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要塞建設

5-1 守りを固める

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 ミアが行方不明になった頃。
 ヴアイゼインゼルの魔王城の離れでは、無事にニーナはセルジオの家族?ということにまとまり(1人納得していない元次期魔王様が居たらしいが)。それは強制的に黙らされた。なぜなら、今はとある話し合いが必要となったからだ。

 ◆

「率直に申し上げますが。再度の攻撃の可能性があります」

 魔王城の離れの一室。ルーナの部屋にソフィによって集められたセルジオ。ニーナ。そしてルーナの前でソフィがそんな発言をした。
 そしてソフィはさらに話を続ける。

「ここ数日待ちの人より。境界線。まあ今は正確なものはありませんが――でもこの町の外で何らかの動きをしている姿を見た。という報告がいくつか上がってきています。そして日に日にその目撃情報は増えています」

 そう言いながらソフィは窓の方を指さす。
 その方向は――ユーゲントキーファー。この土地と同じ魔界である。しかし少し前にこのヴアイゼインゼルを攻撃してきたところの1つである。その爪痕はまだ多くの場所で見ることができる。現に今この窓からも少し離れたところはまだ攻撃の爪痕が少し残っている。

「さらに――あちらの方向でも市民の方々から不穏な動きをしている人を見たという声があります」

 セルジオ達がユーゲントキーファーの方を見ていると、今度は反対側のちょうど壁に当たる方を指さすソフィ。
 その方向は人間界の的がある方向。以前セルジオが住んでいた場所でもある。ここしばらくは全く人間界の土地には足を踏み入れていないが――そもそもセルジオは踏み入れようともしていなかったが。
 とまあセルジオのことはちょっとおいておき。こちらの人間界側からもこの町。ヴアイゼインゼルは攻撃を以前受けている。
 つまりだ。現在この時は挟み撃ちをされてもおかしくない状況だということである。
 ちなみに先に言っておくが。現段階では以前のような攻撃を受けたとかそういうことはまだない。
 ヴアイゼインゼルの町の人も少しずつだが。以前の生活を取り戻しつつ――という状況である。

「もう、なんでよ。なんでそんなことにすぐなるわけ?ってか、やっとこの町は立ち直りかけてるのよ!?」

 すると、ソフィの話を聞いていたルーナが声を上げる。
 
「まあそりゃルーナ様が邪魔だからでしょうね」

 そしてルーナの問いにさらりと答えるソフィ。 
 言っていることはなかなかの内容だが。今この場に居る人。またはこのヴアイゼインゼルの人の多くがわかっていることでもある。

 明らかにルーナが邪魔などということは、特に向こう側。攻めてきている側が何か言ってきたわけではないが。
 状況を見れば明らかである。というか。今このヴアイゼインゼルの町で一番力があるのはルーナくらいである。もちろんソフィの強さも化け物級ではあるが……。

「私が何したのよ!」
「無能」
「それは過去よ!」
「まあ今も私の方が上」
「それはそれでちょっとおかしいんだけどね。って、この前はなんかいいところまでいったから!」
「いえいえ、まだまだ私が本気になればこの土地くらい丸焦げにできます」
「ソフィが一番危険よ!って身内が一番危険ってどういうことよ!」
「ルーナ様が弱っちいですから」
「そこ!ってか、私の方が上!この町の長は私」
「以前は次期魔王様と言われた方が――長にまで落ちるとは……人生わからないものですね。って、私はわかっていましたけど」
「めちゃくちゃ言ってくれるわ――ね。って、ちょっとソフィ、なんで私がこんなことになるって知っていたような素振りなのよ!まさか本当にスパイ!」
「はぁ。何を言いますか。私は魔王城と行き来していたのですよ?それくらいわかりますよ」
「わかっていたなら言え!」
「だからそれに関してはこの前お話ししましたよね?魔王城の方に行く機会が減っている時にされたため。確証を得た時にはもう動いていたと」
「肝心な時に使えないんだから!」
「緊急事態直前まで無能っぷりを発揮していた人が良く言います」
「あー、無能無能って」
「元無能がよろしかったですか?ふふっ」
「無能を消せ!ってか笑うな!首にするわよ!今はセルジオも――ニーナもいるんだから。ソフィが居なくても何とかなるわ!」
「あっ、そうそうルーナ様。別によろしいですが。私の見立てでは、間違いなくニーナ様は表舞台に出ればそれはそれは面白いことになると思いますよ?」
「何よ。面白いことって」
「それは言えませんね」
「ソフィ。絶対まだ何か隠しているでしょ」
「いえいえ、ルーナ様の秘密くらいしか」
「そんなのないわよ!」
「ありますよ?とりあえずルーナ様のおねしょ記録でも公開しましょうか?」
「やめい!って、そんなのないから!」
「ありますよ?」
「ないわよ!ってか、セルジオ居るでしょうが!」
「まあ知りたいかも知りたいかもしれませんよ?」

 (そんなことありません)

