ヒロインはヒーローに憧れる~五分間だけ英雄になれる能力をいただきました~

如月美樹

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 翌朝までたっぷりと寝た多美江は、ぼう~とした頭でベッドに座っていた。
「いつもより寝過ぎて・・・身体が痛いって、どういうこと?」
 十五歳で芸能界デビューした多美江は、瞬く間に人気者になりその道が陰ることもなくまっしぐらに突き進んだ。
 寝る時間も三~四時間などということはざらにあった。
 なので明るい内に寝て、そして翌朝遅くに起きることなど中学に通っていた時以来のことだ。
 両手を高く上げ、軋んだ身体を伸ばす。
 ボキボキなるのが快感だ。
「なれないことはしないに限るな・・・。でもさすがにお腹空いた」
 作りたくはないが、ここには食材しかない。仕方がないので、台所に向かう。
 冷蔵庫を開けると。
「あれ?」
 昨日確かに飲んだはずのミルクティーがあった。
 もしかしてこの冷蔵庫は魔法の冷蔵庫なのか? 自動的に補充されるって、どういうシステムだ?
「これも死神善処?」
 それは助かる。というかめちゃ嬉しい。もう飲めないと味わいながら飲んでいた大好きなミルクティーが、これからも飲める!
 ならばこの中にある食材も同じなのかもしれない。
「女の子が一人でも暮らしていけるチート・・・?」
 有り難くいただこう。
 食材をふんだんに使い朝食を作る。そして美味しくいただきました。
 面倒くさくはあるが、多美江は一応一通りの料理はできる。なかなか外での食事ができない人気者だったので、自然にやるようになったのだ。食材はマネージャーの佐々木が手に入れてくれた。
「佐々木さん・・・・・・大丈夫だったかな?」
 死ぬのは佐々木のはずだったと、死神が言っていた。多美江がその代わりに魂を刈られたのだから、死んではいないはずだ。・・・多分。
 顔も洗って歯も磨き、衣服を昨日と同じようなものに着替える。
「洗濯機も欲しいね。もしかしたら・・・あるかも」
 ちろりと、昨日背負っていた小さなバッグを見る。
 だけどまだ替えの服もあるし、とりあえず今日の内に魔獣の森を出たい。
「死神長官ボーガンさん、説明書下さい」
 多美江が声を上げると、目の前にぼわんと煙るが出て説明書が現れた。
「街までの道は魔法でわかるのかな?」

 おはようございます。貴女の能力でできるはずです。

「あ、おはようございます」
 説明書に挨拶された。
 死神長官に繋がっているとはいえ、声ではなく文字だというのが何とも寂しい。
 そして今一番気になっていることを聞いてみることにする。
「あの・・・、この世界の説明ではないとはわかっているのだけど・・・・・・。気になるから聞いてみますね。・・・佐々木さんは死んではないですよね?」
 説明書が黙り込んでしまった。うんともすんとも文字が出てこない。これは拒否されたと考えた方がいいだろう。応えられないこともあるのはわかる。死神協定とかありそうだし、まさか長官であるボーガンがそれを破る訳にもいかないだろう。
「あ、もし応えられないのならそう言って下さい」

 ・・・・・・。彼は生きています。貴女が代わりに魂を刈り取られたので、貴女が送るはずだった余生が彼にそのまま移りました。

 では彼は長く生きてくれるだろう。でも自分が運転する車で多美江が死んでしまって、精神的には大丈夫なのだろうか?
「佐々木さんは、大丈夫ですか? 泣いてない?」

 彼の事故時の記憶はなく、貴女が死んでしまったということは聞いてしまったようなので泣いて、今は茫然としながら日々を送っている様子です。しかし恐怖心とかはないとは思います。記憶がないので・・・。

 多分、説明書的には応えてはいけないことなのだろう。多美江が読んだ傍から、たった今現れた言葉が消えてなくなっていく。
 昨日の会話はそのまま残っているのに・・・だ。
「ありがとうございます。応えにくいことを聞いてしまってごめんなさい。ボーガンさんに害はないですか?」

 大丈夫です。私の上官である冥界の長が直接貴女には善処するようにと厳命が下っているので、罰はないと思います。

 思いますってとても頼りない言葉だけど、もう聞いてしまったものは仕方がない。あとは本当に彼に厳罰がないことを祈るしかない。
 この話は終わりと笑顔で説明書に向かった。
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