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122. 映画鑑賞会 1
しおりを挟む異世界でも転移扉を開け放しておけば家電が使えると気付いて、リリはルーファスと二人で電器屋に出向いた。
便利な【生活魔法】があるので、洗濯機や掃除機は不要。
何を買うか悩んだ結果、キッチン用の家電を中心に揃えることにした。
まずは、電気炊飯器。オーブン機能付きのレンジに電動のハンドミキサーに電気ケトル、電気圧力鍋にトースターとフードプロセッサーも購入した。
おかげで、最近は作る料理も多岐にわたっている。
炊飯器と圧力鍋は買って良かったとしみじみ感動した筆頭だ。
パックご飯より美味しいし、鍋で炊くより簡単なのが特に嬉しい。
電気圧力鍋には調理レシピが付いているので、具材を切って調味料と共に鍋に放り込むだけで、出来立ての美味しい煮込み料理が食べられるのだ。最高すぎる。
ちなみにオーブン機能付きレンジをいちばん喜んだのは、セオだ。
製菓用の道具とレシピ本を持ち込んで、リリがクッキーを焼いていると、自分も作ってみたいと言い出したのだ。
なので、夕食後や休日に二人でお菓子作りを楽しんでいる。
異世界にはないチョコレートやベーキングパウダーなどは日本のものを使っているけれど、なるべくジェイドの街で手に入る食材を使って、お菓子を焼いた。
魔素を含んだ焼き菓子をよく食べるようになったからか、最近のリリはとても体調がいい。
そして、キッチン家電とは別に購入したのがDVDプレイヤーとホームプロジェクターだった。
大画面で映像を楽しめるよう、吊り下げ式のスクリーンもセットで買ってある。
娯楽の少ない異世界。
いつもお世話になっている皆に楽しんでもらいたいと考えて、日本から持ち込んだのだ。
「ルーファスが帰ってくる前に、鑑賞会場をセッティングしましょうか」
日本にお使いに出向いてくれているルーファスとは夕方までには帰ってくる約束を交わしてある。
伯父が買い取ってくれた異世界のあれこれの代金はそのままお小遣いとして使っていいと伝えてあったので、今頃は張り切ってショッピングを楽しんでいる頃だろう。
「お買い物メモは渡しておいたから、ちゃんと買ってきてくれるはず……よね?」
ちょっとだけ不安ではあるが、ショッピングモールでの買い物は何度もしているので大丈夫なはず。
『リリ、ボクは何を手伝えばいいの?』
クロエたちは『紫苑』の仕事があるので、魔法のトランクの家には、リリと黒猫のナイトしかいない。
「二階の私の部屋の模様替えを手伝ってください」
『模様替え?』
「はい。スクリーンを吊るしたいので、壁際の家具を【アイテムボックス】に収納して欲しいの」
『ん、分かった!』
お行儀はあまり良くないが、夕食はルーファスにテイクアウトしてもらったものを食べながら、映画を観るつもりだ。
二階はリリの寝室だけなので、比較的ゆったりとはしているが、五人と一匹だとさすがに狭く感じるだろう。
なので、邪魔な家具はひとまずナイトに収納してもらうことにした。
「まずはベッドを片付けてくれますか?」
『ん! 収納したよ』
「では、次はクローゼットとライティングデスクを」
『はーい!』
さくさくと家具類を収納してもらうと、すっかり殺風景になってしまった。
「……ついでに掃除もしておきましょうか」
家具の下、意外とホコリが溜まっていたようだ。黒猫ナイトが【洗浄】であっという間に綺麗にしてくれた。
お礼を言って、まずは壁際にスクリーンを吊るしていく。
「スクリーン前に、ソファを置きましょう」
ショッピングモール内の家具店で購入した、大型ソファを設置する。
五人がゆったり座れるコーナーソファだ。このサイズのものがするっと入るマジックバッグは本当に訳が分からない、魔法の鞄だ。
「お菓子や飲み物を置くローテーブルも置きます」
こちらもソファと一緒に買ったものだ。木製のどっしりとした重さがあり、頑丈そうなところが気に入った。