 これもいつも通りと言えばいつも通りのこと。
 一応再度攻撃があるかもしれない緊迫した状況なはずなのに、ルーナとソフィさんが言い合いを始めると俺は全く口を挟むことができなかった。
 一応心の中では反応できることはしたが――いや、つい先ほどやっとしたか。

「そんな断るわけないでしょう!」
「なら聞きましょう」
「やめんか!」
「まあ今でも十分聞こえていると思いますが――あっ。詳細を発表しますと――」

 (いや、だから聞きたくないと言いますか。聞きたいとは一言も言ってないですし。そもそも俺声を出してもないです)

 周りが大変にぎやかなのはいつものこと。 
 ちょっと予断を言うと確か昨日も似たようなやり取りを2人はしていた気がする。
 確か――『ルーナ様の弱点』だったか。ソフィさんがそんなことを楽しそうに話していたような……もちろんルーナが必死に止めてそのあと――2人で何かドタバタしていた気がする。

「――ねえねえセルジオお兄ちゃん」

 すると、俺の横に立っており。こちらもここ最近はいつも通りであろう。2人のやり取りを大人しく聞いていたニーナが小声で話しかけてきた。

「どうした?」
「今ってこんな話していていいの?」

 まさかのこの場で一番年下。最年少――あれ?それでも確か少し前にソフィさんがルーナとニーナはそれほど年齢は変わらない――とか言っていたからそこまで年は反れてないんだっけ?
 未だにニーナは俺のことを呼ぶ際にお兄ちゃんをつけるのと。見た目が幼く見えるからか。なんかギャップではないが。変な感じがする。って、ニーナの見た目に関してはちょっと後回しだな。

「全くだな。今攻撃でもされたらせっかく元の日常に戻りつつあるのに――」
「だよね。みんな困るよね。私も何か手伝った方がいい?」
「確かにニーナが手伝ってくれるとかなり助かるな。俺じゃ何にも――だから」
「そんなことないよ。セルジオお兄ちゃんも毎日頑張ってる」
「ありがとうな」

 騒がしい中。こちらはほのぼのとした会話を続けていた。
 ちなみにニーナはここ最近俺と共に普段は動きつつも。ルーナとの勉強というか。まあソフィさんともだが。空き時間はいろいろ自分のことを思い出すため――と、いう一環でニーナもいろいろ練習。勉強をしている。
 そしてさすがにルーナやソフィさんには及ばないが――それでもこの町ではほぼトップレベルに近い魔術が使えたりする。特に道具――というべきか。今のところ詳しくはわかっていないのだが。ある条件下ではルーナに負けない力が出ることもある。というか、ソフィさんが言っていたが。道具に対して魔術――魔力を?だったか。他人?に対してだったか。自分ではなく誰かのために――というときに真の力が出ているのではないか?ということを少し話していた。
 確かにニーナは謎が多い。人間の見た目――ではなく魔族。角があるが片方だけという今のところニーナ以外には見たことがない。
 そしてニーナ本人が過去の記憶をなくしているのか忘れているのか。曖昧なところが多く。ほんと君は誰?であるからだ。

 これで実は敵でした。

 ということはないとは言い切れないのだが……でもここしばらくニーナと共に多くの時間を過ごしている俺は特にそんなことは感じない。
 むしろ――俺たちに大変近いというか。なんかふとルーナに近いものを感じることがあるような……ないような‥…である。
 
「やめろ!!!!ってか、ソフィまず倒してから周りのことは考えるわ。ソフィ!今から勝負」
「受けて立ちます」

 俺とニーナがコソコソ話していると、俺たちの前でいつも通り揉めていたソフィさんとルーナが外に飛び出しそうな勢いで話を進めていたのでさすがに俺は口を挟んだ。

「あの――敵と言いますか。怪しい動きを周りでしている人たちはどうするんですか?」
「あと!」
「だそうです!」

 しかし。俺の声では2人は止まらなかった。
 というかルーナが止まらなかったというか。時すでに遅かったというか。もう部屋を出て行くところで俺が声をかけたので、一言返事をした瞬間には姿がなく。それを追いかけるようにソフィも消えて行ったのだった。

 そして少しすると――魔王城の離れの裏。空き地となっていうところで何やらドンパチが始まった。
 多分ちらっと窓から外を見ると2人が戦っている様子が見るだろうが――いつものお決まりだとそのうちソフィが帰って来るだろう。

「「はぁ……」」

 ということで、俺はニーナと共に一度ため息。
 ニーナもわかって来たというか。悪い。こんなところでである。
 心の中でそんなことを俺は思いつつ。このあたりの地図を机の上にとりあえず出した。多分だが。この後地図を使っていろいろ確認すると思うからだ。

 地図を広げると今は小さくなってしまったヴアイゼインゼルの町が書かれている。
 攻撃を受ける前の半分以下。いやもっと少なくなったか。魔王城の離れ近く以外は瓦礫の山だからな。
 地図で見るとヴアイゼインゼルの受けた被害の大きさがよくわかる。

