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第3章 セルジオの新しい日常

3-2 真夜中の会議

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 外はところどころ明かりが見えるだけで、静まりかえた真夜中の事。
 この日のすべきことすべてを終えた後、俺はソフィと1階にある応接間で話をしていた。

「セルジオ様が来てから、ルーナ様は大きく変わりました」

 ソフィは窓の外を見つつ話しいている。俺はソファに腰掛けている。

「ルーナ様の以前のことを全く知らない俺はなんともですが――でも初めて。来た時と比べると確かに変わりましたね。だらけていることも減りましたし。よく自分で動くようになりました。あと洗濯もできるようになりましたし。はじめのドタバタは……」
「やはりセルジオ様に来ていただいてよかったです。ここまで早くルーナ様がご自身で動くようになるとは思っていませんでした――」

 小声で『さすが有能な私。たまたまだけど完璧』という声が聞こえた気がするが。俺はソフィという人をなんとなく理解してきているので、今では、触れないことにしている。どうやらソフィは自分をかなり有能(実際にかなり有能だが)と理解しているらしくよく聞いていると、小声でちょくちょくこんなことをつぶやいている。それに気が付くとちょっとかわいい人と思える場面だったりする。
 ここに居るのはみんな身分は違うが。年齢的にはほぼ同じ。そんな中で、影で自分をほめる姿。なかなか良くない?とか俺は思っている。

「いや、俺は――それに求人はホント偶然というかミスですし。だから奇跡的にこうなったわけで――」
「偶然でもです。これは運命というやつでしょう」
「――誰かに仕組まれている――は。ないですからね」
「それはそれでセルジオ様の能力を知ったものですね」
「いや、俺が無能は人間界なら皆知ってますが……」
「いえいえ万能ということをですよ?」
「万能?」
「セルジオ様は魔術に頼らずとも完璧にこなしているじゃないですか」
「いや、でも普通に比べたらかなり時間かかってますし」
「ここでなら大丈夫です。いや、外でも大丈夫ですよ。魔界なら」
「あはは。でも魔界のイメージは変わりましたね。こんな所とは」
「噂なんてそんなものですよ。そのうち外に出てみるともっと変わりますよ」
「外ですか。そういえば――出てませんね」

 魔王城の離れに来てからの俺は基本休みなし。いや、ちゃんと休憩の時間とかはあるが。ルーナの傍にいるということは基本休みはない。普通なら交代する人がいるだろうが。ここは3人しかいない。
 それにソフィは、俺がしていないこと。例えば――食材や日常的に必要なものを買いに行っている。あと、魔王城から一応送られてくる物資に関しても、量がそれほど多くないときは、ソフィが自分の仕事(魔王城に離れの様子を伝えに行く必要があるらしい)次いでに定期的に取りに行くこともある。
 ちなみにソフィが出かけているのは夜間が多い。最近だと午後もあるが。俺休みなくと言ったが。実際ソフィの方が遅くまで動いてることもあり。ここなかなか大変な職場。でも――悪い雰囲気ではない。むしろかなりいいところを俺は思っている。食事も寝床もあり。さらに少ないが給料もある。ちなみに初めのころ給料がすごく少ないと人間界の職業紹介所で言われていたと思うが。あれ実は人間界と魔界では少しだがお金の感覚が違う。それでも少ないと言えば少ないらしいが――でも、そこそこ貯めれる程度にお金はもらっている。ってか、ほとんど屋敷で過ごしているため少しでもお金は溜まるという。今考えると俺的にはすごく待遇の良い職場なのでね。
 
 そろそろ話を戻そうか。今俺とソフィが深夜に何を話しているのかというと、仕事内容の確認。そしてちょうどソフィが話し出した。これが本題だ。

「――ところで、セルジオ様もどうして今までルーナ様が日中だらだら。ぐーたらしていたか、さすがにこれだけルーナ様と接していたらわかっていますよね?」

 ルーナついてである。
 もちろん俺もそこそここの魔王城の離れで生活をしているので、いろいろ気が付いていた。というか。結構早い段階でわかりソフィには話していたが『もう少し様子を見ましょう』と初めには言われたので、いろいろルーナには気が付かれないようにしていた。

「はい。今までもルーナ様は、夜中に1人で勉強していたんですよね?今は――お昼の後。午後にしているみたいですが」
「してますね。本人は隠しいているつもりでしょうが。ちなみに、私が来る前もずっと1人で行ってきたのだと思います」
「そういえばその時はもちろんバレて――?」
「バレてないですね」
「えっ?」

 あれ?と思う俺はソフィの方を見る。するとソフィがちょうど窓際からこちらへと歩いてきて向かい合うように座った。

「なぜなら、証拠がなかったからです」
「証拠?」
「セルジオ様は何故気が付きました?」

 ソフィに言われて俺は少し考える。思い当たるのは……。

「――それは、朝のルーナ様の部屋ですね。術式の紙が散らばっていましたから。はじめは紙屑いっぱい散らかして何を――と思ったらよくよく見ると……」
「そうです。部屋の紙屑を見れば一目瞭然ですね」