「うん、こんなところかしら。プロジェクターもセットしておいた方がいいわね」
ソファのすぐ後ろに、魔法のドアを呼び出した。鍵を開けて、開け放つ。
曽祖母の秘密の部屋に足を踏み入れて、用意しておいた延長コードを異世界の自室まで引き込んだ。
小さめのテーブルにホームプロジェクターとDVDプレイヤーをセットする。
試しに電源を入れて確認してみたが、ちゃんと作動した。
『大丈夫そうだね、リリ』
「ええ、思ったより映像も鮮明で良かったです」
あとは、ルーファスの帰宅を待つだけだ。
◆◇◆
雑貨店『紫苑』の閉店作業をしている頃、ようやくルーファスが帰還した。
『遅いよ、ルーファス!』
「悪かった。リリィの伯母上に引き止められてな。あと、何を買うか迷ったのもある」
「伯母さま……」
ちょうどランチタイムだったので、伯母にお気に入りのレストランへ連れて行かれたらしい。
美味しいランチを奢ってもらい、ついでに皆へのお土産も大量に持たせてくれたと聞いたナイトがてのひらを返して、鷹揚に頷く。
『それなら仕方ないね』
「伯母さまの行きつけのお店なら、期待できます」
だが、本日のディナーはルーファスがショッピングモールでテイクアウトしてくれたものがあるのだ。
伯母からのお持たせは明日、堪能することにしよう。
「ルーファス、頼んでおいた買い物は?」
「もちろん買ってきてあるぞ」
ダイニングテーブルに次々と買ってきた品物を並べていくルーファス。
映画鑑賞といえば、定番のポップコーンにドリンク類。チュロスにナチョスにホットドッグまである。
「リリィの指示通りに、映画館の売店で買ってきた」
「ありがとう、ルーファス。まぁ、アイスまであるのね。嬉しい」
人気のショコラブランドとコラボ中のアイスチョコドリンクも人数分購入してくれたようだ。
持ち帰りは難しいのだが、ルーファスには【アイテムボックス】スキルがある。
アイスやドリンクは冷たいまま口にしたいので、ストレージバングルに収納しておいた。
「あとは菓子を適当に買ってきたぞ」
「ポテチがたくさん!」
はしゃぐ姿を微笑ましそうに見つめてくるルーファスに気付き、リリはほんのり頬を赤らめた。
「だって、日本にいた頃は胃腸も弱くて、食べられなかったもの……」
「そうか。なら、好きなだけ食べよう。色んな種類のものを買ってきてある」
「ポテチだけで十種類もある……買いすぎよ、ルーファス」
「どうせ皆で食えば、すぐになくなる」
五人と一人なら、たしかにすぐ完食してしまいそうだ。
「……考えてみたら、お友達と集まって映画鑑賞会なんて、初めてかもしれません」
皆を楽しませようと企画したのだけど、本当は自分がいちばん楽しんでいたような気がしないでもない。
ふ、とルーファスが端正な口元を綻ばせた。
「楽しみだな、リリィ」
『ボクも楽しみにしていたよ。てれびより面白いんでしょ?』
「それはもちろん。期待しておいてください」
ナイトが我が家で見ていたのはニュースやドキュメンタリー番組だけなので、娯楽映画は初めてなのだ。
うきうき、そわそわ。浮き足だった気分で夕食やオヤツの準備を整えていると、閉店作業を終えた三人がやってきた。
「ただいま帰りましたわ!」
「すっごくいい匂いがしますっ」
「リリさま、ただいま」
三人が魔法のトランクの家にやってくると、途端に賑やかになる。
「おかえりなさい。今夜はだらだらと楽しく過ごす予定なので、皆は楽な服装に着替えてくださいね」
「楽な服装?」
「ふふ。お揃いのルームウェアです!」
色違いの半袖シャツとハーフパンツのルームウェアに皆で着替えた。
本当は先にお風呂に入っておきたいところだが、人数が多いため【生活魔法】でさっぱりする。
ルーファスサイズのルームウェアにはハーフパンツはなかったので、足首まである普通のパンツ姿だ。
「上映会場は二階です。夕食をつまみながら、映画を観ましょうね」
異世界初の映画鑑賞会の始まりだ。
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