【書籍化】魔法のトランクと異世界暮らし〜魔女見習いの自由気ままな移住生活〜

猫野美羽

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43. ショッピングモールでのお買い物

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「リリ、家具店での買い物はこれでいいのか?」
「荷物が重そうだな。俺が持ってやろう」

 背の高い従兄二人に挟まれた位置で歩くリリはスマホで買い物メモを確認しつつ、頷いた。

「ベッドとマットレスは注文しておいたから、家具店での買い物は終わり。次は寝具を買いに行きます」
「それなら、あちらに店舗があった」
「案内ありがとう、ルカ兄。レオ兄も荷物持ち、助かるわ」
「リリは華奢で非力だからな! いつでも俺に頼るといいぞ」

 本日は、闇の日。
 こちらの世界では日曜日なため、会社と大学が休みな従兄たちがショッピングモールでの買い物に付き合ってくれている。
 住み込みの従業員になってくれた使い魔三人分の家具や衣服、日用品などの購入が目的だ。
 せっかくなので、ルーファスの分もまとめてベッドとマットレス、寝具類を新調するつもりである。
 
「それにしても、リリ。家を長時間離れても大丈夫なのか。魔力が足りなくなるんだろう?」
「お守りを貰ったから、しばらくは大丈夫」

 左胸のポケットを押さえる。
 ここにはドラゴンのウロコが入っていた。ルーファスから貰った、綺麗な紅色のウロコだ。剥がしたばかりのそれは濃厚な魔素を放っている。
 その特別製のお守りのおかげで、曾祖母の結界に守られている家から離れても数時間は普通に動けるのだ。

「今は顔色もいいが、気分が悪くなったら、すぐに言うんだぞ?」
「ん、ありがと。レオ兄、もし私が倒れてしまったら、よろしく」
「任せろ。責任を持って運んでやる」

 ショッピングモールでの買い物の話をしたのは、昨夜の定期連絡の時のこと。
 すぐに二人が付き添うと宣言して、早朝にやって来た時には呆れたものだったが。

(結構、細々とした買い物が多いから、意外と助かる)

 荷物持ちはもちろん、ショッピングモール内の店舗の位置を把握して、無駄なく案内してくれるのだ。

(それに何より。二人が一緒だと、声を掛けられることもなくて安心)

 リリが一人で街に出ようものなら、よほど頼りなく見えるのか、よく声を掛けられてしまうのだ。
 体格がよく、見栄えのする従兄二人が目を光らせているので、今日は不埒な輩からナンパされることもなく、とてもスムーズに買い物を楽しめている。

(レオ兄とルカ兄が素敵すぎて、女の人の視線が凄いことになっているけど……)

 タイプの違う美形二人が揃うと、とても迫力がある。頬を赤らめて従兄たちをうっとりと眺める女性がそこかしこで目についた。
 ちなみに熱い視線を向けてくるのは女性だけではないのだが、リリは気付いていない。
 今日の彼女は伯母が送ってくれたワンピースを着ている。派手すぎない、クラシカルなデザインの濃紺のワンピースで、総レースの付け襟が愛らしい。
 異世界で魔素を吸収したおかげか、明るい栗色の髪はなぜかハニーブロンドに変化していた。
 美しさに磨きが掛かったリリを、男たちが気にしないはずもなく。
 とんでもない美少女だとガン見してくる連中を従兄二人が射殺すような視線を向けて排除していることを、リリは知らない。
 久しぶりの日本での買い物を存分に満喫していた。


◆◇◆


 ベッドやマットレスなどの大物は配達をお願いしたが、寝具一式や食器、衣類などは収納の魔導具であるショルダーバッグで持ち帰ることにした。
 魔法の鞄は素晴らしい。たくさん買い物をしても嵩張らないし、重さも感じない。
 ついつい買い過ぎてしまったが、どれも使う物なので気にしない。
 カラスの美少女の下着や衣服はリリが、キツネ獣人のセオの衣類は従兄二人に見立てをお願いした。
 スマホで撮影したセオの姿を見せて、大体のサイズを伝えて、下着と室内着などを買ってきてもらう。
 
「双子の美少女のお洋服を選ぶの、楽しすぎる……」

 あれもこれも、とカートに放り込みたくなるが、どうにか理性を総動員させて我慢した。

「背中が開いている服、あんまり無いのよね……」

 カラスの獣人──鳥人? へと変化した二人の背には小さくて愛らしい翼があるのだ。
 なので、部屋着は背中が開いたデザインのものを頑張って探した。
 
 あとは、皆でおそろいの食器やマグカップ、カトラリーなども揃えてみた。
 店舗二階に住むことになるので、一階のキッチンも使えるようにしなくては。
 鍋やフライパンなどの調理器具の他にも、調味料や紅茶、コーヒーなどの嗜好品も置いてあげたい。

