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第3章 セルジオの新しい日常

3-3 次期魔王様笑う

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 ソフィと真夜中の会議をしてから数日後の夜。

 俺はというと、いつも通り自分のすべきことをして、ルーナが行動を起こすのを待っていた。しかし今のところまだルーナが俺に声をかけてくる様子がないため。そうだ。自分の事。現状でも触れておくと。ここでの生活もかなり慣れてきて、次期魔王様。ルーナともやっと信頼関係?ができてきたと思われ……。

「……」

 あれ?どこからか視線?って、ルーナ?あっ、そういえば――今日は朝からルーナに見られている気がする。自分の事を話そうかと思ったが。それは中止しようか。

 今日の事を改めて俺は思い出してみる。
 確か――朝起こしに行った時は、今日もちゃんと起きていた。そして……そういえば、何か言いたそうな様子だった気がする。でも結局ルーナは何も言ってこなかった。そして朝から昼にかけてはバタバタするので、朝。昼と時間が進んでいっていた。
 さらに、夕方も珍しく。ルーナが部屋の外に居て、俺の方をちらちら見ていたりした気が――でも俺の記憶的にはやっぱり何も声をかけてくるとかはなかった。俺は俺で料理とかいろいろすることがあったし。そもそも俺がルーナに声をかけるはほとんどなかったのでね。

「……」

 そしてよくよく今もちょっと周りを気にしてみると、ちらちらルーナがこちらを見ては――目があいそうになると明後日の方向を向いていた。なにこれ……気が付くとすごく気になる。
 ちなみにその様子にソフィも気が付いていたみたいで。このあと、ルーナの居ないところで声を我慢して笑っていた。余談だが。この屋敷は場所によっては、声を出すとルーナの部屋に聞こえるからだろうからソフィ一応場所を選んで――らしい。ちなみに今でも調理場に居るとよくよく頭上から声が漏れてきている。

 とにかくだ。現状を整理すると、ルーナがこちらを気にしている。もちろんそれに気が付けば、ルーナがなのをしたいのかは検討が付いている。勉強の事だろう。
 ソフィがどのように、ルーナに話したのかはわからないが――俺はどうすることもできない。俺が声をかけてしまっては――なのでね。ソフィの考えはルーナが行動を起こす。という風にもっていくと聞いていたので、俺ができることは声をかけられるのを待つだけだ。

 結局その後は、あっという間に深夜となった。もちろんもうルーナの就寝時間になっているので、少し前にルーナは自分の部屋に入ってしまった。

「――何もなかった」

 ルーナが部屋に入った後。俺は翌日の朝食の下ごしらえをしつつ。ふと、そんなことをつぶやいていると、ソフィがや調理場へとやって来た。それも小声ながら少しわらいながら。楽しそうに入って来た。

「いやー、さすがルーナ様。1日無駄にしましたね」
「つまり。今日のちらちらこちらを見てきていたルーナ様の行動は、この前の事が関係していると負いうことですね」
「だと思いますよ?または、ついにルーナ様に恋心――は、ないですかね。あのルーナ様に」

 適当な事を言うソフィ。それは絶対ないだろう。ルーナが俺なんかのことを男と見ている可能性は――というか。人間を相手にするとはなのでね。今は雑用係とか思っているだけだろう。それでもそこそこ初めよりかは関係が良くなっているとは思うがね。でもソフィがいうようなことはないだろう。

「――それ本人の前で言ったら大揉めですよ?」
「セルジオ様の方はいかがですか?ルーナ様かわいいじゃないですか。どうですか?」
「いや、俺人間ですよ?」
「別にそんなの関係ないと思いますが。で、どうですか?」

 どうやらルーナが行動をなかなか起こさないから。暇つぶしがてら俺がソフィさんにいじられているようだ。

「あのですね。恐れ多いと言いますか。俺は今働けている。生きているだけで十分です」
「なんとまあ。セルジオ様もなかなかですね。って、セルジオ様。ワインありますか?ルーナ様だと数年単位で待たないといけないかと思うと――一度リセットしたくなりました」