「こっちと――こっちから来ているんだよね?」

 すると、俺の広げた地図を見つつニーナがつぶやく。

「そうだな。こっちにあるユーゲントキーファー。魔界で。そして反対のヴアイデとかがある人間界だな。ほんとこう見ると本当に挟み撃ちというか。よく今この町残っているなと思うよ」
「――」

 俺が地図を見ながらつぶやいていると。ニーナは何か考えつつジーっと地図を見てから――。

「とりあえず。守りを固めるくらいしかできないよね?特殊な形は作るのは難しいから――この離れの周りを丸く穴を掘る?でもそれだと上からの魔術がダメだよね」
「――どっかに行った2人よりはるかに真面目にこの町のこと考えているニーナだった」
「へっ?」
「あっ。悪い。なんでもない」

 勝手にまとめてしまった。
 いやこういう時こそルーナが仕切ってなのに。ルーナは不在。そしてソフィさんも――って。外が静かになったな。そろそろ戻って来るか?
 とにかくだ。一番真面目にヴアイゼインゼルのことを考えるニーナだった。
 って、またまとめてしまった。などと俺が思いつつニーナと共に地図を見ていると――。

 コツコツ。

 足音が聞こえてきて、俺がドアの方を見ると、ソフィが1人で部屋へと入ってきた。
 ちょっと軽く運動でもしてきました。というような素振りを見せつつ。少し身なりを気にして――俺たちのところへ。

「では、今のニーナ様の案をお借りして――」
「サラッと入ってきましたね」

 普通に仕切るソフィだった。

「時間があまりありませんのでね」
「その割には――って、ルーナは?」
「すっぽんぽんで伸びています」
「……それはいいのか」
「セルジオ様のお迎えをお待ちかと」
「絶対行ってはいけない状況ですよね」
「大丈夫ですよ。見られたいんですか」
「誰が見られたいとか言った!って、そんな姿なってないわ!泥まみれになっただけ。されただけ!」

 すると、ドロドロのルーナが部屋へと飛び込んできた。
 こりゃ後で廊下の掃除が必要かもしれない。

「――ルーナ。まず綺麗にしてきては?」
「――あっ、ごめん」

 俺が声をかけると、ルーナは自分の姿に気が付いたらしく。そのまま再度部屋を後にした。

「ほんとセルジオ様の前だと大人しくなって――」
「ソフィさん。時間がなかったのでは?」
「そうでした。ということで、とりあえず。要塞作りましょうか」
「それ無茶と言いませんか?」

 要塞を作る。それは明らかに時間も人も足りない。
 足りないと俺が思って声をかけたが――。

「いえいえ、それに関してはすでに町の方々に準備していただいていますので、後は私とルーナ様ニーナ様でちょっと魔術を使えば完成するでしょう」
「……」

 そういえばそうだった。
 ここに居る俺以外はどんどん強くなっている。というか。そもそも強かったソフィがこれ以上強くなることは――ってか、そうだよ。先ほども触れたが。ニーナ。ニーナの力も大きい。2人の作業にニーナが加われば。ソフィの言う通り強化されるというのか。威力が変わるからな。地の魔術とか使ったら壁簡単にできそうだ。それに風の魔術も強化できるだろうから――上からの攻撃がもしあっても何とかなりそう――というか。なってしまいそうだ。

 そして俺は――何もすることがないという。
 
「――セルジオお兄ちゃん?」

 すると、ニーナが心配そうに俺を見てきた。いや、慣れていることだ。俺はこれが普通。ということで、すぐに頭の中を切り替える。

「ほんと。セルジオ様もそろそろ爆発してもいいのですが――何がきっかけなのか」
「あのソフィさん。俺が爆発したらそれは死を意味すると思うのですが――」
「大丈夫でしょう」
「まったく大丈夫じゃないと思います」

 とまあなんやかんやと無駄なことを話しつつ。いろいろ話が脱線しつつも。今回集められた話の結果。とりあえずヴアイゼインゼルを守る。人々を守るために要塞を作ることが決定し。そのあとなんか話の輪に入れていなかったような気がするルーナが戻って来てから3人が外へと要塞作りへ。
 本当はここまでさっと行動出来た気がするのだが。長かったな。
 そんなことを残された俺は思いつつ。そのあとは廊下などをドロドロ。というか。土まみれにしてくれたお方が居たので、その片付けをすることになったのだった。
 まあこれが本当の俺の今の仕事と言えば今の仕事なのだが――そうだな。これをちゃんとしないと俺いつ消されてもわからないよな。頑張ろう。

 そしてこの後俺が片付けを終えて外を見ると――ヴアイゼインゼルの町というのか。魔王城の離れを囲むように壁が完成していたのだった。
 もちろん町の人も驚いてみんな口を開けて眺めていた。俺もその1人だったが。
 って、ほんとあの3人すごい。 
 俺――マジで居る意味あるのだろうか?と、思っていると、ぐったりしたルーナが戻って来たので、慌てて支えに行くことになった俺だった。
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