、残念だけどビールはなし。でも、おやどりも食べたいから、両方作っちゃおう!)
どんなスパイスの配合かは分からないので、とりあえずは塩胡椒とパウダー状にしたガーリックをこれでもかと揉み込んだ。
しばらく時間をおいて、温めておいた魔道オーブンにコッコ鳥のモモ肉を投入して、じっくりと焼き上げる。
キッチンに漂ってくるスパイスと鶏肉の香りがたまらない。
「まだか、ナギ」
「いま焼き始めたばっかりだよ、エド」
「そうか。……まだだろうか?」
「まだだねぇ。でも、いい香り」
そわそわと魔道オーブンの周囲を行ったりきたり。
じょじょに匂いが強くなり、鼻のいいエドにはまさに生殺し状態だったようだ。
「さすがに、もうよくないだろうか?」
真剣な眼差しで問われるが、【鑑定】したところ、肉にはまだ火が通り切っていなかった。
「まだです。もうちょっと我慢してね? 鶏肉は半生で食べると怖いから」
前世の感覚でつい、そんな風に答えてしまったけれど、そういえば異世界ではどうなのだろう。
(回復魔法や治癒魔法、解毒魔法で食中毒は治せるのしら?)
そもそも冒険者は耐性持ちが多い。
ポーションは病気を完治させる力はないが、内臓の軽い損傷などは癒すことが可能だ。
ぼんやり考え込んでいる間に、コッコ鳥のモモ肉はパリッと香ばしく焼き上げることに成功した。
「うん、いい焼き加減!」
魔道オーブンで焼いている間に作っておいた、おにぎりを大皿に並べておく。
付け合わせは鶏ガラスープにざっくりと切っただけの生のキャベツだ。
「さぁ、食べよう!」
夕食には少しばかり早い時間だったが、骨付鶏の香りに魅了された二人は気にしない。
お腹が空いた時が、食事時間なのだ。
「「いただきます!」」
手を合わせるのもどかしい気持ちで唱和すると、さっそく骨付鶏にかぶりつく。
マナーなんて気にせず、手づかみだ。
「あっふ! んんっ、でも、おいひぃ……!」
ガッツリきいている黒胡椒の刺激を心地よく味わいながら、夢中で食べすすめていく。
最初に口にしたのは、ひなどりの方だ。
やわらかくて、肉汁をたっぷり身にたたえていた。
ガーリックの香りが食欲を掻き立てる。
鶏肉の皮部分の少し焦げたところがパリッとした食感で、とても美味しい。
塩胡椒の塊があったようで、顔をしかめながら口直しのキャベツをかじった。
骨付鶏の肉が辛い分、生のキャベツが格別に甘く感じる。
「生のキャベツをこれほどに旨く感じるとは……」
エドが意外そうにぽつりとつぶやく。
気持ちは分かる。肉を前にして生キャベツなんて、と思いそうなものだが、違うのだ。
この生キャベツのおかげで、口内をリセットして、また心ゆくまで骨付鶏をかじれるのである。
「んんー! 美味しい……幸せ……」
生のキャベツは皿の底に溜まった鶏油に浸して食べると、さらに美味しい。
ちなみに、おにぎりも当然、鶏油に浸して食べる。
ぜひ、試してほしい。とぶよ?
「次は、おやどり!」
「俺も挑戦しよう」
こちらの肉は硬めで、ナギの歯では噛みちぎることは無理そうなので、先にナイフで切り分けてある。
お箸でつまみあげて、ぱくり。
味は変わらない。だが、噛み締めた肉の弾力がもはや別物だ。
「ああ……冷えた生ビールが飲みたい……」
「あと二年の辛抱だ、ナギ」
どうどう、とエドに宥められてしまった。申し訳ない。落ち着きました。
生キャベツとおにぎり、鶏ガラスープと綺麗に食べ切って、手を合わせる。
「ごちそうさまでした……はぁ、お腹いっぱい……」
「食べ飽きたと思っていたコッコ鳥の肉をこれほど夢中で食べられるとは思わなかった」
「ふふ。結構、クセになるって意味、分かったでしょう?」
「ああ、そうだな。これはクセになる」
シンプルな料理法なので、レストランでも食べられそうなものだが──
「難しいんじゃないか。コッコ鳥の肉はともかく、黒胡椒をかなり使う料理だろう?」
「うん、かなり。それが美味しいんだけど……たしかに単価がすごいことになりそうね」
食材ダンジョンでドロップするようになったとはいえ、まだまだ少数。
気軽に手に入れることの可能なナギでなければ、こうまで豪快には使えないだろう。
「……じゃあ、しばらくは二人だけの秘密の肉料理ね」
「いいな、それ」
共犯者の笑みを交わし合った二人だが、仔狼には当然バレ、屋敷で留守番をしてくれていた猫の妖精たちにも残り香で気付かれた。
後日、彼らの可愛らしいおねだりに屈して、ふたたびコッコ鳥の骨付鶏料理を作るはめになったナギだった。
◆◆◆
本日、8月3日(日)『文学フリマ香川』に参加予定です。
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【月夜の猫】という名前で参加しています!
(詳細はXか、近況ノートにてご確認ください)
◆◆◆
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