 これはちょくちょくあること。ソフィは基本お酒が好きで、夜にこうしてお酒を頼んでくることがある。どうやらルーナの前では我慢?しているらしい。

「ソフィさんはお酒好きですね。って、ここではソフィさんしか飲まないので、ソフィさん自分で好きなように飲んでもいいと思うのですが――自分で買ってきていますし」

 お酒に関しては、ソフィさんしか飲まない。そのため、ソフィは外に買い物に行くと自分の分をちゃっかり買ってきて、調理場に置いている。

「準備って面倒じゃないですか」
「……」
「あっ。おつまみもあれば完璧です」
「――ここはお店?えっと――チーズなら」
「よろしくお願いします」

 今気が付いたのだが。もしかすると、いつの間にか俺の仕事は増えていた?ソフィが部屋ではなく。調理場にお酒を置く理由。そして俺が明日の準備をしている時にちょくちょく来る――ここお店だったか?

 とにかく、俺は言われたことをするだけ。明日の準備をしつつ。ソフィの注文にも答えた。その後はソフィは1人でのんびりリラックスすると自室へと戻ったので、俺も自室へと戻った。ちなみに余談だが。ソフィの部屋は1階にある。どんな部屋かは見たことないが。一番奥の部屋がソフィの部屋となっている。ソフィも謎が多いが――俺が知ることはそう簡単にはないだろう。
 
 ソフィと別れて、自室へと戻った俺は着替えを持ってから風呂へと向かった。そう、風呂に関しては、ちゃんと俺の入る時間も作られているのだ。深夜の時間が俺の時間。基本ルーナが夜。ソフィは朝が好きらしく早朝入っているらしい。
 毎日風呂に入れるのはとても気持ちよかった。働いた後の――である。そして、風呂に入り疲れを癒した後は寝るだけ。自室へと戻りベッドに横になる――そして目を閉じようとした時だった。

 コンコン。

 とっても小さなノック音が聞こえてきた。それは扉からではなくから。

 コンコン。

 俺は横になりながら壁の方を見つつ『気のせい?』と思っていると、再度壁からノックする音が聞こえてきた。今俺が見ている壁は――ルーナの部屋の方だ。

「――?」

 1度なら何かぶつかった?だけなどと思うが2回音がしたため俺は起きあがり。ルーナ様の部屋に向かう。
 もし違ったら――だが。何かあったのかもしれないので、俺は小さな音でドアをノックしてみた。

 コンコン。

「――ルーナ様?」

 そしてノックの後小声で呼びかけると――多分ドアの近くに居たのだろう。ガチャ、と。すぐにドアが開いた。そして、光が廊下に少し漏れる。どうやらルーナの部屋はまだ明かりが付いていたので、ルーナは寝ていなかったみたいだ。
 すると、ちらりとルーナの姿が見えた。

「その――セルジオ。ちょっと――いい?」

 そして、頬を少し赤くし。もじもじと恥ずかしそうにルーナが小声で話しかけてきて、そのまま俺を室内へ引っ張ってきた。
 俺が部屋に入るとルーナはすぐにドアをそっと閉めた。どうやらソフィには気が付かれたくない様子。ちなみに――気が付かれている可能性は高いが。それはもちろん言わない。隠そうと頑張っているのでね。

「ごめん。セルジオ。寝てた?」
「いえ、少し前にお風呂から戻ってきたところで起きていました」
「よかった。えっと――その、今から言うことはソフィには内緒なんだけど」
「――はい」
「――えっと……」

 沈黙。

「ルーナ様?」
「ちょ、ちょっと待って」
「あっ。はい。ごゆっくり――?」

 もじもじと言いにくそうにしているルーナ。
 ちなみにソフィとこの前話していなかったら。この今のルーナの様子を見ると。まるで告白――いや、そんなことはないと思うけど。そのように感じる変な空気。雰囲気だった。そして、静かな時間が数十秒後……。

「その――セルジオ。賢いの?その勉強。魔術とか――い、いろいろ」

 やっと話が進みだした。意を決して。といった感じでルーナが話し出した。

「えっと――一応人間界の学校ではトップでしたが。もちろんルーナ様も知っての通り俺も魔術が使えないので意味なし。宝な持ち腐れみたいな状態ですが一応は」
「その魔術の術式?構築?魔方陣?とかは――」
「一応全て把握はしています」
「中級。上級も?」
「これは前にも言ったかもしれませんが。ホント、俺は全く使えませんが上級魔法まで一応知識はありますよ。例えば――」