 俺が答えるとソフィがルーナの書いた紙を少し机の上に出した。間違いなく俺が良く見ている紙屑だ。
 これは朝のルーナの部屋。今では午後の後部屋に入るとある物なのだが。この紙屑はルーナ様が書いたであろう。術式。魔方陣だった。

「あれで隠せていると思うルーナ様もですが。何故に自分しかわからないと思っているのか。むしろこの世界なら簡単なものなら、小さな子でもわかるのに――頭が痛くなります。ちなみに前の方にバレていなかったのは、ルーナ様が紙に書くようになったのは私が来てからです」
「なるほどだから前の人たちは気が付かなかったと」
「頭の中がガキなのですよ」

 ソフィが少し頭を抱えながら話す。にしても今日も次期魔王よりソフィの方が強そうに見える。

 とにかくだ。ちょっとルーナの抜けているところ?というのだろうか?ルーナはこっそり勉強をする。そしてそのあとは散らかしっぱなし。多分本人は丸めたりしているのでバレない――とでも思っているのか。
 でも今ソフィが言ったように。この世界魔術が使えるのが当たり前なのだ。いろいろ書いた紙を見ればちょっとした落書きではなく。勉強というのはすぐにわかるのだ。
 
「あはは。って、それなんですが――あの部屋には勉強と言っても本など、参考になりそうなものが何もないと思うのですが?」
「ありませんね。私もルーナ様にそのようなものは、頼まれたことがないので買ってくるわけにもいきませんし。今までの資料からしてもそのようなものをこの屋敷に置いた痕跡はありません」
「ということは、ルーナは今も今までも――独学というのか。多分自身の記憶?を頼りに勉強をしていると思うのですが――部屋に散らかっていた紙屑を片付けている時に見るとどうも――構築が甘いと言いますか」

 少し触れておくと、ルーナの術式。知識はかなり少ない。あと偏りがある。少し事情は聴いているので仕方ないと言われたら仕方ないのだが――でもあれだけ頑張っているのを見ると――だ。

「ですね。間違ったまま覚えている所もかなりあるかと思います。あれでは魔術が使えても何も発動しないことばかりでしょう。そこでです」
「はい?」

 するとソフィの表情が変わった。どうやらここからが今日この場に俺を呼んだ本当の理由らしい。

「セルジオ様がルーナ様のとなっていただけないでしょうか?」
「へっ?先生――って、いや、魔術に関しては……」
「大丈夫です。セルジオ様が魔術を使えなくても、人間界の学校ではトップだったことを知っています」
「それは――ですが。ちなみに前に話したように、卒業はしていませんが」
「ホント、人間界は融通の利かないところですね。まあ魔王様のところもですが――ちなみに少し前に触れたかと思いますが。ルーナ様は通うことすらできませんでしたが」
「そうみたいですね」

 これは少し前にも俺は聞いたこと。俺は学校には行けていた。しかしルーナは魔界の学校すら……行かせてもらえなかったらしい。

「お父様たちが許可しなくて。魔術が使えないことがバレたら――ですからね。バレているのに」

 魔王様のところは魔王様のところで難しいというのか。ルーナも悔しい。または複雑な気持ちだっただろう。話を聞く俺も複雑な気持ちとなった。

「そりゃ噂は既に――でしたが。次期魔王様が本当に魔術が使えないということが広まりますからね。それを魔王様たちは避けたのでしょう。通わせないということでさらに憶測が広がることは考えなかったのか――ですが」
「どこも――大変ですね」
「でも――そろそろ事を起こさないとですね。あまりのんびりはできません」
「はい?」

 するとソフィさんが気になることをつぶやいたが。『事?』と俺が聞き返す前に話を続けていた。そして先ほどの話に戻ってきた。

「セルジオ様」
「はい?」

 急に立ち上がるソフィ。少し驚きつつ俺はソフィを見ている。すると――。

「セルジオ様。ご協力を」
「協力?」
「ルーナ様がセルジオ様に魔術。勉強に関して相談するようにこれから仕組みます。そのあとは、セルジオ様に先生をお願いしたいのです。私よりセルジオ様の方が適任ですので」
「それは――まあできなくはですが。そもそもルーナ様をその方向に――って、ソフィさんも十分できるような……」
「いえいえ。ここはセルジオ様に。それに――私を誰だと?その方向にもっていくなど簡単です」

 どや顔のソフィさん。かなり自信があるようだ。というか。少し前からわかっていたが。俺は新しい仕事が増えるみたいだ。
 もちろん雑用係の俺に拒否権などはないので――この後俺はすぐ返事をして、ソフィに今後の話を聞いたのだった。

 ちなみに――事?だったか。ソフィが何を気にしてるかは上手にはぐらかされたのだった。
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