 結局、大量の日用品の他にも食料品を大きなショッピングカート三台分ほど購入することになった。

「昼飯はどうする? モール内のフードコートはリリにはキツイか」
「たしか、少し車を走らせた先に評判の良い隠れ家レストランがあったよ」

 悩む二人には悪いが、お昼ご飯はもう用意してあるのだ。
 リリはにこりと微笑むと、二人と腕を組んで目当ての場所に向かった。

 ショッピングモールの屋上の一角に、小さな憩い用の公園があるのだ。
 ベンチとテーブルが設置されている穴場だ。幸い他に人がいなかったので、さっそくそこに腰を下ろした。
 周囲を見渡して、誰もいないことを確認すると、ストレージバングルから重箱を取り出した。

「お弁当を作ってきたの」
「なに! リリの手作り弁当ッ⁉︎」
「それは素晴らしい。写真を撮らせてほしい。オヤジに自慢しよう」
「そんなに期待されると、逆に披露しにくい……」

 贅沢な料理を食べ慣れている二人からしたら、素人の手料理なのだ。
 だが、従妹を溺愛している二人はとろけるような表情でお弁当を凝視している。ちょっと、こわい。

「味はあまり期待しないで欲しいのだけど……」

 日本での食事はどれも美味しいが、魔素が含まれていない。
 曾祖母シオンの家の中なら、まだ我慢できるけれど、家の外では定期的に魔素を含んだ飲食物を取らなければならないのだ。
 なので、ショッピングモールでの買い物の最中も『聖域』で採取したハーブを使ったハーブティーを持ち込んで、喉を潤していた。

「日本の食材も使ってあるけど、お肉は異世界のものなの。すごく美味しいから、二人にも食べてもらいたくて」
「異世界の肉……!」
「それは楽しみだな」

 異世界の街や屋台の動画を見ている二人は目を輝かせている。
 うん、気になるよね。リリはニヤリと笑った。ひとつひとつ、重箱の中身を説明する。

「これはワイルドディアのステーキ」
「ディアってことは、鹿肉だね。うん、赤身肉で食べやすい。美味しいよ、リリ」
「こっちはワイルドボア肉の生姜焼き」
「ほう。豚肉よりも身が柔らかいとは。だが、野生味も感じる肉だな。白飯とよく合う」

 二人に説明しつつ、リリもお肉を摘む。
 うん、美味しい。お弁当なので、味付けは少しだけ濃いめにしてある。

「で、これはジャイアントダックのロースト。すごーく大きなカモのお肉です」
「おお……! 脂身がくどくない。これは格別に旨いな」
「母さんが好きそうな味だね。これ、鴨鍋にしても美味しいだろうな……」
「鴨鍋! いいですね。次、獲ってきてもらったら、試してみる」

 最後はとっておきだ。
 リリはお箸でつまみ上げたお肉を二人に「じゃーん」と見せ付けた。

「そして、これが本日のメイン食材です」
「おお、唐揚げか!」

 ぱあっと玲王レオの顔が輝く。唐揚げは彼の大好物なのだ。

「なんと、これはコカトリスの唐揚げです。絶品です」
「コカトリス」
「……ゲームで見たことがあるな、それ」

 ほんの少しだけ怯んだが、さすが海堂家の男たち。
 思い切って、ぱくりと唐揚げを口にして、咀嚼するや否や歓声を上げた。

「なんだこれ! めちゃくちゃ旨いぞ⁉︎」
「今まで食べた唐揚げの中でもトップクラスに美味しいよ、リリ」
「ふふふ。美味しいでしょう? 私もお気に入りなの」
「まさか、リリが唐揚げを食えるようになるとはなぁ……」
「食欲が出て、何よりだ」

 感慨深そうな従兄たちを、リリは明るく笑い飛ばした。

「唐揚げだけじゃないわよ? 天ぷらやフライ、トンカツだって美味しく食べるつもり」

 胸を張る少女を二人は眩しそうに見つめて破顔する。
 四段重ねのお弁当をぺろりと平らげて、食後のハーブティーまで味わった従兄から異世界肉をおねだりされたのは言うまでもない。
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