ヒロインはヒーローに憧れる~五分間だけ英雄になれる能力をいただきました~

如月美樹

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 対して時間をかけずにケルベルスの皮を剥いだローレルを待ち、皆で意気揚々と魔獣の森を闊歩した。皆大物を仕留めたことで、興奮状態だった。まだ魔獣の森を出てもいないのに、呑気なことだ。
 そして何故かまたも多美江は、ギルラスに抱えられての移動だ。
 魔獣の森をようやく出て繋いでいた馬に跨ろうとした時、ローレルが抱えるケルベルスの毛皮が目に入る。
 てっきり頭も持ってくると思ったのに、それがない。
「あれ? 頭は?」
 皆が怪訝そうな顔で、多美江を見る。
 確か地球のお金持ちは、虎とかの毛皮を頭付きで持っていたような気がする。防腐加工とかしないと駄目なので、この世界では難しいのか?
「ターミャちゃん、結構恐ろしいこと言うね」
「え・・・?」
 お金持ちのバロメーター。頭部付き毛皮の敷物は恐ろしいものなのか?
 先程までケルベルスを退治出来たことに喜んでいた冒険者たちが、顔色を青褪めさせている。
 多美江から見れば、血がドパ~ッ! 状態の方がホラーなのだけど。
 多美江はギルラスを見上げて、首をこてりと傾ける。
「私・・・また、変なこと言った?」
「ああ」
 大きく頷かれて、くにゃりと顔を歪ませる。地球の常識は、こちらではホラーらしい。
「か、帰ろう」
 またもギルラスに担がれて馬に跨り、多美江は街まで戻った。
「お帰り~、思っていたより随分早かったわね」
 マリリーネの笑顔が眩しいよ。
 そしてC級以上の冒険者の視線が痛い。
「ターミャのおかげだ」
 確かに偶然とはいえ、ケルベルスを拘束しておいたのは多美江だ。だけどこんなことなら、見たと言わなければよかった。
 猛者ぞろいの冒険者たちから、変態と記憶されるなんて耐えられないよ。
「うぅ~・・・」
「あらあら、どうしたの? ダニーにでも虐められた?」
 多美江の少し後ろにいたダニーが、マリリーネの言葉に驚いて振り返る。
「何で、俺限定?」
 多美江もそう思うが、でも今は庇ってやる余裕はない。
「また変なこと言っちゃった・・・」
「ターミャちゃんはこのギルドの名物ちゃんなんだから、大丈夫よ」
 何が大丈夫なのかわからないが、マリリーネがそう言うのならそれでいいのかもしれない。
 一応事後報告の為一緒にきていたローレルは、簡単に書類に文字をさらさらと書きマリリーネの元へ持ってきた。
「急ぎの仕事があるので、報酬は後日受け取りにくる」
「あら、ローレルさん。一緒だったんですね」
「ああ、途中でギルラス殿と会った」
 本当に愛想もそそけもない。無表情なローレル。
 そのローレルが、何故か多美江を見てにこりと笑んだ。
「また、逢おう」
 そう告げて頭を撫で撫でしてから、大きな毛皮ロールを抱えてギルドを出て行った。
「な・・・、何? 今の破壊力爆発の笑顔は・・・?」
 マリリーネの動揺ぶりが半端ない。
「な、何かあった? ターミャちゃんっ」
「ええと~、・・・よくわからないです」
「はあっ?」
 視線で威嚇されても本当によくわからないのだから、応えようがない。
「ローレルさんはね。妖精族の長のお子さんなのよ。気高く何事にも左右されない誇り高き妖精族が、表情を崩すなんて余程のことなのよ? ましてや、笑顔を向けるなんて・・・」
 熱弁するマリリーネに、多美江は胡乱な目を向ける。だって本当に訳がわからないのは、多美江だって同じなのだ。
「何で何だろうね~?」
 と、年寄り臭い台詞で誤魔化す。
 とりあえず、今日は街に出るのは無理そうだ。
 そして地味にお腹が空いた。
 もう宿に帰りたい。
「ギルラスさん。もう帰ってもいいですか?」
「ちょっと~、もっと詳しく話してよ~。ターミャちゃんっ!」
 何やら必死に叫ぶマリリーネを無視して、ギルラスも応えた。
「ああ、構わないが・・・。ターミャ、俺と一緒に王都へ行かないか?」
「へ・・・・・・?」
 何かまたもや事件が起きそうな予感がする。
 ギルラスの不吉な言葉に、震撼する多美江だった。
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