 聞かれることをなんとなく予想できていた俺は、すらすらと予定通り話すことができた。

「――す、すごいじゃん。後半何言ってるかわからなかったけど――すごいのはわかった気がする」

 そして、俺が自分のことを少しだが。そのあと話すと、ルーナはかなり驚いていた。なお、驚きでルーナの話が止まってしまいそうだったのですぐに俺が話を戻す。

「あっ、すみません。話し過ぎましたよね。それでルーナ様は俺に何を?」
「あっ。えっと――その。私も魔術使えないけど――知識くらいは――あってもって思っていて、それで……それで――ね」
「――」

 かなり言いにくそうにしている。そりゃ、今までルーナもいろいろ言われてきただろうし。俺が同じく魔術が使えないと言っても。初めての事だろうし。言いにくいのだろう。だから俺はゆっくり待った。

「えっと、外部から呼ぶのは――だから。そのセルジオ。雑用係の一部として……勉強教えてもらうとか――ダメかな?」
「いえ、喜んで」

 やっと聞かれたー。と、思いつつ俺は答える。
 ソフィ。進みだしたよ。と心の中で思っていると。

「――そうよね。ダメ――えっ?」

 ちょっとちょっと、ルーナよ。何を勝手にダメパターンで予想していたのか。
 そもそもだが。俺がルーナの命令に従わないとか。その選択肢の方がないのだが。ルーナはそのことを忘れてないか?俺単なる雑用係で、ルーナは次期魔王様なのに――大丈夫かな。心配になって来た。

「大丈夫ですよ?お手伝いします」
「ほ、本当に?」
「ええ」
「じゃ、じゃ――その、今から」
「――えっ?」

 いやいや、ルーナよ。今深夜ですから。とはもちろん俺は言えなかったが。すぐにルーナも時間に気が付いたらしく。手を身体の前でわたわた振りだした。

「あっ、そ、そうだ。今夜。えっと――それだと起きれないから。その明日。午後とか――ダメかな?」
「はい。大丈夫ですよ。午後はそこまで俺することがなかったので」

 これは事実だ。午後になるとルーナはいつも部屋に籠っていた。だから俺は室内の掃除とか。その他気になったことをしたり。ソフィの手伝いを――だったので、することができるのは良いことだった。

「――あはは」
「えっ?どうしました?」

 俺がさて、明日からどうなるのか。どうするのが良いか。とりあえずはルーナの確認。などなど思っていると。急にルーナ呆れたように?笑い出した。

「あはは、いや、なんだ。こんな簡単にならもっと早く――相談すればよかったなー。あははー」
「ルーナ様?」

 何か緊張の糸が切れたみたいに、ルーナはまるで俺に対して同級生。上下関係なしというのか。自然な形で話し出した。

「――そのね。セルジオは知らないと思うけど――実は私ずっと、1人で魔術の勉強していたの」
「――」

 知ってました。とはもちろん言えないので、表情を変えず話をとりあえず聞く俺。

「でもね。この屋敷には、本とか勉強に仕えるもの何もなくて――その――ずっとやみくもに、昔魔王城で見たりしたことを思い出しながら、勉強するだけだったの」
「そうでしたか」
「――あー、そうだよね。セルジオなら私なんでも頼んでよかったし。秘密にしてもらえばよかったんだよね。もっと早く頼ればよかった。目の前に私よりずっと賢い人がいたのに」

 ルーナ。やっぱり俺に命令できるということを忘れていたらしい。いや、忘れていた方が俺的には良かったのか。最悪の出会いだったから――あそこで『死ね!』って言われたら俺今生きていないからな。だな、ルーナ。忘れていてくれてありがとうと。心の中で言っておこう。

「――ルーナ様の力になれるように頑張ります」
「ありがとう。セルジオ。そしてよろしく」
「はい」

 この夜の出来事から少しずつルーナは変わりだしたのだった。
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